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部落問題資料室
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人権確立めざす国際潮流と連帯し、とりくみを推進しよう

「解放新聞」(2012.06.25-2574)

 国際社会では、国家間の取り決めがすべてであった時代には、NGOや市民の主張はまったくといっていいほど、とりあげられなかった。しかし、国際社会での市民のたゆみない地道なとりくみが、国家中心的な状況を変えてきた。
  国運ではNGO(非政府機構)が協議資格をもって、正式な会合に参加するようになり、市民社会の声を粘り強く反映してきた。その結果、世界でまきおこるさまざまな人権問題を、人権に関する宣言や条約に反映させてきた。いまや、国際人権保障の潮流は、かつての大人の男性を中心としたものから、ジェンダーの視点から女性へ、そして子ども、障害者、先住民族などマイノリティの人権保障へと大きく転換していった。
それらは、人種・女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、障害者権利条約などに結実してきた。
  それにもかかわらず、国際社会では国家が唯一の権利・義務の担い手であるとする旧態依然とした考えが根強く、人権問題を無視したり、人権諸条約をまじめに履行しない国家が数多くある。人権諸条約に関しては、日本政府も履行状況を定期的に条約委員会に報告し、審査を受ける。しかし、政府報告書には見るべき内容がないし、たとえ異体的な点で改善するように勧告が出ても、「法的拘束力がない」として、その実行に消極的なのが現実である。個人が国連の条約機関に通報する個人通報制度にいたっては、「司法権の独立」を理由に日本政府はその部分を留保している。国内の人権保障は、国際人権基準にほど違いのが実情だ。

 市民社会が社会的正義を掲げ、政府に国際人権基準の実行を迫り、法律や施策の制度設計に組み込むように、国際的な潮流とも連帯して働きかけていくことは、国内人権状況を改革するためにきわめて重要である。
  たとえば、事実婚の子への差別を、「合理的差別」として容認してきた日本政府の人権論は、出生による差別を禁止する国際人権基準によって厳しく批判され、敗北を余儀なくされてきた。現在では、こうした「合理的差別」は、具体的な裁判を通じて、ようやく国内的にも批判されるようになってきた。
  あるいは、各国政府は人権諸条約の条約の履行状況を定期的に報告する義務があると同時に、政府機関から独立した人権委員会を設置して、国際人権基準の履行を監視することになる。しかしながら、日本ではいまだに「パリ原則」にもとづく監視機関の設置すらできていない状況だ。3条委員会にもとづく「人権委員会設置法案」が存在するものの、いまだに上程さえされていない。しかも、▽人権侵害の定義があいまいで乱用される▽表現の自由を侵害、自由社会を崩壊させる▽「強制調査」がおこなわれる▽3条委員会として人権委員会に強力な地位と権限は必要ない、などを理由に反対意見が宣伝されている。

 こうしたなかで、人種差別撤廃委員会は部落問題に関して「2002年の特別措置法終了後、平等が実現し、将来的にも持続的であることを統計的数字で示せ」「条約第1条の世系に部落問題が入るとした一般勧告29を受け入れるように」日本政府に勧告した。ところが、この重要な勧告にたいして、政府には部落問題を取りあつかう責任所轄が存在していないことを理由に、条約委員会への回答はいまだにされていない。
  いまこそ、政府は条約第4条の、差別を禁止し犯罪として処罰する条項の留保を解き、虐待防止法から差別禁止法へ踏み込むべきである。そのことが、「差別・人権侵害は社会あげて根絶すべき社会悪」との社会的合意形成にとってきわめて有効であるにもかかわらず、政府の姿勢はきわめて消極的である。
  国際人権基準を掲げ、機能させ、国内の人権状況を変えていくには、人権に関するさまざまな条約委員会の勧告を国内的に共有し、幅広い人権教育を通じて、それを制度設計の人権基準とすることである。


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