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部落問題資料室
コラム
荊冠旗 第2441号/09.10.26
 中世史研究に大きな衝撃を与えたのが『蒙古襲来』に続く『無縁・公界・楽』を著した網野善彦であったことに異論を挟む人はないだろう。1970年代だった。定住の農民や支配者を中心にしたこれまでの史観をひっくり返し、被差別民を軸に生きいきと時代や社会を描いたのが網野の一連の著書。以降の精力的な著作活動をつうじ、すっかり日本の中世史研究を塗りかえてしまった
▼無縁という原理が生きる場所を公界(くがい)=ユートピアとして描いた。自分以外に主をもたず、心身を縛られない自由を体現する公界を、全国を往来した漂白の民、被差別民が求めたことも
▼『吉原御免状』という小説を書いたのは隆慶一郎。吉原を漂白の民の公界であり、拠点であったとの視点から描いた長編小説だ。吉原が公界であるがため、あるいは吉原への「御免状」に驚くべき家康の出自をあらわす記載があるがために、徳川は吉原の取りつぶしを裏柳生に依頼し、攻防がはじまる、というのが小説の流れ
▼隆は網野史観に影響を受けたことを率直に語っている。あるいは、網野は隆の小説の存在を知ってはいたが、それを読んだのは隆の死後だったこと、生前にぜひ会い、話し合いたかったことを書いている。その網野も鬼籍に入った
▼2人に共通するのは、徹底して史料を読み込むこと。文字の奥、行間にある人間の生き方、社会の動きを射貫く視点と想像力に大いに学びたいものだ。

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