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部落問題資料室
NEWS & 主張
主張

 

各地域・大衆に密着した生活・福祉・仕事の課題を運動の中心に据え、
部落内外のつながりを強めよう

「解放新聞」(2010.09.13-2485)

 「人権もいいが、飯が食える政策を出せ」―今夏の参議院選挙の中で、地域の同盟員や部落大衆から何度か聞かされてきた言葉である。部落解放運動が抱える課題と現状を的確に指摘していると患う。すなわち、部落解放運動が掲げる差別撤廃・人権確立のとりくみが、政治的・抽象的なかけ声となってしまい、部落大衆や困難をかかえる人たちの生活課題から遊離していたのではないかという反省である。
  私たちがこの間強調してきたことは、「人権の核心は、人間の尊厳と生存権である」ということであった。それはとりもなおさず、人権が確立されてきた歴史的教訓からすれば、「人権」はたんなる抽象的なお題目ではなく、常に「差別をなくしいのちを守る」という具体的な実践的課題として提起されなければならないことを強調したものであった。
  このとりくみが決定的に遅れていることが、今夏の参議院選挙敗北の大きな一因であることは間違いない。今、問われていることは、各地域・大衆に密着した生活・福祉・仕事・教育の課題を運動の中心に据え直し、部落内外のつながりを再構築することで、部落解放運動の組織と運動を再生させていくことである。


 「特措法」時代は、いい意味にしろ悪い意味にしろ多くの部落大衆の生活課題と部落解放同盟が密着していたことは事実である。それは、部落大衆がかかえる生活の諸要求を丁寧に集約して、行政交渉を中心に問題解決に向けた大衆行動を組織してきたからである。
  「特別措置」という手法に限界があったものの、多くの要求を実現してきた。同時に、弊害も生み出してきた。しかし、そのことは、手法の限界とそのことへの自覚の欠和による弊害であって、問題解決のために取り上げた課題そのものは部落外の多くの人びとにも適用できる普遍的な課題であったことをしっかりと認識しておかなければならない。
  世界の差別撤廃への英知を結集した「人種差別撤廃条約」の第1条第4項につぎのようにのべていることを深く胸に刻んでおくことが重要である。すなわち、「人権および基本的自由の平等な享有又は行使を確保するために、保護を必要としている特定の人種若しくは種族の集団又は個人の適切な進歩を確保することのみを目的として、必要に応じてとられる特別措置は、人種差別とみなさない。ただし、この特別措置は、その結果として、異なる人種の集団に対して別個の権利を維持することとなってはならず、また、その目的が達成された後は継続してはならない」。
  これは、古今東西を問わず多くの社会運動が陥りやすい落とし穴にたいする「人種差別撤廃条約」からの警告である。すなわち、獲得した成果としての事業や制度を囲い込み継続化させようとする既得権化と特権化にたいする社会運動団体への戒めである。
  私たちが、「行政依存から自立へ」という方向を打ち出したのは、そのような思いからでもあった。

 部落解放運動が胸を張って誇れる闘いは、教科書無償化の闘いであり、最低賃金改正や就職差別撤廃への統一応募用紙の闘い、生活保護受給額の男女格差撤廃の闘い、奨学金制度の改正継続の闘いなど、だれもが認める多くの社会的・歴史的成果がある。それは、部落問題解決の仕組みを、困難を抱えるすべての人の問題解決への仕組みとして押し出していったという誇るべきとりくみであったことを想起すべきである。
  じつは、現在の格差社会是正のとりくみの中で打ち出されるさまざまな政策をみると、これまで部落解放運動がとりくんできた多くの生活密着課題へのとりくみが、今日の格差社会日疋正への先駆的とりくみとしてあったのだという自信をもってよいのである。現在、国策として提起されている子ども手当の問題、農業従事者への支援、高校授業料の無償化の問題などはその事例である。
  したがって、従来のように地区限定の特別対策の手法として要求するのではなく、社会的な要求として押し出す手法を整えるということに知恵と工夫を傾けさえすれば、まさに部落解放運動はその闘いの経験と実績を持っていることを自覚すべきである。その「知恵と工夫」が、自助・共助・公助の仕組みを作り出そうということである。
  特措法がなくなったから、さまざまな要求課題が実現できないという思い込みは間違いである。日常生活の中で抱える諸要求は、今日的な政策課題と結びつけながら実現していくとりくみを、部落解放同盟が地域の先頭に立っておこなうことが、今こそ重要である。

  9月25、26日に広島市でひらく中央福祉学校は、このような実践的課題について全国の実践と英知を共有しようとするものである。新政権のもとでの今後の社会保障制度のあり方にかかわって、社会参加と就労支援という視点をその基本に据えて制度設計をしていくという方向性を学びつつ、現実的な生活・福祉・仕事の課題をどのようにつかみだしていくかという議論を深めていきたい。さらに、地域の社会的資源として勝ちとってきた「隣保館」などの公的施設についても、廃館や施設目的の変更などという時流に屈することなく、新たな地域福祉運動や就労支援・教育運動の拠点施設として生き残らせていく現実的方途を確認し、実践していくことが喫緊の課題として突きつけられている。
    それはとりもなおさず、現在の部落解放運動がかかえている部落大衆の日常生活からの遊離状況を具体的に克服していく課題の模索でもある。地域での日常生活課題に密着しながら、地域就労支援運動、地域福祉運動、地域教育運動の再構築を通じて、部落解放運動のめざす差別撤廃・人権確立の異体的な中身を作り出し、部落内外の協働の力を結集して、参議院選挙の敗北を乗り越え、全国の各地域から部落解放運動の再生を1日も早く実現していこう。

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