オカン

西川　のりお　著　　徳間文庫（定価571円）

　著者の、オカン（お母さん）とオトン（お父さん）に向けられるまなざしに、読みながら泣いた。
　運送屋の社長で「銭がないのは命がないのと一緒や」と金にがめつい「大正４年」生まれのオカンと、お人好しで朝から晩まで自転車を修理している職人気質のオトン。そんなオカンとオトンのエピソードを、自分とのかかわりをとおして描く。著者が幼い頃（「昭和30年代」）の話がおもしろい。デパートでダダをこねているとオカンに放っていかれそうになったことや、怪我をして泣いていると「そんなに痛がるんやったらもう今度から遊ぶな」とオキシドールとヨーチンを容赦なく流し込まれたことなどは、私のオトンやオカンの思い出話とダブる。
　そして、金を使って心から楽しむことをしないまま亡くなったオカンにたいし、「オカンは幸せやったんか」と語りかける著者。そんなオカンやオトンから得た人生訓を、著者が噛み締めて描いているところに人間くささを感じ、強く共感するのである。ただし、「長男」などの記述は注意して読みたいものだ。　（謙）