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8月狭山・反戦・反核
を全力でとりくもう
「解放新聞」(2003.08.04-2131)

 

 弁護団は、9月末の補充書提出にむけて、現在、補充書作成をすすめている。補充書提出以降、来年にかけて最高裁がいつ決定をおこなってもおかしくない段階にはいる。まさに特別抗告審の闘いは正念場である。えん罪・狭山事件40年を厳しくとらえかえし、総学習運動と教宣活動の強化を地域からすすめることが大切である。
 検察官は、従来から証拠を特定して開示請求すれば検討するというが、検察官手持ち証拠の内容を知ることができなければ証拠を特定して請求することはできない。政府は国連で裁判所が開示命令を出すことができると釈明しているが、これも証拠を特定して開示命令を申し立てた場合だ。狭山事件の証拠開示の交渉が何年もすすまないのも、少なくとも検察官手持ち証拠の内容を弁護側が知ることができるようにするルールがないからであって、検察官が証拠リストを弁護側に開示することが重要なカギなのである。
 狭山弁護団が証拠リスト(リストがあることは検察官も認める)の開示をまず求めるのもしごく当然だ。狭山事件だけではない。多くのえん罪事件、再審事件の弁護団が証拠開示を求め、検察官の不開示によって困難を強いられている。また、98年に、国連の自由権規約委員会は、弁護側が検察官手持ち証拠にアクセス(閲覧・利用)できるよう実務と法律を改善するよう勧告している。

 5月27日、「えん罪・誤判をなくすための証拠開示の公正なルール化を求める会」(公正な証拠開示を求める会)は、「証拠開示法制要綱案」を公表し、政府の司法制度改革推進本部にたいして要請をおこなった。この証拠開示法制要綱案は、つぎのような証拠開示手続きを導入することを提言している。
 まず、警察官、検察官など捜査機関は収集した全証拠を検察庁に送り、検察官は全証拠のリストを作成して、起訴と同時にそのリストを弁護側に交付することを義務づける。
 弁護側は、その交付されたリストにもとづいて、個別証拠の開示請求をおこない、検察官が応じないときは裁判所に開示命令を申し立てることができるようにする。
 検察官は不開示の場合は開示できない理由を明らかにし、裁判所は弁護人の意見も聴いて、すみやかに決定をする。そのさいに、プライバシー侵害などの弊害を理由として不開示とすることはできないとする。
 さらに、もし有罪無罪の判断にかかわる証拠が開示されていなかったことが判明したときは、公訴嚢却または免訴の決定を裁判所は出さなければならないとしている。警察、検察が都合の悪い証拠を隠すようなことを許さないために、こうした規定が必要であろう。
 さらに、同様の証拠開示手続きを再審請求があった場合にも導入し、検察官は再審請求人側に証拠リストを渡すこと、もし有罪無罪の判断にかかわる証拠が隠されていることが判明した場合は再審開始決定をおこなう、というルールを提案している。
 アメリカでは、被告に有利な可能性のある証拠を検察官が開示する義務が判例として早くから確立している。ジェンクス事件で国家機密を理由に検察官が証拠開示を拒んださいに、合衆国最高裁は証拠開示しないならば公訴を棄却するという決定をおこなったという。映画『ハリケーン』で知られるプロボクサー、ルービン・カーターさんが再審で無罪になったのも、証拠開示のルールが確立し、その手続き違反(証拠隠し)が再審の理由に認められていたからであった。
 イギリスでは、誤判・えん罪事件を教訓にして、1996年に証拠開示法が作られ、証拠リストを開示し、弁護側の開示請求を受け
るという二段階の証拠開示手続きが法制化されている。諸外国では、弁護側が公判未提出証拠の開示を受けられる証拠開示ルールが確立している。証拠開示のルールがない実態は、人権と正義を守るという意味で日本が世界的にあまりにも遅れていることを示している。
 司法改革ですすめられている裁判員制度も裁判迅速化も、捜査や取り調べの適正化、透明化と証拠開示確立をぬきに考えられない。

 では現在すすめられている司法改革で証拠開示はどうなっているのか。法制化の検討をしている政府の司法制度改革推進本部は、5月末に刑事裁判の準備手続きの「たたき台」を公表した。
 そのなかで、証拠開示のルールについて、検察官が証拠リストを弁護側に開示し、弁護側の請求に応じて開示するというA案と、「検察官が開示の必要性、開示によって生じるおそれのある弊害の有無、種類、程度等を考慮して、相当と認める範囲で開示する」というB案が出されている。しかし、B案は、「検察官が開示の必要性:・を考慮して相当と認める範囲で開示する」というものであり、これでは、検察官の窓意的な証拠不開示がまかりとおっている現状は変わらない。すくなくとも、証拠リスト開示を義務化し、弁護側が検察官手持ち証拠の内容を知ることができるようにすること、弁護側に証拠開示請求権を認め、開示・不開示の判断は検察官の独断ではなく、第三者の裁判所にゆだねるというルールを確立しなければ、不公平・不公正な現状を改革することにはならない。
 えん罪・誤判をなくし、弁護側が証拠開示を受けられるようにするためには、「公正な証拠開示を求める会」の証拠開示法制要綱案をとりいれ、少なくともA案をもとに法律化していくべきであろう。
 「公正な証拠開示を求める会」は、証拠開示法制要綱を取り入れたルール化を求める署名をよびかけている。私たちは、「公正な証拠開示を求める会」の証拠開示法制要綱を支持し、法律化を求める署名に全力でとりくみたい。各地で部落解放同盟、共闘団体、狭山事件を考える住民の会や民主団体とともに、幅広く署名運動にとりくんでもらいたい。
 最高検に狭山事件の証拠リストの開示を求め、最高裁に開示勧告を求める要請ハガキ運動をとりくむとともに、公正な証拠開示のルール化を求める署名に全力でとりくもう。
 この8・3~9の狭山・反戦・反核・平和週間を中心に、各地域で、狭山事件のえん罪性、部落差別性と司法改革、証拠開示を柱にした総学習にとりくむとともに、証拠開示を求める署名運動に集中的にとりくもう。


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