民意のつくられかた

斎藤　貴男　著　　岩波書店（定価1700円）

　日常のなかで当然のように受け入れてきたことが、たんなる情報操作だけでなく、政府や巨大資本の意向によって莫大な金が使われ、マスメディアだけでなく、社会のありとあらゆるメカニズムが動員されている事実を世論に問うのが本書。月刊誌『世界』で原子力神話、国策PR、事業仕分けなどを題材に「民意偽造」に焦点をあて連載されたルポルタージュを集めたものだ。
　 国民の注目を集めた「事業仕分け」も財政の圧縮だけが目的ではなかったと著者はいう。マスコミのみならず、傍聴した一般の人たちによってもネット中継で広く伝えられ、世論調査では80％以上の国民が「行政の洗い出しに役立つ」と支持した。当時の官房副長官は「私はこれを〝新しい公共″と捉えている。仕分け人は重い判断を迫られているが、視聴者も無責任ではいられない」とのべた。国民は公共に参加しその一翼を担うのだと謳われながら、主権はあくまでも政府にあり「国民運動」として「動員される」と形容される立場だけを与えられているのではなかったのか、事実は。
　 権力への服従こそが〝大人の態度″であり望ましい姿である、というすりこまれた生活様式からの脱却をよぴかける。　　　　　（伊）