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狭山事件の事実調べと証拠
リスト開示を強く求めよう
「解放新聞」(2003.12.08-2148)

 

 狭山弁護団は、9月補充書提出にひきつづき、11月12日、斎藤第5鑑定補遺と特別抗告申立補充書を最高裁に提出した。斎藤第5鑑定補遺は、事件当時の埼玉県警鑑識課の筆跡鑑定書に、犯人の残した封筒表の「少時様」部分に抹消文字があったので赤外線写真などで検査したと記載されていることを指摘するものである。
 封筒に抹消文字が見られることは斎藤鑑定人が第1鑑定から指摘していたことである。斎藤鑑定は、狭山事件当時はまだボールペンインク消しはないことから、抹消文字は万年筆で書かれ、万年筆インク消しで消された痕跡であると指摘した。9月30日に提出した斎藤第5鑑定では、抹消文字に「2条線痕」があることを再確認し、実験と分析によって、万年筆で書かれたことを明らかにしている。抹消文字は、犯人が犯行前に万年筆を使用していることを示しており、文字を奪われ、万年筆も持っていなかった石川一雄さんと脅迫状がまったく結びつかないことを示している。
 昨年の異議申立棄却決定は、鑑定人尋問もまったくおこなうことなく、抹消文字にも2条線痕にも言及せず、斎藤鑑定の指摘は「一つの推測の域を出ない」「独断に過ぎるというべき」としてしりぞけている。
 しかし、今回の補遺で指摘されているように、斎藤鑑定の核心ともいうべき抹消文字の存在を事件直後に封筒現物を調べた埼玉県警鑑識課員も現認しているのである。もはや「2条線痕」「抹消文字」という「犯行前の万年筆使用痕跡」の存在を裁判所は無視できないはずだ。
 事実調べもおこなわず、「推測の域を出ない」「独断に過ぎない」として斎藤鑑定をしりぞけた東京高裁の棄却決定が審理を尽くさずに、判断を誤ったことは明らかだ。最高裁は、真実究明を放棄し、いちじるしく正義に反する棄却決定をただちに取り消して、東京高裁に事実調べをおこなうよう差し戻すべきである。
 斎藤鑑定人の鑑定人尋問などの事実調べを最高裁に強く求めていこう。

 11月26日、狭山弁護団は最高検と証拠開示の交渉をおこなった。弁護団は、特別抗告審にはいってからでも4回にわたって東京高検の検事と証拠開示の交渉をおこなってきた。しかし、1999年3月に、東京高検の当時担当であった曾田検事が手元に積み上げると2~3メートルもの証拠があること、証拠リストがあることを認めながら、その後まったく開示されていないのが現状だ。
 今回の交渉で弁護団は、「証拠リスト(標目)」を開示し、検察官手持ち証拠の内容を明らかにすることにしぼって求めたが、最高検の有田検事は、証拠リストについては、プライバシーにかかわる、内部文書であるとの理由で開示を拒否した。最高検の方針として証拠リストは開示できないと答えたという。
 検察官は、証拠を特定して請求すれば開示を検討するというが、弁護側には、検察官がどんな証拠をもっているかわからないのであるから、特定して請求することはできない。これまでも、個別に開示請求してもそんな証拠はないから開示できないとして終わっている。だからこそ、弁護団は証拠リストを開示し、手持ち証拠の内容をまず明らかにしてほしいと求めているのである。
 最高検の証拠リスト開示拒否は証拠開示の全面拒否と同じである。
 また、検察官はくりかえしプライバシーにかかわるということを開示できない理由にあげるが、げんに、狭山事件でこれまでおこなわれた証拠開示によって何も問題は生じていないし、免田事件、梅田事件、日野町事件など証拠リストが開示されたほかの事件でもプライバシー侵害が問題になったこともないのである。プライバシー侵害の恐れは証拠不開示の理由には絶対ならないし、むしろ、証拠隠しのごまかしといわねばならない。
 検察庁は手元に積み上げると2~3メートルにもなる証拠をもちながらいっさい開示せず、どんな証拠があるのか、その内容さえ明らかにしないのである。市民常識としても、あまりにもおかしな話である。この不当・不正義をこれ以上許すことはできない。最高検の証拠隠しに断固抗議し、ただちに証拠リストを開示するよう求めるハガキを出そう。

 現在、司法制度改革推進本部では、「裁判員制度・刑事検討会」の井上正仁・座長による裁判員制度と刑事手続きについての試案が出され、国民からの意見募集も始まった。来年1月から始まる通常国会で法案が提出されることになっている。
 井上座長試案では、証拠開示について、「たたき台」として出された2案のうち、証拠リストを開示するというA案ではなく、弁護側が証拠を特定して開示請求し、検察官が相当と認めたとき開示するというB案がとられている。これでは、現状の改革にならないことは明らかだ。狭山事件でも証拠リストが開示されないために、膨大な証拠がありながらいっさい開示されない不公平な実態がおき、紛糾している。
 1998年の国連の規約人権委員会で、すでに、「弁護側が証拠を特定すれば開示命令を裁判所からとりつけることができる」とした日本政府の答弁にたいして、委員から「弁護側が検察官がどんな証拠をもっているのか知ることができないので開示を求めることさえできない」と指摘されている。
 日本政府は現在、国連にたいして自由権規約にもとづく報告書をまとめているとされるが、B案や井上試案では国連からの指摘・改善勧告に応えることにはならない。少なくとも、証拠リスト開示を義務化し、弁護側の証拠開示請求権を認めるルール化でなければ、えん罪・誤判をなくす改革・改善にならない。証拠リストの弁護側への交付を義務化するよう司法改革推進本部へ意見を集中しよう(意見の送付先)
 カナダでは1990年代に証拠開示の立法化がおこなわれたが、そのきっかけとなったカナダ最高裁判決の「検察の手中にある捜査の成果は、有罪を確保するための検察の財産ではなく正義を実現するための公共財産である」という言葉を最高検の有田検事も司法改革推進本部の委員も、よくかみしめるべきである。


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