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狭山100万署名を達成し
さらに世論を拡大しよう
「解放新聞」(2007.04.23-2316)

 狭山事件再審弁護団は、3月30日、東京高裁第4刑事部に新証拠と補充書を提出した。提出された新証拠は、「殺害現場」と死体を一時的に穴に隠したとする自白の重要な部分が虚偽であることを明らかにするものである。
 提出された新証拠のひとつは、殺害現場とされる雑木林に隣接する畑で事件当日農作業をおこなっていた0さんの、悲鳴は聞いていないとする供述調書と、音響工学の専門的見地から悲鳴が聞こえないはずはないことを指摘した安岡正人・東京大学名誉教授の鑑定書である。再審請求を棄却した裁判所の決定がいう「誰かが呼んだような声」が悲鳴ではありえないことが明らかにされている。
 さらに、殺害後、死体を一時、芋穴に逆さ吊りにして隠したとする自白に関して、豚を使った逆さ吊り実験にもとづき、痕跡が残らないことはありえないとする上山滋太郎・独協医科大学名誉教授の実験鑑定も提出された。死体をわざわざ穴まで運び、ロープをとってきて逆さに吊るして一時的に隠すという、そもそも不自然な自白が科学的にもありえないことが明らかにされた。
 また、雑木林と芋穴で血痕反応検査(ルミノール反応検査)をおこなったが反応はなかったという元埼玉県警鑑識課員の証言についての報告書、ルミノール反応検査はわずかな血痕でも反応が出る鋭敏な検査であることを元鑑識課員から聞いた報告書も提出された。
 被害者の後頭部に傷があるにもかかわらず犯行現場に血痕がなかったという点からも、自白が虚偽であることは明らかであると弁護団は主張している。
 脅迫状は石川さんが書いたものでないとする筆跡鑑定書、筆記用具に関する鑑定書、万年筆発見の不自然さを明らかにする元警察官の報告書などにくわえて、自白の核心部分が虚偽であるとする新証拠が、今回新たに提出されたことになる。東京高裁はこれら新証拠について、事実調べをおこない、総合的に評価して再審を開始すべきである。

 この間、あいついで誤認逮捕、えん罪が明らかになった。1月には、富山で強姦事件での誤認逮捕が明らかになった。誤認逮捕された男性は間違った有罪判決によって2年あまりも服役を強いられた(2315号既報)。さらに、2月には、鹿児島県議選の公選法違反事件(志布志事件)で起訴された被告12人全員に無罪判決が出され、6人の被告は人権を無視した取り調べによって虚偽の自白を強いられていたことが明らかになった。さらに、佐賀の北方事件でも自白した上申書は「(取り調べに)違法性が高い」として福岡高裁は無罪判決をおこなった。また、先日も、大阪高裁は「押し付けられた自白の典型」と断じて、詐欺罪に問われた男性に逆転無罪判決をおこなっている。
 こうしたあいつぐ無罪判決の特徴は、いずれも、ウソの自白によって、えん罪がひきおこされているということだ。いまも、虚偽の自白を誘導し強要するような取り調べがおこなわれているということである。さらに、富山のえん罪では、公判で犯行を認める自白をしていたとして、自白に頼って間違った有罪判決が出されているということである。
 私たちが教訓にしなければならないことは、まず、警察・検察の取り調べの録音・録画をはじめとする捜査の可視化をすみやかに実施しなければならないということである。さらに、裁判所は自白の厳密なチェックをおこなう必要があるということである。イギリスなどのように政府が率先して調査委員会をつくって、誤判原因や警察・検察の取り調べの問題、自白の問題と改革の課題について徹底した検証をおこなうべき事態なのである。
 狭山事件での石川さんの自白もこれらのえん罪と同じである。鹿児島県議選事件では、被告は子どもや身内のことを出されて自白をせまられたというが、石川さんも同じように兄を逮捕すると脅され自白している。富山のえん罪事件のように公判廷でも虚偽自白が維持される場合がある。裁判所は自白によりかかって足跡や目撃証言などのズサンな証拠の評価を誤ったことも狭山事件と共通する。
 いまこそ、狭山事件での自白の不自然さ、自白の虚偽を訴え、自白の厳密な再検討をふくむ事実調べをおこなうよう東京高裁に求めたい。
 また、とりわけ裁判員制度導入をひかえて、取り調べの可視化、証拠開示の公正なルール化をはじめとした、えん罪をなくすための司法改革の必要性をあらためて訴えたい。

 弁護団による新証拠提出にあわせて、3月1日には、狭山事件の再審を求める市民の会を中心に100万人署名の提出・要請行動がおこなわれた。全国、世界から寄せられた署名916400筆が、東京高裁第4刑事部の大野市太郎裁判長あてに提出された。署名提出には、市民の会代表の庭山英雄・弁護士をはじめ、鎌田慧さん、中山千夏さん、住民の会、宗教者、労働組合代表が参加し、東京高裁が弁護団の提出した新証拠の事実調べをおこなうよう強く要請した。
 第3次再審闘争はこれからが正念場である。100万人署名を早急に達成し、世論を大きくするとともに、東京高裁に事実調べ・再審開始を求めていかなければならない。
 狭山弁護団は、4月下旬には、大野裁判長に面会し、新証拠の意義と事実調べ・再審開始の必要性を訴える。
 こうした弁護団のとりくみを後押しし、狭山事件の再審を求める世論をさらに大きくしていかなければならない。
 現在、署名は95万人で、まだ100万人は達成していない。石川さん不当逮捕44か年、第3次再審請求から1年を迎える5月23日には、実行委員会の主催で、東京・日比谷野外音楽堂で再審を求める市民集会がひらかれる。市民の会では、この日、100万人署名の追加分の提出をおこなうことにしており、100万筆達成をよぴかけている。100万筆達成後も署名運動報告集会を全国各地で開催し、第3次再審の現状や闘いの課題を確認し、さらに世論拡大をはかっていきたい。

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