メディア・コントロール
－正義なき民主主義と国際社会

ノーム・チョムスキー　著　　鈴木　主税　訳　　集英社新書（定価660円）

　本書は、事実をもとに現実社会を正しく理解することを論じた「メディア・コントロール」のほか、９・11を受け公正なジャーナリズムを論じた「火星から来たジャーナリスト」、作家・辺見庸とのインタビューを収録している。
　著者はタイトル章で、アメリカ現代史を通じて政治上のメディアの役割についてのべている。「権力者にとって、大衆は考える頭など無く厄介ものなので、関心をそらし社会の動きから切り離しておきたい。そのためにメディアを使って都合の良いように世論を工作し、合意をでっちあげる。政治から目を逸らせ、侵略を正当化するため、恐怖をあおる。それが現在優勢の『民主主義社会』だ」と語る。本著はアメリカについて論じているが、辺見庸とのインタビューを読むまでもなく、日本の状況も同様であることに疑いはない。
　権力に迎合し、国家の不正を明らかにしない知識人と、愛国報道、世論工作に躍起になるメディアを鋭く批判し、平和と反戦を唱える著者の情熱を汲みとりたい。（謙）