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声明

 

「国境を超えた組織犯罪の防止に問する条約」
の締結に伴う
国内法整備として提案されている「共謀罪」
への反対声明

2005年10月18日

思想信条の自由侵害の共謀罪許すな
部落解放同盟中央本部

 「国境を越えた組織犯罪の防止に関する条約」の締結に伴う国内法整備として提案されている「共謀罪」への部落解放同盟中央本部の反対声明を10月18日の第8回中央執行委員会で決定した。全文を掲載する。共謀罪は、実行行為がなくても相談したと認定されただけで罪に問われ、部落解放運動など市民活動も標的とされるもの。反対運動を展開しよう。

市民活動、団体が監視対象とされる社会に

(1)

 個人のおこなった犯罪行為を処罰するという近代刑法の原則を否定し、犯罪のはるか以前に関係者のたんなる話し合い(たとえば「あいつは許せない、ひどい目にあわそう」「そうだな」)といった合意だけで処罰ができる「共謀罪」が今国会で提案されている。
 憲法の保障する「言論の自由」「表現の自由」を侵害する立法が、国連で採択された「国境を超えた組織犯罪の防止に関する条約(以下、国際組織犯罪防止条約という)」による要請を理由に、国内法整備だという主張で提案されている。たんに疑わしい、悪い考えを抱いているというだけで、処罰されるような事態を招くおそれのある共謀罪は、憲法違反の疑いも指摘されており、拙速な議論ではなく、幅広い各界各層の意見も踏まえた憤重な審議を保障すべきである。

(2)

 現在提案されている共謀罪は、国連の「国際組織犯罪防止条約」の国内法化のための法案(強制執行妨害罪の規定を含む)で、同条約は国際マフィアによる銃器や麻薬の密輸の取り締まりを主眼とし、加盟国もその趣旨にそって国内法を整備するよう求めたものである。
 条約の審議過程でも、マフィアなどの国境を越える組織的犯罪集団などを念頭にしており、国境を越えた組織的な犯罪に国際社会が協力して対処することが目的であったはずである。しかしながら、今回政府が提案している法案には、越境的な犯罪(国境を越えた犯罪)の要件がまったく含まれていないばかりか、政府は条約の解釈として越境性を要件としてはならないと曲解している。条約の作成過程で越境性を設けるべきだとの意見がかなりあったことや、また日本政府がどのように対応したのか、肝心な部分の議事録が墨塗りで非公開となっている点が指摘されるなど、事実が不透明なままとなっており、先の衆議院の法務委員会の審議でもこの点が指摘されている。越境性を要件としないというのであれば、条約の審議過程で日本がどのような主張をしたのか政府は公開すべきであり、その上で条約の本来の趣旨・目的、審議経過をふまえて越境性を要件とするべきである。

(3)

 つまり、「国際的な組織的犯罪集団が関与するもの」が条約の国内法化の要件であることが大前提であるにもかかわらず、法案では明文化されておらず、国連の「国際組織犯罪防止条約」の主旨及び内容と提案されようとしている「共謀罪」とでは相当の乖離があり、現行のままでは組織的な犯罪集団が拡大解釈され、市民の集団やサークルにさえ恣意的に解釈される危険性をはらんでいることに市民は危倶と不安を強めている。
 その第1の問題点が、共謀を犯罪とする条件として、「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるもの」と規定されている点であり、ここでいう″団体″には何の定義も存在せず、犯罪性のない市民団体やサークルなども対象とされる危険性をもっている。すなわち、「組織犯罪集団」のみを対象と見ているのではなく、何らかの団体構成メンバーによる「共謀」を広く対象とする法律であり、制定後の連用で解釈が変更されたり、拡大される危険性がきわめて強い。また、″組織″についての定義も曖昧であり、取り締まる側の恣意的解釈が可能なうえ、捜査権限が拡大し、盗聴法の適用範囲の拡大をはじめ、対象とされる団体へのスパイの潜入など、厳しい監視社会への危険性が危倶されることはいうまでもない。
 第2の問題点は、行為があってはじめて処罰する行為主義という日本の刑法原則を否定してしまうという点である。犯行を計画した後、謀議に加わった全員が翻意して実行しなかった場合も処罰の対象となり、しかも、実行前の自首によって刑の減軽や免除も認められており、密告の奨励はもとより、捜査当局によるおとり捜査に道をひらくことになりかねない悪法である。
 第3の問題点は、政府は条約で「重大な犯罪」を長期4年以上の刑と定めているので、国内法でもそれを適用したとしているが、日本の刑法に適用した場合、600以上もの犯罪が対象となる。そのすべてが「重大な犯罪」といえるのか。犯罪の国際化・組織化に関係のない犯罪を含め対象犯罪が多すぎるといわざるをえない。
 第4の問題点は、自由な市民活動が制約され、国家による国民統治という考え方が強まる危険性をもっているからである。9.11テロ事件以降、安全のためには個人が監視され、警察が早くから取り締まるのもやむを得ない風潮が広がってきている。個人が安全なら多少の人権侵害は許されるという考え方であり、国家が国民を統治し、支配下に置くことによって安全を保障するという、いわば戦前の治安維持法を回帰させるといわざるを得ない法案である。共謀罪の拡大解釈が始まり、警察権力がこの法律を窓意的に適用した場合、憲法が掲げた、「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」とした人権保障を後退させることになる。

(4)

 日本の刑法は、「行為主義」を原則としており、実行行為が伴わないと処罰しないという原則がある。この原則を覆し関係者の〝合意″だけで処罰できるようにすれば、戦前や戦時中にかけ「予防主義」という名のもと思想を弾圧し、おびただしい人びとの人権と命を軽視し、思想統制や言論弾圧に躍起になった時代に回帰することを意味している。そもそもこうしたことへの反省に立ち提案された「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」とうたっている憲法第十九条の重みをあらためて確認すべきである。あくまで近代刑法は、「行為なければ処罰なし」という原則を貫くべきものである。共謀罪は、戦後日本の刑法の大原則を根底から覆す法案となりうるものであり、国を挙げての論議が不可欠であり、結論を急いではならないことはいうまでもない。
 最後に、優れた日本国憲法といわれながら、首相の靖国参拝問題や自衛隊の海外派兵にたいする問題など法の空白という理屈で憲法の空洞化がすすんできている。その時の状況や権力者の都合にあわせて憲法解釈がおこなわれてきているといわざるを得ない問題である。つまり、国民主権といわれながら実際は、時の政府や官僚の解釈よって、憲法が恣意的に機能してきた現状がある。法律でも同様といえる。
 こうした観点からみると、共謀罪が成立すれば、犯罪が生じていないのに共謀を立証するために〝組織的犯罪集団″というレッテルを時として市民団体へはり、適用したり、さまざまな組織・団体の議事録が公開対象にさらされるなど、監視の対象に拡大解釈される可能性を危惧するのは当然である。監視社会への道を押しすすめ、内心の自由や言論・表現の自由にまで踏み込む共謀罪を国会で成立させるわけにはいかない。われわれ部落解放同盟が掲げる民主社会の発展に寄与し、人権が確立された社会の実現を阻む〝共謀罪″を認めるわけにはいかない。

2005年10月18日
部落解放同盟中央本部

犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案(抜粋)
 第三条 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成十一年法律第百三十六号)の一部を次のように改正する。
 第六条の二 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者は、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
  一 死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪五年以下の懲役又は禁錮二長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められている罪二年以下の懲役又は禁錮
  二 長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められている罪 二年以下の懲役又は禁錮
 2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、第三条第二項に規定する目的で行われるものの遂行を共謀した者も、前項と同様とする。

 

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