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狭山事件から55年、映画「獄友」上映運動を各地ですすめよう

「解放新聞」(2018.02.26 -2848)

 映画「SAYAMA みえない手錠をはずすまで」を作った金聖雄監督が、袴田事件の映画「夢の間の世の中」に続いて製作したドキュメンタリー映画「獄友(ごくとも)」(製作・キムーンフィルム、115分)が完成した。金監督が狭山事件の取材で石川さんと出会い、映画を撮るなかで、足利事件の菅家利和さん、布川事件の桜井昌司さん・杉山卓男さん、袴田事件の袴田巖さんらえん罪被害者と出会い、その闘い、生き方や思いを描いたドキュメンタリーだ。「獄友」とは、えん罪と闘う仲間、同じ東京拘置所や千葉刑務所で獄中生活を余儀なくされた友という意味だ。

 狭山事件の石川一雄さん(79歳)は、えん罪におとしいれられて55年、31年7か月の獄中生活を強いられ、仮出獄後のいまも無実を叫び、闘っている。石川さんは1審判決が死刑だった。東京拘置所では死刑囚だけの舎房があり、6年あまり袴田さんと近くの死刑囚房にいた。

 袴田巖さん(81歳)はえん罪52年、死刑囚として獄中生活48年を過ごし、静岡地裁の再審開始決定、拘置取消決定によって、いまはふるさとの浜松で姉の袴田秀子さん(85歳)とともに暮らすが、まだ無罪とはなっていない。再審開始決定にたいして検察官が即時抗告をおこなったためだ。再審開始決定は確定せず、東京高裁でこの4年ものあいだ審理が続いた。この3月中にも東京高裁が再審の可否を判断するといわれる。

 足利事件は2009年に再審開始、菅家利和さん(71歳)は獄中17年6か月、2010年に再審で無罪をかちとり、その後は狭山事件をはじめさまざまなえん罪事件の支援を続けている。

 布川事件は2010年に再審開始が最高裁で確定し、桜井さん・杉山さんは2011年、えん罪におとしいれられ44年目に再審無罪となった。獄中生活29年。杉山さんは無罪判決後、狭山事件の集会にも参加するなどしていたが、2015年に亡くなった。桜井さん(71歳)は、えん罪の原因と警察、検察の責任を問う国家賠償請求裁判をいまも闘い続ける。

 袴田さんが再審開始をかちとり釈放された2014年5月の狭山集会には、菅家さん、桜井さん、杉山さん、袴田巖さん、秀子さん全員が日比谷野外音楽堂に石川さんの応援にかけつけた。

 「獄友」全員の獄中生活はあわせて155年だ。ある日突然えん罪にまきこまれ、無実を晴らすのに何十年もの時間がかかるのはなぜなのか、映画は日本の司法の闇を問うている。無実の罪-石川さんや袴田さんは死刑判決を受けて獄中生活を余儀なくされる苦しみ、悔しさ、怒りをみる人につきつける。同時に、えん罪との闘いのなかから仲間の大切さを学び、連帯して同じえん罪を許さない闘いを続ける姿も描かれる。
 映画をとおして、えん罪がいかに甚だしい人権侵害であるか、なぜ、えん罪が多くおきるのか、なぜえん罪を晴らすのにこれだけ多くの時間が費やされるのか、日本社会の人権状況を考えることが大事だ。

 そして、それを変えていくために、獄友たちのようにともに闘う大事さを学ぶことができる。「一人は万人のために 万人は一人のために」を合言葉にしてきた狭山の闘い、反差別共同闘争にも共通するといえる。

 日本にはえん罪が多く、しかも、そのえん罪を晴らすのに多くの時間がかかってしまう現状がある。検察官が証拠を隠し開示しないこと、裁判所がようやく再審(裁判のやり直し)を認めても、検察官が抗告する(高裁、最高裁へ異議を申し立てる)ために、さらに多くの時間が費やされる。袴田事件だけでなく大崎事件や松橋事件、湖東病院事件などこの間、裁判所が再審を認めたえん罪事件が、いずれも検察官の抗告によっていまだに再審の扉がひらかれていない。名張事件や福井事件ではいったん無罪判決や再審開始が出されながら、検察官の抗告で取り消されている。証拠開示をしようとしないこともふくめて、日本の検察官のあり方はあまりに不当だ。再審開始にたいする検察官の抗告は諸外国でも認められておらず、再審における証拠開示の立法化、再審開始にたいする検察官の抗告の禁止など、再審法(刑事訴訟法の一部)の改正が急務といわねばならない。

 映画「獄友」をとおして、こうした、えん罪をいまもつくり出し、誤りを認めようとしない日本の司法の現状を多くの市民に知らせることが大事だ。えん罪を防止し、誤った裁判から無実の人を救済するために、司法改革、再審法の改正を国会に求める運動もおきている。映画「獄友」の上映をとおして、えん罪を生まない社会、司法の改革をすすめる運動を幅広くすすめたい。

 狭山事件は今年55年を迎える。石川さんが不当に逮捕されて55年目の5月23日には東京・日比谷野音で市民集会がひらかれる。部落差別の現実、日本の司法の現実がえん罪・狭山事件をつくった。石川さんの無罪をかちとり、えん罪を生み出した日本社会と司法を変えるという狭山闘争の原点を忘れず、各地でも狭山事件・えん罪55年をアピールするとりくみをすすめてほしい。

 狭山事件再審弁護団の努力と闘いの積み重ねで、逮捕当日の上申書や取調べ録音テープなど191点の証拠が開示され、筆跡・識字能力鑑定や供述心理学鑑定、万年筆にかかわる下山鑑定など石川さんの無実を示す新証拠が197点提出されている。先日も、石川さんが脅迫状を書いていないことを客観的、科学的に明らかにしたコンピュータによる筆跡鑑定も出された。

 狭山パンフ、解放新聞、取調べDVD、狭山パネルなどを活用し、これら新証拠を学習するとともに広く宣伝し、石川さんが脅迫状を書いていないこと、有罪証拠とされた万年筆が被害者のものではなかったこと、石川さんの自白が真実ではないことを市民に広めることが大事だ。

 石川さんが55年間も無実を叫んでいること、狭山事件では事実調べ(鑑定人の尋問や現場検証など)が40年以上もおこなわれていないことを訴え、東京高裁第4刑事部の後藤眞理子・裁判長に狭山事件の事実調べ・再審開始を求める世論を大きくしていこう!

 映画「獄友」は、80歳になろうとするいまも無実を叫び続けている石川さんの姿を伝えている。狭山55年の節目のとりくみのひとつとして、全国で映画「獄友」の上映運動をぜひすすめてほしい。映画を制作したキムーンフィルムでは、全国各地での自主上映会をよびかけている。また、東京、大阪、愛知、兵庫などでは劇場での公開も予定されている。

 映画「獄友」の上映運動をすすめ、狭山55年をアピールしよう!


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