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部落問題資料室
部落解放同盟ガイド

2013年度(第70期)一般運動方針

第Ⅰ部 基調方針
一 部落解放運動をめぐる情勢の特徴


3 人権と環境をめぐる情勢
  ①世界経済フォーラムが昨年、政治や経済、健康、教育の4分野で男女の格差を調べたところ、日本は調査対象となった135か国中、101位で前年より順位を3つ落としました。内閣府が実施した男女共同参画の調査でも「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という意見について、賛成が52%、反対45%となっています。調査開始いらい減り続けていた賛成の割合が初めて増加し、逆に反対の割合が減少するという、これまでの傾向が逆転しました。
  ②2011年の一年間に全国の警察に寄せられたドメスティックバイオレンス(DV)の相談件数は3万3745件で、前年比6.9%増となり、統計のある2003年以降で最多となっています。また、全国206か所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数も5万9862件で、これまでで最多となっています。
  ③妊婦の血液を調べて、胎児がダウン症かどうかを「99%の確率」で診断する新検査について、日本産婦人科学会が「指針案」を発表しました。検査で調べる染色体異常は胎児治療の対象にならないため検査が普及すれば、人工妊娠中絶が増える可能性があります。「母体保護法」には「胎児の障害」を中絶の理由とする条文はありません。障害者インターナショナル(DPI)日本会議女性障害者ネットワークは「私たちの社会が、今すでにある以上に出生前診断を普及させてよいのか、さまざまな立場の人が話し合う場が必要ではないでしょうか」とよびかけています。
  ④「障害者権利条約」の批准に向けた国内法の整備の一環として「障害者基本法」「障害者自立支援法」が改正されました。さらに今年は「障害者差別禁止法」制定に向けて、2年をかけた議論によってとりまとめられた「差別禁止部会の意見」をふまえた法案が準備されています。この法律はどのような行為が差別にあたるのかというものさしを示し、社会の最低限のルールを定めるものです。障害者だけの闘いとせず、あらゆる差別に反対する人びとの運動として、厳しい情勢にはありますが、協働のとりくみをすすめていかなければなりません。
  ⑤1951年に全国ハンセン病療養所入所者協議会(全療協)が結成された当時には1万2000人いた入所者が、現在2096人になっています。毎年約150人の方が亡くなっているのです。入所者の平均年齢は80歳をこえています。国賠訴訟判決の結果、ハンセン病隔離政策の反省を表明したはずの国の責任と努力義務を明示した「ハンセン病問題基本法」が無視されている現状に、全療協は「最後の闘い」をはじめました。全寮協の神美知宏会長は、全療協がいまの課題を抱え続けている最大の理由は市民の無関心にあるとし、「日本社会はなぜ、そのような実態を見て見ぬふりをしているのか。市民のみなさん方とともに論議していきたい」と協働の闘いをよびかけています。
  ⑥本年4月30日、国連・社会権規約委員会で日本政府第3回報告の審査がおこなわれます。この審査では、東日本大震災と福島第1原発事故の被害者の人権とともに、「特別措置法」後の部落差別の実態と政府のとりくみ、アイヌ民族や在日コリアンの人権などが問われることとなっています。本年で創立25周年を迎えた反差別国際運動(IMADR)などと連携し、部落差別をはじめとするあらゆる差別の撤廃と人権確立に向けてこの機会を活用していくことが求められています。
  ⑦昨年は、全国水平社創立90周年の年でした。中央本部はもとより全国各地で、水平社宣言と90年の運動から学ぶとりくみが展開されました。今年は、全国少年少女水平社と全国婦人水平社の設立を決議した全国水平社第2回大会から90周年の年にあたります。また、部落委員会活動と結びつけて闘われた高松差別裁判糾弾闘争から80周年の年にもあたります。これらの歴史から学び、各部落にしっかりと根を張った日常活動を強化するとともに、部落解放運動への青少年や女性の積極的な参加を促していくことが求められています。

4 部落のおかれている状況と差別の実態
(1)脆弱な部落の教育・労働・産業・生活実態を直撃する経済危機
  ①1995年に当時の日本経営者団体連盟(日経連)が発表した「新時代の『日本的経営』」(非正規社員の拡大志向)を受けた小泉政権による規制緩和路線と、2008年9月の「リーマン・ショック」以降の世界同時不況のなかで、日本の非正規雇用労働者は1800万人をこえ(全労働者の3分の1)、年収200万円以下のいわゆるワーキング・プアは約1100万人と全労働者の約25%にもおよび、格差と貧困が拡大しています。とくに相対的に権利基盤が弱い若年層への打撃は大きく、国際的にも「社会的排除と青年」は大きなテーマとなっています。たとえば日本の「子どもの貧困率」は15.7%(ひとり親世帯では54.3%)と、先進諸国のなかでも高い数値です。就学援助を受ける小中学生は約140万人(全小中学生の約14%)で、この10年間で倍増しています。そして全国学力調査結果でも、就学援助を受けている低所得層の子どもほど低学力傾向がいちじるしく、さらに「知識基盤型社会」の現在、低学歴層ほど不安定就労の状態にあるという「教育と労働の悪循環」傾向が強まっています。また世帯類型では「ひとり世帯」家族が30%をこえて、はじめて一番多くなり、児童虐待は相談件数だけで5万件をこえるという不安定化と孤立化が進行しています。
  ②こうした社会構造は、部落の若い世代の教育・労働実態などにも深刻な打撃をもたらしています。2006~10年に実施された愛知・埼玉・大阪・兵庫・奈良・京都の部落女性調査結果(約1万2000人)では、20~30歳代の若年層でも、最終学歴で高校中退者を含む中学校卒業割合が約10%強と府県平均より2倍高く、非正規雇用が約6~7割と府県平均より1.5~2倍高い実態が存在します。
  2010年に中央本部が実施した部落青年に関する雇用・生活調査(約820人回答、福岡・高知・香川・大阪で過半数)では、さらに深刻な結果が出ています。また「差別を受けることへの不安」が約2分の1、「部落出身という意識がある」が約4分の3、結婚平均年齢が約24歳(全国平均29歳)という結果も出ています。さらに部落のなかで比重が高い建設業関係者も倒産・廃業の波を大きく受け、若年層の雇用不安定を招いています。

(2)社会の不安定化と自己責任論のなかで後退する人権・部落問題意識
  ①経済危機と社会の不安定化のなか、社会・経済・政治的な仕組みに問題があるにもかかわらず、その原因を覆い隠すための「自己責任論」が依然として根強くあります。その結果、一方では何らかの挫折にともなう自己存在への否定感と孤立感が強まっています。そして解決しない不安や不満の解消の矛先は、偏狭なナショナリズムとも結びつき、部落をはじめとするさまざまなマイノリティにたいするインターネット上での差別・誹謗中傷・排外主義の横行、あるいは「誰でもよかった」という言葉に象徴されるような無差別殺人事件や大量差別投書や落書き事件として顕在化しています。また、相対的に安定した正規労働者を基本とする労働組合、とりわけ官公庁の労働者や労働組合、あるいは部落解放運動や同和行政へのバッシングなどに意図的に仕向けられています。さらに基本的人権の尊重を顧みない、家族・地域・民族・国家や社会規範・道徳性が声高に強調されています。
  ②こうした結果、2012年度実施の内閣府「人権擁護に関する世論調査」結果でも、人権侵害の現状はあまり変わらないとした人が約46%と前回調査より増加しています。また「人権教育・啓発推進法」(2000年)制定以降のとりくみにもかかわらず、意識状況にはさまざまな問題があります。「人権擁護に関する世論調査」でも、「基本的人権は侵すことのできない永久の権利として、憲法で保障されていることを知っていますか」にたいして、2割近い人が「知らない」と回答しています。さらに近年の各府県人権意識調査では、府県によって数値のばらつきはありますが、部落出身者との結婚忌避(2007年愛知県、2008年奈良県・宮崎県・兵庫県、2010年大阪府)や部落が存在する校区に住むことへの忌避(2008年奈良県、2010年大阪府)も1~5割程度見られます。そして大阪府や京都市(2011年)の意識調査結果では、部落問題認識が10年前と比較して後退していることが明らかとなっています。

(3)陰湿で巧妙な差別事件の増加と出身者の苦痛・不安
①このような政治の反動化や経済不況のもとで、社会不安が増大し、陰湿で巧妙な差別事件が急増しています。土地差別調査事件のとりくみでは、調査会社・開発業者・不動産業界・広告代理店などにたいして糾弾闘争を展開し、差別体質を明らかにするとともに、マンション建設に関する土地購入について部落を敬遠し避けたいとする忌避意識が事件の背景にあったことを明らかにしてきました。土地差別調査事件の防止の一環として、土地取引のさいに、部落の所在地を調べたり、知らせたりする行為などを規制の対象とした土地差別調査を規制する条例がこれまでの大阪府部落差別調査等規制等条例を改正し2011年10月1日、全国ではじめて施行されましたが、こうしたとりくみを全国に広げていくことが必要です。
  ②戸籍謄本などの差別につながる個人情報の収集にかかわる差別事件では、2011年11月、職務上請求書を偽造して戸籍などを不正取得したとして、東京都内のプライム法務事務所社長や横浜市の興信所社長、司法書士ら5人が愛知県警に逮捕されました。この事件では、1万件にのぼる戸籍などの不正取得の実態が浮き彫りにされ、2012年に入って名古屋地裁がプライム社社長に実刑3年、興信所社長に2年6か月、司法書士に罰金250万円、元弁護士に懲役2年(執行猶予4年)をいい渡しました。
  裁判では、「その8~9割は、結婚相手の身元調査と浮気調査だった」との証言もあり、不正に取得された個人情報が悪用されストーカーや脅迫など数多くの被害が出ています。さらに、愛知県警は6~9月にかけて、職歴情報や携帯電話情報、車両情報が大量に売り買いされている実態をつかみ、また戸籍等「群馬ルート」も明るみになり、ハローワーク横浜の職員と神奈川県内の調査会社経営者、岡山県のソフトバンク元店長と広島県の興信所経営者、長野県警の現職警官2人と元県警幹部で興信所社長、国土交通省関東運輸局職員を逮捕しました。事件の全容解明をおこない、「本人通知制度」導入のとりくみ、8士業会などへの働きかけなど、再発防止のとりくみが求められています。
  ③さらに、社会への不平・不満のはけ口として、公然と部落や在日コリアンへの攻撃的な差別扇動事件がおこっています。奈良では、水平社博物館前の路上からハンドマイクで「目の前にあるエッタ博物館、非人博物館」「いいかげん出てこい、エッタども、エッタ、非人」などと連呼した差別事件がおこっています。水平社博物館は、「在日特権を許さない市民の会」副会長を名誉毀損で奈良地方裁判所に提訴し、奈良地裁は2012年6月25日、明らかに不当な差別語を使った差別演説であり、水平社博物館への名誉毀損にあたり、その内容が水平社博物館の設立目的、活動状況などを否定するものとして慰謝料150万円を支払えという判決をおこないました。
  ④『週刊朝日』(2012年10月26日号)に掲載された「ハシシタ 奴の正体」と題した記事にたいして、中央本部として10月22日、出自をあばくことだけでなく、「血脈」「DNA」を強調することで部落出身者の存在そのものを排除、否定する、明確な差別記事であるとして抗議文を送付しました。今回の記事の被害者は橋下市長だけでなく、全ての部落出身者であるとして強く抗議するとともに明確な見解を求めています。
  また、大阪市の田畑龍生・都島区長が区長公募に応募した論文で複数の地域を「同和地区」と名指しするとともに、地域を否定的に取り上げた内容を、市がホームページにそのまま掲載していた「同和地区」論文事件の糾弾会がとりくまれました。田畑区長は「不適切だった」と謝罪しましたが、経緯などで不透明な部分も多く、大阪府連は第三者による検証委員会の設置などを求めています。
  ⑤NHKが制作した「鶴瓶の家族に乾杯」(2012年5月7日放映)で、俳優のルーツ探しのなかで、広島県の浄土真宗本願寺派(西本願寺)の寺院を訪れたさいの「過去帳」開示問題で、NHKと本願寺派にたいして中央本部と広島県連の連名で抗議文を送付、話し合いをすすめてきました。本願寺派にたいしては、昨年11月9日の第2回協議会をふまえて提出された見解書をふまえ、この「過去帳」開示問題をはじめ、今日的な部落差別の実態を学ぶとりくみとして、各教務所と都府県連との話し合いをすすめていくことを確認しました。また、NHKにたいしても、放映した社会的責任を厳しく指摘し、課題の共有化と社内研修の見直し、部落問題や人権問題についての積極的な取材体制の確立などを要請しました。
  ⑥インターネット上の差別事件が悪質化しています。インターネット上の掲示板への被差別部落の地名や所在地などの情報の書き込み、全国の部落の地名を集めてインターネット上に画像ファイルを公開した、いわゆるインターネット版「部落地名総鑑」、動画投稿サイトへの兵庫県や和歌山県をはじめ各地の被差別部落のようすを撮影した動画の掲載など、誰もが見られる状態に放置されており、早急な対策が求められています。
  ⑦その他、経済不況のもとで、雇用差別につながる公正採用選考での違反事例が急増しています。また、福岡市内大量差別落書事件をはじめ差別落書・投書・電話・電子メール事件や同和地区かどうかを問い合わせる差別事件も各地で多発しています。

(4)5領域からの差別実態の本格的な調査実施を
  貧困の増大、格差の拡大、社会的排除の進行など社会が大きく変化してきています。部落の側にあらわれる実態的被差別の現実、心理的被差別の現実、部落以外の側にあらわれる実態的加差別の現実、心理的加差別の現実、そして差別事件の実態という5つの領域から差別の現実をとらえる本格的な実態調査の実施にとりくむ必要があります。

二 部落解放運動の基本課題
1 本大会の意義と任務
(1)世界的に拡大する格差・貧困問題と雇用不安に抗して、社会連帯のとりくみをすすめよう
  ①格差・貧困の問題や雇用不安は、世界的にもますます深刻化しています。アメリカでは、財政状況の悪化と景気低迷、EU圏でも経済不況にともなう政治不安がすすんでおり、閉塞感が深まっています。アジアでも、中国、ロシア、韓国では、それぞれ新しい指導者が生まれましたが、いずれも国内の格差問題や雇用不安が大きな課題となっています。また、世界的な経済不況が続き、長期停滞傾向に歯止めがきかない今日、こうした不安定な国際情勢のもとで、宗教対立や民族対立をはじめ、国際紛争も続発しています。
  ②2008年のリーマン・ショックいらい、「ウォール街を占拠せよ」を合言葉にはじまった一連の抗議行動は世界中に拡がりました。今日的な世界経済の危機は、新自由主義路線のもとですすめられているさまざまな政策に起因しています。こうした世界的に拡大する格差問題や深刻化する貧困問題と雇用不安に抗して、いのちと生活を守る闘い、社会連帯をすすめる協働のとりくみがますます重要になっています。
  ③2012年12月16日に衆議院総選挙がおこなわれ、民主党政権への批判が集中するなかで、民主党は57議席と壊滅的な敗北となる一方、自民党が294議席と圧勝し、「戦後体制からの脱却」として、憲法改悪と軍備増強をめざす安倍第2次内閣が発足しました。核武装を容認する日本維新の会も54議席となり第3党になっています。このような改憲勢力の伸長のもとで、安倍政権は、尖閣諸島や竹島、北方領土問題でも強硬姿勢を取っています。さらに高校授業料無償化法の見直しと朝鮮高校の排除、原発の再稼働や新設、防衛費を増大する一方、「自助、自立」を強要し、生活保護費の削減を明言するなど、国権主義・反人権主義の政治をおしすすめようとしています。東日本大震災の復興支援でも公共事業を中心に据えるなど、避難を余儀なくされている多くの被災地の人びとや「もっとも困難をかかえた人たち」への視座が失われた施策がすすめられようとしています。
  ③このような厳しい政治情況のなかで、部落解放運動の果たす役割はますます重要になってきています。みずからの生活圏域内で、いのちと生活を守る運動を具体的にすすめてきた部落解放運動の成果を共有、発展させていくことが求められています。とくに、差別-被差別の関係を克服し、「人と人の豊かなつながり」を再構築していくとりくみをすすめていかなければなりません。部落解放運動がすすめてきた「人権のまちづくり」運動こそ、こうしたとりくみの基本方向を打ち出したものです。部落内外の協働した豊かな実践を交流しながら、それぞれの地域での具体的なとりくみに結びつけていくことが必要です。

(2)人権・平和・環境を基軸にした政治の実現に向けて闘いをすすめよう
  ①2012年12月の衆議院選挙は、安倍政権を誕生させ、改憲勢力が衆議院の3分の2以上を占めました。いまや、政治情況は、かつての革新-保守、左翼-右翼反動ではなく、人権・平和・環境を基軸にした政治勢力なのかどうかを大きな分岐点にしながら形成されています。衆議院選挙でのブロック比例で民主党を中心に社民党もふくめて推薦したのは、これまでの支持・連帯関係であったことはもちろんですが、それ以上に、人権・平和・環境を基軸にした政治を実現することに期待したからです。
  ②民主党の野田政権は、「社会保障と税の一体改革」やTPP問題、「武器禁輸三原則の緩和」などの政策をすすめてきました。また、脱原発の姿勢も明確ではありませんでした。ましてや人権の法制度の第一歩である人権侵害救済制度の確立のとりくみ、具体的には「人権委員会設置法案」の政治的な取り扱いについて、私たちは厳しく批判してきました。しかしながら、安倍自民党や日本維新の会の反人権主義、戦争推進勢力と対決し、人権・平和・環境を基軸にした政治をおしすすめるためには、政権交代の歴史的意義をふまえ、民主党を中心にした政権のもとで政策展開を求めていくことが必要であることを確認してきました。
  ③こうした政治にたいする基本姿勢を堅持しながら、人権・平和・環境を基軸にした政治の実現に向けて、積極的に政治と向き合うことが求められているのです。しかも、厳しい政治情勢のもとであることから、これまで以上に積極的な政策提言が重要であることはいうまでもありません。あらためて人権の法制度確立のとりくみを強化し、「人権侵害救済法」実現に向けた闘いの再構築に全力でとりくみます。
  ④本年の参議院選挙のとりくみにあたっても、政治闘争の意義と基本方向をしっかりと論議し、憲法改悪阻止と人権の法制度確立に向けた政治情勢を創りだしていかなければなりません。

(3)組織と運動の改革・強化に向けて、全国的な議論を展開しよう
  ①昨年は全国水平社創立90年という大きな節目の年でした。3月の京都での記念集会では、90年にわたる部落解放運動が、国内外の差別撤廃と人権確立、平和と民主主義を守る闘いと協働しながら、「差別撤廃・人権確立」を日本社会での社会的価値観や規範として定着させつつある段階にまで押し上げてきていることをあらためて確認してきました。さらに、「全国水平社創立宣言」にもとづく部落解放運動が、多くのマイノリティの権利回復と人間的誇りを取り戻すためのとりくみの発展に大きく貢献してきたことや、反差別国際運動(IMADR)の結成と活動を通じて国際人権基準を進展させる闘いの重要な一翼を担う、反差別国際連帯の中心的な闘いをすすめてきたことを明らかにしてきました。
  ②こうした全国水平社創立90年の闘いの到達点と意義を今日的に確認しながら、これからの部落解放への確かな道筋をつかみとる真剣なとりくみが求められています。この作業は、「特別措置法」時代33年間の総括と合わせて、「特別措置法」後の現状認識と総括の論議をもとにすすめることが重要です。部落差別とは何かを根源的に問い返し、具体的な差別克服への方策を打ち出すために、90年かけてなお克服できていない部落差別を、個人的な感覚論や抽象論ではなく、差別実態の正確な把握をもとにしながら、具体的なとりくみ課題を明確にしていかなければなりません。
  ③この間とりくんできた「綱領」改正や「行動指針」の策定も、こうした部落解放運動の基本方向と当面の目標を明確にするためのものです。そのためにも、組織と運動の改革・強化を最重要課題として、中央本部-都府県連-支部(地区協議会)が双方向での論議を重ねることで、問題意識ととりくみ課題を共有していくことが必要です。組織と運動の改革・強化に向けて確認しておかなければならないことは、今日的な部落差別のあらわれ方をどのように捉えるのかということです。部落差別事件だけではなく、日常生活や経済活動のなかにあらわれる部落差別にもとりくんでいくことで、生活・福祉の課題、格差や貧困を克服していく課題につなげていくことが重要です。地域のなかの一人ひとりの想いや部落差別への怒りを受けとめ、困難な課題をていねいなとりくみのもとで解決策を見出すこと、差別の現実を変えていく、乗り越えていくことを運動の結集軸にしていかなければなりません。これまでの部落解放運動には、地域での相談活動、世話役活動を通じた、そうした解決力を蓄えてきた素地が必ずあります。このとりくみを全国的に経験交流、共有化することで、運動と組織の改革・強化をめざした課題を明確にしていくことが必要です。
  ④昨年の第69回全国大会以降、こうした課題のとりくみを具体化していくために、「起業(企業)・農水・生労・人材育成本部」を設置し、論議を開始しました。まだまだ不十分ですが、各運動部の課題を整理し、明確化するなかで、横断的なとりくみをすすめています。また、組織と運動の改革・強化につながる人材育成をすすめていく方向を打ち出しています。全国水平社創立いらいの90年の闘いのなかで、継承すべきものと克服すべきものをしっかりと峻別する作業をすすめ、継承・発展させるべき成果を明確にしていく必要があります。一方、克服すべき誤りや弱点を隠蔽することなく真摯に教訓化することが求められています。そうした真摯な論議のなかから、これからの部落解放運動を発展させていくための組織論や運動論を打ち立てていくことが急務の課題です。「全国水平社創立宣言」にある自主解放の思想と反差別共同闘争の実践をふまえ、部落内外の社会連帯の実現をめざす闘いを大胆にすすめ、厳しい情勢を乗り越える部落解放運動のあらたな展望を内外に示すことが求められています。

2 2013年度(第70期)の重点課題
(1)「人権侵害救済法」実現に向けた闘いの再構築をすすめよう
  ①人権の法制度確立をめざす闘いとして、「人権侵害救済法」早期実現に向けたとりくみをすすめてきました。とくに「民主党政権のもとで法制定を実現する」という基本方針を確認し、「人権委員会設置法案」制定に向けて、中央集会や国会議員要請行動をはじめ、政府・与党への働きかけを中心に全力をあげてきました。
  ②「人権委員会設置法案」は、国内人権機関としての「人権委員会」について、その独立性を担保するために国家行政組織法の第3条にもとづく機関として提案されました。また、メディア規制条項を外すなど一定の評価ができますが、法務省外局としての所管問題や人権委員会の権限問題など、多くの問題点も指摘されてきました。しかし、中央実行委員会での論議の集約として、多くの不十分点があったとしても、現実的に成立可能な今日的な条件である3条委員会として、「政府から独立した人権委員会」の設置を最優先し、法実現に全力をあげてきました。将来的に、「望ましい人権委員会」としての充実・改革に向けては、「5年後の見直し」を視野に入れて、確かな条件を担保することとしました。この基本姿勢を堅持しながら、法制定実現に向けた集中的な国会闘争態勢のもとでとりくみをすすめてきました。中央実行委員会および都府県実行委員会はもちろんのこと、日本労働組合総連合会(連合)や部落解放中央共闘会議をはじめ、行政・企業・宗教関係団体などがそれぞれの立場でさまざまなとりくみを展開し、閣議決定をさせた闘いの到達点を確認することが必要です。
  ③こうした。この間の闘いの到達点や成果をふまえ、あらためて「人権侵害救済法」制定に向けた闘いの再構築にとりくみます。これまでのとりくみでは、差別事件や人権侵害による被害救済という立法事実をもとに、なによりも3条委員会としての独立性を最優先した現実的な闘いを展開してきました。政府にも、「パリ原則」をふまえた国内人権機関の設置が必要であるとの姿勢を明確にさせてきました。こうした成果をふまえ、憲法を具体化していくという人権の法制度確立に向けた闘いの原点を確認しながら、「人権侵害救済法」制定のとりくみを再構築していきます。
  ④当面、中央実行委員会や都府県実行委員会の加盟団体との協議をすすめ、さまざまな人権課題についての制度・政策要求を集約し、それをもとに政府交渉などにとりくみます。こうしたとりくみをもとに、法制定に向けた運動の裾野を拡げ、有利な政治的社会的条件づくりをすすめます。また、中央行動と都府県段階のとりくみを効果的に結合して闘いをすすめます。
  ⑤これまでも明らかにしてきたように、「人権侵害救済法」制定の闘いは、人権の法制度確立に向けた当面の最重要課題です。法制定の政治責任、政府責任、国際的責務をしっかりとふまえながら、独立性、実効性のある国内人権機関の設置を中心にした「人権侵害救済法」制定の意義を再確認し、厳しい情勢のもとでのとりくみを全力ですすめます。

(2)狭山再審闘争の勝利とえん罪防止のための法制度確立に向けて全力をあげて闘いをすすめよう
  ①狭山の闘いは、事件発生から50年を迎えます。第3次再審闘争では、2009年9月に裁判所、検察官、弁護団による三者協議が開始されて以降、証拠開示がおこなわれています。とくに、石川一雄さんが逮捕当日に書いた上申書などが証拠開示で明らかになり、筆跡鑑定とともに新証拠として提出されています。また、万年筆、鞄、腕時計の3物証に関する捜査報告書などの証拠も開示されています。さらに弁護団は、昨年9月に、腕時計に関する新証拠を提出しました。石川さんの「自白」によって発見されたという腕時計が被害者のものでないという疑いを示す重大な証拠です。このようなとりくみの成果をふまえ、狭山第3次再審の実現と石川さんの無実をかちとるために、証拠開示と事実調べに向けた闘いをすすめます。
  ②一方、検察側は、その後の弁護団の証拠リストなどの開示要求を拒否し続けており、あらためて証拠開示を要求していかなければなりません。この間、開示された証拠によって、石川さんの無実を示す新証拠が明らかになりました。こうした証拠開示をさせてきたのは、弁護団のとりくみとともに、石川さん、早智子さんの高裁前でのアピール行動や全国各地での署名活動、証拠開示の法制化要求のとりくみ、住民の会や中央共闘会議、同宗連などによる要請行動の成果です。
  ③昨年11月には、「東電社員殺害事件」で再審無罪判決が出されました。足利事件や布川事件など、この間、あいついで再審無罪判決が出されましたが、いずれも証拠開示と鑑定人尋問などの事実調べが再審開始の大きな力となっています。こうしたえん罪事件のとりくみを教訓にし、えん罪防止に向けた証拠開示と取り調べの全面可視化の法制度確立に向けて全国運動を強化していく必要があります。
  ④狭山事件50年を迎えた本年、50年の闘いをふりかえるとともに、証拠開示と事実調べを求める世論を高めるために、当面、5月の中央集会の成功に向けて、各地での集会とパネル展示のほか、教宣パンフなどを作成し、とりくみを強化します。また、闘いの財政基盤を確立するために、狭山闘争基金をつくるなど、創意工夫した闘いをすすめます。

(3)差別糾弾闘争を強化し、差別撤廃に向けた協働のとりくみを前進させよう
  ①差別糾弾闘争は、差別が社会悪であることを訴えるとりくみであり、「差別糾弾闘争強化基本方針」にもとづき、差別事件の背景と原因、課題などを明らかにすることが重要です。また、差別事件の実態を広く社会的に明らかにし、再発防止に向けた制度改革につなげていくことが必要です。
  ②そのためにも、都府県連での差別糾弾闘争の成果の共有化と、今日的な差別事件の集約、分析をすすめます。とくに、土地差別調査事件や戸籍等不正取得事件などのように、全国的にとりくむ差別事件については、全国糾弾闘争本部長会議などで論議し、統一的な闘いをすすめていくことが重要です。さらに、NHKと浄土真宗本願寺派(西本願寺)にたいしてとりくんだ「過去帳」開示問題や『週刊朝日』掲載の差別記事など、マスコミや宗教団体などについては、中央本部と関係都府県連で協議し、とりくみをすすめます。
  ③差別事件だけでなく、生活圏域内であらわれるさまざまな差別の実態を集約し、中央糾弾闘争本部で闘いの基本方向を論議します。たんに事件対応的なとりくみだけではなく、差別のとらえ方や差別糾弾闘争の理論的な深化は、部落解放運動の今日的な重要課題です。こうした論議は、さまざまな立場からの問題提起もふくめて、差別撤廃と人権確立社会に向けた協働のとりくみとしても、部落解放運動を活性化させることにつながります。
  ④このように差別糾弾闘争は、差別をめぐる真摯な議論の場です。現代的な差別のあらわれ方や差別の実態をていねいに論議していくことが必要です。あらためて差別糾弾闘争を、地域の日常的な活動の基本に位置づけて、差別-被差別の関係性の克服に向けた実践としてすすめることが求められています。本人通知制度の導入に向けた全国的なとりくみのように、差別撤廃に向けた制度変革や政策要求につながる差別糾弾闘争の前進が、地域での支部組織の強化と信頼される運動の再生にとっても重要な課題です。

(4)地域の生活に密着した闘いから運動と組織の改革・強化にとりくもう
  ①この間継続的にすすめている運動と組織の改革・強化の基本方向は、新たな「綱領」・「行動指針」・「規約」にもとづき、地域の生活圏域でこれを具体化する実践にとりくんでいくことです。とくに、今日、小泉政権いらいの新自由主義路線によって、深刻な格差拡大が広がるなど新たな社会変化が生じ、部落の実態も大きく変化してきました。また、部落内の生活要求も、階層別によってさまざまな違いが生まれてきています。こうした部落の実態、階層別の実態などを正確に把握し、それぞれの要求を集約する運動のスタイルを基本にすることが重要です。また、地域や職場をふくむ日常生活のなかにあらわれる差別の実態を的確につかみとり、差別への怒りを共有するなかで、新たな運動展開と組織建設に向けたとりくみを結合していくことが必要です。
②これまでの運動と組織の改革・強化に向けた論議では、少子高齢化や若者の地区外流出、同和行政の転換や市町村合併などの課題が明らかになっています。また、部落解放運動は、総体的に「運動の停滞」、「組織の減少」、「財政の困窮」、「人材の不足」という困難な状況に陥っており、これを乗り越えるための具体的なとりくみが求められています。これらの問題や課題にたいして、全国的な論議を積み重ねてきましたが、今後さらにその内容の具体化、実践を通じての課題の共有化をすすめていきます。
  ③そのためにも、支部活動の強化が必要です。都府県連がそれぞれの支部活動の実態を十分に把握し、活動の活性化に向けた課題を明らかにしていくことが求められています。それぞれの支部の特徴を生かしながら、あくまでも地域の生活に密着した課題にとりくみます。都府県連でも同様に、それぞれの組織の特性を生かし、新たな運動に対応しうる運動と組織の改革・強化に向けたとりくみをすすめます。この間、導入してきたブロック別執行体制は、そうした双方向の論議をすすめるためのものです。たんに中央執行部からの連絡事項の伝達ではなく、そのときどきの全国的な闘いの基本方向の意思統一はもちろんのこと、それぞれの都府県連のとりくみ課題の交流や成果の共有化をすすめます。中央執行部もそうした実践から学び、全国的なとりくみ方針に反映させていくための協議機関として機能させていくことが必要です。今後とも、地方協議会との連携も深めながら、柔軟で弾力的な運用で実効性のあるものにしていきます。
  ④組織建設の重要な課題として、各地域で生活に密着した運動課題の発掘とそれを具体化する「仕事づくりへの事業」のとりくみをすすめます。さらに、「人材育成本部」での論議を精力的にすすめ、社会性や公益性をもった「社会的起業・企業」のとりくみなど、すでに各地域でとりくまれている組織内外の先進的事例を全国的に共有化できるように経験交流、実践交流をすすめます。
  ⑤こうした部落内外をつなぐ協働のとりくみをすすめていくことをとおして、社会連帯の実現をめざします。さまざまな分野で、部落の枠をこえた多様な協働したとりくみをすすめることによって、部落解放運動の可能性を大きく拡げていくことが重要です。

 

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