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部落問題資料室
NEWS & 主張

 

土地差別調査事件の糾弾闘争から法改正の闘いへ

「解放新聞」(2012.02.27-2558)

 「事実過去には、クライアントから不動産と同和地区の関係、同和地区の有無や位置について尋ねられたことはあり、その際は知る限りの情報提供をしてきました。まさに部落差別を助長し、荷担しておりました(某広告代理店)」
  「同和地区またはその近傍物件の仕入れには、売れ残りリスクを考えるとより慎重にならざるをえないと担当者が意識していたこと、従って、担当者の選別の段階で事業を計画するに至らなかった物件もあることが今回明らかになりました(某ディベロッパー)」
  「上長の教育を含めて「人権問題」とりわけ「同和問題」に対する社内教育の不備が本件を問題として取り上げ、指摘できなかった要因であると思いますし、そうした意味では糾弾会で指摘されましたように不動産広告を扱う社として「起こるべくして起こった」といわれても止むを得ない「会社体制」であったと反省しております(某広告代理店)」
  「本来、不動産業者に従事する社員には、部落差別問題に関し正しい理解と認識を研修等により徹底させなければならなかったにも拘わらず、それらが十分行われていなかったことから、市場調査報告書依頼時に、業者に対し差別的な表現や内容が含まれることのないようガイドラインを提示する等、具体的に差別を許さない為の方策を講じることができていなかったことや、さらに受け取った市場調査報告書に問題表現があっても、そのまま見過ごしてしまうことになったと判断しております。そして、差別につながる問題表現を見過ごすことが、結果として、差別を助長し、温存することにつながることになるという認識がたりなかったことについても深く反省しております(某ディベロッパー)」
  どれもが、部落解放同盟から糾弾を受け、真撃に反省した企業の反省文からの引用である。引き起こした事件は偶然ではない。差別を拡散し助長する役割を果たしてきたことの罪は重い。再発防止だけにとどまっていては意味がない。レッテルを貼り、排除してきた地域の開発にとりくんでこそ、意義あるものだといえる。関与した企業の心からの反省が、部落のこれからの新しいまちづくり運動と連携することを期待したい。

 こうした「土地差別調査事件」糾弾のとりくみも事件に関与した企業への糾弾闘争から、いよいよ法改正の闘いなどへ舞台を移すこととなる。そこで、土地差別調査事件が突きつけた大きな課題として、つぎの4点を指摘しておきたい。
  まず第1の課題は、事件発覚当初、関与した企業すべてが、事件を重大な人権侵害だと認識したケースは皆無であったということである。「大阪府個人情報保護条例」の違反行為にあたるとの認識が広がったことで、反省の姿勢をみせはじめるという企業体賃を改めて暴露した事件であり、法や条例のもつ絶大な規範性がこの事件を重大な人権侵害事件に押し上げたといっても過言ではない。と同時に、法や制度が届かない人権問題には、逆に冷ややかであり、被差別当事者が泣き寝入りせざるを得ない現状にあることを明らかにした事件でもある。
  第2の課題は、マンションを建設し、販売するという仕組みに差別調査が組み込まれていた事実にたいし、そのシステムを改善するためには、新たに人権侵害を誘発しない、むしろ人権を最大限尊重したマンション建設・販売とは、いかにあるべきかという新たなシステムの構築が急がれる。市民から忌避される地域を参画型の地域に変革させ、共生地域を実現するためのマンション開発が求められることとなる。1970年代から忌避し、避け続けた地域の改善というテーマはマンション開発業者にとっては避けてとおれない課題であることを明らかにした事件である。
  第3の課題は、差別を事後規制するという運動スタイルから、事前に規制する運動スタイルへの転換を図る必要が強まってきているという課題である。事実確認や糾弾というスタイルは、部落差別事件が発覚したからこそ、指摘できるシステムであり、そうした闘いは継承・発展させていくべきものであることはいうまでもない。しかし、差別意識は空気を吸うように世に存在していると捉えるならば、差別に発展しそうな制度や風習、慣習などの社会の仕組みをとりあげ、その仕組みを改善し、人権がきちっと担保されるように組み替えるという考え方が、差別の事前規制という考え方である。差別糾弾闘争をさらに発展させ、差別の事前規制を実現するという運動展開が求められていくこととなる。

 第4の課題は、各自治体で施行されている「個人情報保護条例」の解釈に「同和地区の所在地名」を〝社会的差別の原因となるおそれのある個人情報(センシティブ情報)″であると規定させることである。つまり、同和地区の所在地を調査し、報告したことが個人情報の侵害にあたるという解釈を適用させ、〝同和地区″に居住しているかどうかを調査することが、個人情報保護の観点から問題であると条例で規定させることである。
  しかし、「現在の「個人情報保護法」の解釈からいえば、対象となる個人情報の範囲には、「『同和地区』の所在地名は『個人情報』」として扱わない」とする考え方に立脚している自治体が多い。今回の「土地差別調査事件」が明らかになったのは、皮肉にも大阪府の「個人情報保護条例」の適用基準が全国の条例とは異なっていた結果、世に問われることとなったのである。「土地差別調査」は大阪府に限った問題ではなく、他府県でも差別調査が実施されていたことが確認されている現状をみたとき、「個人情報保護条例」の解釈に、「同和地区の所在地名」の調査・報告が条例違反にあたると規定させることが重要なとりくみである。


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