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主張

 

可視化実現、司法民主化と
狭山の闘い結合し
「解放新聞」(2008.04.21-2366)

 最高裁第2小法廷は、3月24日付けで袴田事件の再審請求の特別抗告を棄却する決定をおこなった。1981年に再審が請求されてから27年も経過して出された決定だが、弁護団が提出した新証拠の内容にほとんど触れず、まさに結論ありきの棄却決定といわざるをえない。事実調べをおこなうことなく再審請求をしりぞけた点で狭山事件のこれまでの棄却と同じである。棄却決定が犯行着衣として決め手の有罪証拠とする「5点の衣類」のズボンについても、弁護団は、糸密度からそもそもサイズが小さくて袴田さんにははけないということを明らかにした専門家の鑑定書を提出していたが、まったく無視している。
  袴田事件では確定判決が、自白調書45通のうち44通を任意性がないとして証拠から排除している。それほど取り調べに問題があったということなのである。棄却決定は、証拠の「5点の衣類」で、弁護側がいうような「ねつ造」はないと決めつけているが、ほとんどの自白調書が強要されたと認定されながら、強引に自白をとろうとした警察の捜査には何の疑問もないというのであろうか。この間の志布志事件や氷見事件では警察による人権無視の取り調べとともに、調書のねつ造なども明らかになっている。少なくとも「5点の衣類」に関して弁護側が提出した新証拠、主張について事実調べをおこなうべきである。
  最高裁の棄却決定は、虚偽自白や証拠ねつ造によるえん罪の可能性、危険性をまったく考慮することなく、結論ありきの姿勢で、袴田さんと弁護団の長年にわたる無実の叫びをふみにじったものである。
  袴田さんの姉の秀子さんの真剣な訴え、ボクシング界からの真摯なアピール、1審を担当した元裁判官の「無罪の心証をもった」という発言、多くの市民の疑問に答えることなく再審の請求をしりぞけた最高裁の姿勢、再審の門を閉ざす棄却決定に抗議する。

 この間、虚偽の自白によるえん罪が数かず明らかになった。12人の被告全員が無罪となった志布志事件では6人の人たちがウソの自白をさせられ、無罪判決は強圧的な取り調べがあったと断じた。氷見事件でも、強要された虚偽の自白が公判廷でも維持され、間違った有罪判決が出された。袴田さんも狭山事件の石川一雄さんも、これら無罪となったえん罪事件と同じように、警察の代用監獄という密室で、長期にわたって、長時間の取り調べを受けて虚偽自白を強いられた。
  昨年5月には、国連拷問禁止委員会が、日本の代用監獄、取り調べの実態に強い懸念を表明し、取り調べの録音・録画、証拠開示の保障などを勧告した。また、日本では自白にもとづく有罪判決が多いこと、長期におよぶ警察の代用監獄での密室の取り調べによって得られた自白が裁判で証拠となっていることにも強い懸念を表明している。
  裁判所に求められていることは、こうした自白の問題を十分検討し、警察の取り調べの実態にメスをいれることであるはずだ。しかし、最高裁による袴田事件の棄却決定には、こうした視点をまったく見いだすことはできない。
  狭山事件の特別抗告棄却決定、名張事件の再審開始取消・棄却決定、ことしには、足利事件の再審請求棄却決定、今夏の袴田事件と再審の扉を閉ざす決定があいついでいる。足利事件の再審請求では、争点となったDNA型鑑定について、請求人が弁護人に送った毛髪のDNA型が遺留されたDNA型と違うという鑑定結果を弁護側は提出し、再鑑定を求めていたが、宇都宮地裁は、再鑑定をおこなうことなく再審を棄却している。
  再審制度の理念は「無実の人を誤判から救済する」というものである。再審請求でも、「疑わしさは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則を適用するとした最高裁の判例にしたがえば、事実調べやそれにともなう証拠閉示は不可欠である。この間のえん罪事件の教訓は、虚偽自白が引き出されえん罪を生み出す構造が、改善・改革しなければならないこと、十分な証拠調べをせず、自白に頼った捜査・裁判が誤判を生み出すということであったはずだ。氷見事件では、現場の足跡が被告と3.5センチも違っていたのに裁判では問題にされなかった。被告のアリバイを示す自宅の電話記録も無視されたまま自白に頼り、間違った有罪判決が出されたことを忘れてはならない。
  こうしたえん罪・誤判がいまも明らかになっている以上、誤判から無実の人を救済する再審手続きの充実、再審の扉を広げることこそいま必要である。無実を訴える人たちが求める事実調べ、証拠開示を裁判所が保障することは当然であろう。
  わたしたちは、狭山事件の再審実現に向けて全力を尽くすとともに、袴田さんの再審をはじめ、多くのえん罪との闘いと連帯し、取り調べの全過程の可視化や公正な証拠開示の実現など司法民主化、人権確立を求めて、さらに幅広い運動をすすめなければならない。
  取り調べの全面的可視化と証拠開示の改善をめざして、昨年末に民主党が参議院で提出した「刑事訴訟法の一部を改正する法律案(取り調べの録画・録音による可視化法案)」の早急な審議と成立を求めなければならない。検察や警察は一部の録音・録画をおこなうとしているが、このようなやりかたでは、取り調べは改善されないし、むしろ、えん罪を作り出す証拠に利用される危険性すらある。早急に「取り調べの全面的な可視化」を実現しよう。
  可視化実現、司法民主化と狭山第3次再審の闘いを結合させとりくみをすすめよう。

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