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部落問題資料室
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主張

 

参院選の敗北を乗り越え、運動と組織の根本再生へ

「解放新聞」(2010.11.01-2492)

 7月11日に投開票された第22回参議院選挙で、松岡書記長の2選実現を果たせずに、まさに「一敗地に塗れた」。この深刻な事態を真正面から受けとめて、「参議院選挙敗北の総括を徹底的に議論し、運動と組織のあり方を建設的に阻み立て直そう」と3か月前の解放新聞の主張(8月9日号)でよぴかけた。
  この間、中央執行委員会はもとより、全国委員長・書記長会議、中央委員会をひらき、中央段階での参議院選挙闘争の総括運動を展開するとともに、各都府県運・支部段階でも真剣な論議がおこなわれてきた。
  この段階で、総括運動のなかで提起されてきた課題を明確に共有しながら、参議院選挙闘争の敗北を乗り越え、新たな運動と組織の根本的再生への歩みをしっかりと踏みださなければならない。


 今回の参議院選挙の結果から見えてくる敗因は、さまざまな要因をあげることができるが、重要な点はつぎのようなものである。
  第1に、今回の選挙闘争でもっとも重視したのは、1人の同盟員が地区外・組織外で「3人以上の確かな知人・友人を獲得しよう」という方針であった。しかし、最終的に紹介活動をおこなった同盟員は4割程度にとどまってしまったということである。
  第2に、各都府県連ごとに同盟員数と投票数を比較してみると、「松岡」への不投票の同盟員はかなりの数になるのではないかと推測されることである。この原因が何なのかというところに、今日部落解放同盟が抱える大きな問題が存在しているといえるのであり、徹底的な究明・分析が必要である。
  第3に、6年前に10万5000人の同盟員数で闘った時の得票数が11万5000票で、今回6万5000人の同盟員数で6万8000票であった。6年間で4万人の同盟員が減少し、4万7000票を落としたことになる。各都府県連ごとの得票をみても、ほとんどすべてのところで軒並みに大幅減少していることである。
  第4に、同盟員の減少や不祥事による部落解放同盟の社会的信頼と影響力の低下という事実は、選挙戦を闘う前から分かっていたことであるが、「厳しい選挙」を勝ち抜くだけの「同盟員の積極性と自発性」を引き出すことはできなかったという事実である。
  第5に、選挙結果の敗因は一部の都府県連ということではなく、すべての都府県連に共通した現象であることを見据えるならば、部落解放同盟の運動と組織のあり方そのものが問われているということである。

 集票状況と得票結果から分析できることは、支部段階での力量が予想以上に弱体化している実態があるのではないかということである。別な見方をすれば、現在の部落解放同盟の運動は、本部―都府県連段階での運動であり、運動の一番の原点である支部・地域の実状を踏まえた運動になっておらず、部落解放同盟が部落大衆と遊離している状況であるといえる。
  それは、とりもなおさず、中央本部や都府県連が運動や組織の実能を適切に踏まえた実効性のある方針をだし切れていないということである。「組織力量の弱体化」や「社会的信頼や影響力の低下」などについての現状認識の甘さにたいする指導部の責任が問われる問題でもある。

 今回の敗北という結果を招いた運動上の問題点はどのようなところに存在しているのであろうか。
  第1に、各級機関決定の「方針や行動」を履行しようという同盟員の思いが稀薄化している実態がある。それは、組織的な締め付けで担保されるものではなく、履行することが同盟員自身の喜び(自己実現)であり、そうしなければ自らの損失になるという恐れ(自己喪失)などの個個の自発的意志を引きだすことによって担保される。その意味で、今日の部落解放運動が個個の同盟員や反差別人権を闘う仲間たちにとって魅力あるものとして認識されていない現状があるのではないか。
  第2に、部落解放運動の課題や選挙闘争の意義について、とりくみ課題にたいする同盟員の共感と情熱を呼び起こすような教宣活動・オルグ活動など活動のやり方そのものが決定的に不十分であることも事実である。
  第3に、「決められたことだからやれ」「同盟員ならやって当たり前だ」というような上意下達的な機械的命令的なやり方では、受けとめる同盟員の方も強制的・義務的な受けとめの対応しか生みださない。それは、消化主義・ノルマ主義的なとりくみと面従腹背的な数合わせのとりくみにしかならない。
  第4に、これらの問題は、今日の部落解放運動が従来の同和対策事業に代わる新たな運動課題を提起でき得ていない現状の反映である。「人権のまちづくり運動」や「人権の法制度確立運動」などで部落解放運動の新たな時代での魅力をつくりだそうとしているが、まだまだ不十分だということである。
  選挙期間中にも、「人権もいいが、飯が食える政策を出せ」という声を数多く聞いた。部落解放同盟として、部落大衆や困難をかかえた人たちの生活に密着させて「人権と仕事(生存権)」を両輪の課題として運動を創りだしていくことが喫緊の課題である。
  第5に、しかし一方では、「選挙活動はボランティアだといわれ銭にならない」との声もあり、功利と打算にもとづく「特措法」時代の悪弊から抜けだしきれない活動スタイルの根強い一面を浮かびあがらせている問題も存在する。
  第6に、一連の不祥事などで失墜した部落解放同盟の社会的信頼はまだ回復し切れておらず、メディアやネット上などでの意識的な反解放同盟・反松岡議員の煽動を有効に押さえこみ切れていないことである。
  第7に、結論的にいうならば、この間の「部落解放運動の再生・改革」運動のなかで提起されてきた部落解放同盟の負の課題が、克服されないままに凝縮された形で参議院選挙の結果として表れてきたとの認識が不可欠である。

  今回の選挙活動を通じて、組織的な課題も明らかになってきている。すなわち、従来からの中央集権的組織体制が、すでに限界にきていることを改めて実証したといえる。
    今回の選挙闘争でもそれぞれの地域事情に応じた多様な選挙戦術がとられたことは事実である。その意味でも、各都府県連・各支部の状況はきわめて多様であるという実態を踏まえた組織論・運動論が真剣に議論され、早急に改革実施するべき段階にきている。
  この間の規約改正論議は、そのような議論も含めておこなってきたが、不祥事の再発防止という最優先課題への対応に追われ、それらの課題検討はまだ具現化されず残されたままである。多様性をもったそれぞれの地域特性を基盤にした緩やかな連合体的組織としてのあり方なども真剣に追求していく必要がある。その意味では、ブロック執行体制はその試験的試みであるが、十分に機能しているとはいえない。
  以上のような組織上の問題を議論し整理していくと、新たな綱領・規約のもとに同盟員の再結集をはかり新たな活動スタイルを確立していく必要が現実的な喫緊の課題になっていると結論付けざるを得ない。

  今回の第2期松岡参議院選挙闘争敗北の責任は、偏に中央執行部にあることは明白である。それは、再生改革運動で提起されてきた改革課題を早急に仕上げて、選挙闘争を闘えるような運動と組織に整えきれなかったという責任である。別言すれば、「改革断行に向けた求心力を伴う指導性の欠如」であるといえる。
    したがって、中央執行部は、「総辞職に値する敗北」を喫したという認識を共有しつつ、実際には総辞職をすることによって現実逃避をはかるのではなく、敗北から這いあがるための新たな運動と組織のあり方に関する方針と実践を確立することによって、その責任を取るべきである。それは、けっして保身のための論理ではなく、わが身を捨てて針の筵の上であがきながら新たな方向性を打ち出すことである。逆にいえば、新たな運動と組織の再生のために改革断行の強い意志と姿勢が発揮されず、自己保身のために汲きゅうとする思いと態度に終始するならば、ただちに総辞職すべきだということである。

  今回の選挙で明白になった同盟組織の質・量の実態を見据えて、いっさいの虚栄や幻想を排し、従来の運動の延長線上で安易に「今後のあり方」を模索するのではなく、新たな運動と組織を一から作り直していくほどの腹構えが必要である。
    今回の選挙結果で、部落解放同盟の組織方針にもとづいて行動した同盟員は4割程度であり、組織内候補である松岡書記長に投票しなかった同盟員が相当な数で存在していることがはっきりしている。
  これは、組織決定違反だというような次元で問題認識をするのではなく、組織決定が「政党支持の自由」・「投票の自由」という枠組みを乗り越えるような魅力がなかったという認識が必要である。すなわち、根本的には、部落解放同盟の運動と組織のあり方が、「特措法」時代の悪弊を乗り越えることができず、魅力ある新たな運動を創りだせていないことである。
  そのために、来年の大会で採決予定の「新綱領」やすでに決定している「新規約」「行動指針」のもとに、同盟員の再結集をはかる再登録運動をできるだけ早い時期に実施していくことを検討する必要がある。
  それはとりもなおさず、新たな綱領・規約にもとづく部落解放同盟らしい同盟の運動と組織を創りだしていくことに他ならない。魅力ある部落解放運動を創りだすために必要な改革は断固としてやり遂げていく熱意と真撃さが求められている。

  われわれは、差別からの解放をめざしているのであって、特別対策的なあれこれの事業をめざしているわけではない。「人権の法制度確立」運動や「人権のまちづくり」運動はそのための異体的な戦略課題である。
    しかし、同時にそれらの課題は、抽象的なスローガンであってはならず、常に部落大衆や困難をかかえた人びとの生活改善に密着した異体的なとりくみ課題として提起されなければならない。それらの中心課題は、仕事・福祉・教育の分野で今日的な課題をつかみだし、それを解決していく部落内外の協働のとりくみとして具体化させていくことが肝要である。
  この点でのとりくみが決定的に立ち遅れていることが、魅力ある運動体としての求心力を部落解放同盟が減退させており、その反映として部落内外の支持者離れという今回の選挙結果としてあらわれてきたといえる。全国の各地域・支部からこれらの課題を中心とした運動の再構築をはかることによって、今回の参議院選挙の敗北を乗り越えて、新たな部落解放運動を再生していくとりくみに邁進することが重要である。

  最後に、今回の参議院選挙闘争の総括を踏まえて、部落解放同盟が国や自治体にたいして、人権・平和・環境を基軸とした政策課題をもっと日常的に精査した政策要求として押しだしていく必要があるということである。
    そのために、国会や自治体議会の組織内議員や推薦議員などを結集して、中央段階や都府県連段階で人権政策討論集会をひらいたり、それらを集約して国政にも反映するような政策集をまとめたりする活動を強化することが不可欠である。
  これらの活動の集約・結集の場として、「全国議員連盟」(仮称)を再発足させるとともに、3年後の参議院選挙を含めて今後の国政選挙や自治体選挙、さらには生活課題に密着した政策要求をおこなう行政闘争(政府交渉・行政交渉)などへの対応を協議していける体制を作っていくことが求められている。
  総括を締めくくるにあたって、すべての同盟員とともにもう一度確認しておきたい。今回の参議院選挙闘争の敗北は、部落解放同盟にとっていろいろな意味で深刻かつ大きな打撃であったことは疑う余地がない。しかし、この敗北を真正面から受けとめ、真撃に総括をして、運動と組織の再生に向けた課題を共有し、統一と団結のもとに一丸となって部落解放運動を推しすすめる力に変えることができるならば、今回の参議院選挙闘争敗北の教訓は部落解放同盟にとって貴重で大きな財産となるに違いない。部落解放同盟は、それを可能にする底力と良識をもっていることを確信するものである。

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