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部落問題資料室
NEWS & 主張
差別の現実から学べ

「解放新聞」(2009.02.23-2408)

 【埼玉支局】「差別の現実から学べ」というスローガンをのもつ意味をもう一度考え、「研修のあり方を抜本的に見直すこと、それがこの事件の教訓だ」と埼玉県連の片岡明幸・委員長が、龍郷町事件から同和教育の課題を明らかにした。昨年8月に鹿児島県龍郷町で起きた差別講演事件(2392号掲載)で、地元鹿児島県連の糾弾学習会(前号掲載)が12月24日にひらかれ、地元では一応の区切りがつけられた。しかし発言者を生み出した埼玉として、この事件をどう総括するのか。県連は、2月の教育委員会交渉を前に事件の問題点と埼玉の同和教育の課題を整理した。その要約を掲載する。

龍郷町差別講演事件と同和教育の課題
1、差別語等件の概要と糾弾学習会
  08年8月1日、鹿児島県龍郷町教育委員会が主催した教育講演会で、「「教えて考えさせる授業」の理論と実践」と題して埼玉県のK新任者教員指導教諭(元小学校校長)が講演。K元校長は、参加した教員に向かって「皆さんだったら士農工商を勉強したあとで、自由に自分を選びなさいといったら、何を選びますか。士を選びますか。農を選びますか。工商を選びますか。あるいは誤解を恐れずにいえば「えた・ひにん」になりますか。何を選びますか」と問いかけ、なりたい身分を挙手して選ばせた。そのさい、「まさかと思いますが「えた・ひにん」というか、いないですよね」と発言した。
  糾弾学習会では、K元校長はみずからの発言が差別発言であったことを率直に認め、謝罪した。
2、発言の何が問題なのか
  K元校長の発言の何が問題なのか。①偏見を植えつける発言②同和地区にたいする偏見③挙手で身分制度を理解できるのか、という3点が上げられる。
  ①は、「えた・ひにん」は「なりたくない人たち」なのか。もし、「なりたい」と手を挙げる子どもがいたらどう指導するのか。「なりたくない人たち」と、無条件に前提にして子どもに教えていい存在なのか。これが授業でおこなわれた場合、「同和地区の人は、なりたくないような惨めな生活をしていた人びと」という印象だけを残すことになるのではないか。その授業の結果、「なりたくないような人びと」という、偏見を植えつけることになる。
  ②は、「えた・ひにん」には「私もなりたくないし、皆さんだってなりたくないですよね」ということは、その背景に、同和地区は惨めでひどい生活をしていたという偏った認識と、同和地区を一段低く見る見方が存在している。同和地区の祖先は、けっして惨めでかわいそうな存在ではない。私たちは、そういう教育が偏見を生むから、学校教育では、そのような教え方をやめてくれと訴えてきた。
  ③は、挙手で理解できるのは、みんなが武士・町人だと米をつくる人がいなくなることであって二身分
が選択できないこと」「職業と住む場所が決められて代々続くこと」ではない。身分制度の核心は職業と住む場所と身分が固定されている点であるのに、ここでは食べるために必要な食料の問題になってしまっている。「身分は選択できない強制されたもの」であることを教えるためには、みんなが武士だと食べていけないからではなく、武力による強制を教えるべきではないのか。
3、同和教育の課題
  今回の事件は埼玉の人権・同和教育にどんな課題を提起しているか。私たちは何を教訓にするべきなのかをまとめたい。
  一番大きな課題は、研修を受けてもK元校長の感じた「実感としてわからない」という同和問題の研修のあり方である。「実感として差別がわからない」というのは、差別の実態が見えなかったということであり、差別がどんなに人を傷つけているのか、差別がどんないやなな思い、悲しい思いをさせているかが伝わらなかったということである。伝わらなかった理由もはっきりしている。これまでの研修が具体的な事例から学ぶ方法をとらず、抽象的に部落問題を語るだけの研修になってしまっていたからだ。
  現在、教員のほとんどが差別の実態を知らない。「差別はない」という認識からは、同和教育の必要性が生まれるわけがない。地域に出かけ、地域の住民と話し、差別の実態を学ぶべきである。そして学校でげんにおきている差別の事実を教材にすることが重要なのである。結婚差別や就職差別がいかに人を傷つけて、辛い思いをさせているのかを具体的かつ感情的に理解できるようにすることが大事なのだ。
  「差別の現実から学べ」とは全同数のスローガンだが、もう一度このスローガンのもつ意味を考え、研修のあり方を抜本的に見直すことがこの事件の教訓だと思う。


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