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新証拠の学習をすすめ広くアピールしよう

「解放新聞」(2017.02.27-2800)

 2016年12月28日、狭山弁護団は、森実・大阪教育大学教授の鑑定書、魚住和晃・六甲筆跡科学研究所所長による鑑定書の2通を新証拠として提出した。両鑑定は証拠開示された取調べ録音テープの筆記場面の分析もふまえて、とくに読み書き能力の観点から石川さんが脅迫状を書いていないと鑑定したものだ。
  森鑑定は、1955年に文部省が当時15歳から34歳までの国民を対象におこなった読み書き能力調査と対比させながら、逮捕当日の上申書や供述調書に添付された図面の説明文字、それが書かれたさいの取調べの音声記録(録音)などをもとに、当時の石川さんの読み書き能力を分析し、脅迫状を書けなかったことを明らかにしている。取調べで警察官の指導を受けながらも、促音や拗音など小学校1年で学習するかな文字表記のルールが習得できていないことを明らかにしたうえで、非識字の状態であった当時の石川さんが脅迫状を書いたことはありえないと結論づけている。
  魚住第3鑑定は、取調べテープのやりとりから、逮捕後の取調べで石川さんが警察官の指導を受けながら、学習を積み重ねており、国語能力がじょじょに発達していることを指摘したうえで、それにもかかわらず、取調べで石川さんが書いた図面の説明文字などの筆跡が脅迫状と明らかに異なるとしている。
  今回の2通の筆跡・識字能力鑑定は、取調べ録音テープや逮捕当日の上申書など開示された証拠にもとづいて、脅迫状を証拠の主軸とした狭山事件の有罪判決(寺尾判決)を根底から崩すものだ。

 さらに弁護団は、1月31日、万年筆の専門家である川窪鑑定人による第3鑑定を提出した。昨年、粘り強い証拠開示のとりくみによって開示された。
  川窪第3鑑定は、昨年証拠開示された調書に添付された記載文字から筆記した万年筆のペン先を鑑定したもので、発見万年筆は細字のペン先(ペンポイント)、脅迫状の訂正文字は中字のペン先であることを専門家の立場から明らかにしている。被害者の万年筆で脅迫状の訂正をし、それを自宅に持ち帰ってお勝手のカモイに置いていたものが自白によって発見されたという寺尾判決の認定の誤りは明らかだ。
 発見万年筆が被害者のものではないことを科学的に明らかにした下山鑑定に続き、発見万年筆が脅迫状訂正に使われたものではないことを明らかにした今回の川窪鑑定によって、寺尾判決は完全に崩れた。発見万年筆は事件とまったく関係のないものということになり、2度の家宅捜索の後に発見された経過のおかしさや自白の不自然さとあわせて考えれば、警察によるねつ造の疑いがさらに深まったというべきである。

 2017年2月8日、東京高裁で第31回三者協議がひらかれた。弁護団は、この間提出した森鑑定、魚住第3鑑定、川窪第3鑑定について、その意義を説明した。検察官は、これら川窪鑑定、森鑑定、魚住鑑定について、反論ないし反証する方向で検討しているとした。下山鑑定については、前回の三者協議で反論・反証を検討しているとしており、今年度中に反論・反証の見通しを示すとした。
  弁護団は、いずれの新証拠も、万年筆、脅迫状という寺尾判決の根幹を崩すものであり、検察官の反論ないし反証が出されれば、再反論するとともに、これら新証拠の意義をさらに訴えていくことにしている。

 この間の新証拠はすべて証拠開示された資料をもとに石川さんの無実を明らかにしたものだ。これまでに187点の証拠が開示されている。粘り強い闘いの成果だが、そのほかの財布・手帳に関する証拠、脅迫状の宛て名の「少時」にかかわる捜査資料、自白の経過にかかわる証拠など重要な証拠開示について、必要性・関連性がないとして応じていない。弁護団の反論を受けて検討するとしており、証拠開示の攻防も続いていることを忘れてはならない。弁護団は、新証拠提出とともに、関連する証拠の開示を求めてきたが、検察官は、「不見当(見当たらない)」あるいは「関連性・必要性がない」として開示に十分応じていない。ただ「不見当」というだけでなく証拠の一覧表を開示すべきだ。脅迫状の宛て名「少時」の意味や被害者の財布・手帳について石川さんがまったく知らず、犯行の体験を語れていないことが取調べテープで明らかになっており、犯人ではないゆえの「無知の暴露」だと指摘する浜田鑑定も提出されている。これらの証拠開示が新証拠と関連し必要であることは明らかだ。そもそも、必要性・関連性がないと検察官が一方的に決めつけ、開示に応じないという姿勢は不公平、不当ではないか。わたしたちは、狭山事件の徹底した証拠開示を訴えるとともに、布川事件や東電事件などの再審無罪の教訓をふまえ、再審での証拠開示の必要性・重要性を訴え、世論を大きくしていこう。

 第3次再審で弁護団が提出した新証拠は188点におよぶ。とくにこの間の下山鑑定、川窪鑑定、森鑑定、魚住鑑定、浜田鑑定などの新証拠によって、万年筆、脅迫状の筆跡、自白の信用性という寺尾判決の有罪の柱が崩れていることは明らかだ。東京高裁は、必ず鑑定人尋問をおこない、再審を開始すべきだ。
  次回の第32回三者協議は5月上旬におこなわれる。次回の三者協議に向けて、下山鑑定、川窪鑑定、森鑑定、魚住鑑定や取調べ録音テープなどの新証拠によって、石川さんの無実が明らかとなり、寺尾判決が完全に崩れていることを広く宣伝していこう。5月には石川一雄さんの不当逮捕から54年を迎える。不当逮捕から54年を迎える5月23日には東京・日比谷野外音楽堂で、狭山事件の再審を求める市民集会が開催される。全国各地で、新証拠の学習・教宣をすすめ、えん罪54年をアピールし、事実調べ・再審開始を広く訴え、要請ハガキや署名活動をすすめよう。


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