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部落の多様化を大事にする
ひらかれた文化運動築こう
「解放新聞」(2003.06.16-2124)

 

 『おたまさんのおかいさん』という絵本が講談社出版文化賞絵本賞を受けた。「日之出の絵本制作実行委員会」の制作による。かつて同賞を受けた人びとには、丸木俊・位里、長田弘、斎藤博之、田島征三さんなどがいたというから、おのずから快挙のほどがわかる。
 「ズズズ……ハァ」「ズズズ……フゥ」「ズズズ……ホゥ」。これは「おかいさん(おかゆ)」をすする音。「ハァ・フゥ・ホゥ」はあつあつの「おかいさん」を口に含んださいの吐息だ。これとまったく同じ音(擬声語)が計4つの場面に登場してくる。
 おたまさんの孫2人とおたまさん自身、そして近所の六さんと、これまたご近所の、まゆみちゃんのおかあちゃんとおとうちゃん。このうちの六さんはおそらくは土方で、「おかいさん、あるか」とぶらっとやってきては「おたまさんのおかいさん」にありつく男、まゆみちゃんのおかあちゃんとおとうちゃんは喧嘩ばかりしている。それが「おかいさん」の不思議な力で……。
 50年前の部落の姿が、それこそ「おかいさん」の者立つ「ぐつぐつ、ふつふつ」という音とともに、蘇ってくる。けっして湿っぼくはなく、まるで「おかいさん」が発する湯気のように暖かい。

 相互扶助の文化といわれ、部落の文化ともいわれる。しかし、そうした話を聞くにつけてすぐ思い出されてくるのが、有名な落語「長屋の花見」だ。ようするに赤貧洗うがごとき下町の長屋住まいの人びとが、景気づけに花見に行こうということになるのだが、そこはそれ、貧乏が故に各自酒や弁当を用意できるわけもなく、出がらしの薄い番茶を酒に見立て、「たくあん」を卵焼きに見立ててというふうに、なにもかもを何かに見立てて花見に繰り出すといった話なのだ。
 ここにも底抜けの明るさがある。だとすればわれわれが部落の文化だとか、部落の暖かさだとかいう世界はもっともっと相対化していいのではないかという気さえしてくる。かつて部落にあったものは、部落外のあちらこちらにもあった。そう、考えてみるべきなのかも知れない。実際、貧乏が故の夫婦喧嘩はいたるところにあり、博打に身をやつす男たちもいたるところにいた、そしてそこにおける女たちの苦労は並大抵のものではなかったはずだ。

 さて、こう書いてくれば部落の文化などというものはないのだといっているように聞こえるかも知れないが、けっしてそうではない。コミュニティというものを考えてみるべきだと思う。
 一定の地域的範域と社会的・文化的同質性を共有するものとしての共同体ないしは地域社会、とりあえずはそれがコミュニティということのようなのだが、このコミュニティは個個の村むらでそれぞれの生活史に根差す形で生み生まれ、そして変容を遂げてきたものと思われる。
 今年で29回目を迎える部落解放文学賞だが、時代はすでに「特別措置法」期限切れ後2年目。部落のアイデンティティ(自己同一性)にも大きな変化があらわれてきている。もっといえば、部落のなかにもすでにある多様性をそのものとして大事にしうるような、そんな開かれた文化運動が築きあげられなければならないのだ。アイデンティティもまた移りゆく。
 当然、部落の文化運動も多様性のなかに身をおいて変革を遂げていかなければならないのだ。人権のまちづくりやムラ自慢・支部自慢の運動も、そんななかでこそ生きていくのではないかと思われる。


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