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部落問題資料室
コラム
今週の1冊 第2515号/11.04.18

江戸絵画の不都合な真実

狩野 博幸 著  筑摩書房(定価1800円)

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 一体、不都合な首実とは何か。それが理解できるのが最後の葛飾北斎、東洲斎写楽のところだ。
 たとえば、北斎の富嶽三十六景の最後の1枚は異質だ。富士の山の姿がなく、山中の石室に向かう人びとの姿が描かれている。これは、幕府から恐れられた富士信仰をヒューマニスティックな思想まで高めた中興の祖、食行身禄(じきぎょうみろく)の富士講の講員の姿を描いたものだ。富士講は四民平等を説き、時代を超越し国家をも無化した民間信仰。富士講を象徴する「土持」という偽姓を使ったことこそ、北斎がシンパであったことを示す。
 あるいは写楽は誰か、という論議のなかで、職業選択の自由が保障される現代の眼で、歌舞伎役者を描いた写楽を見てしまってはならない、とも筆者は強調する。芝居と遊里は2大悪場所として差別された。その役者たちの姿を描くのは、狩野派や土佐派といった画家たちに許されなかった。その下に位置づけられた浮世絵師が専売的に描いてきた事実を筆者は語る。写楽とは阿波藩のお抱え能役者、斉藤十郎兵衛であることが決定的に明かされる。
 不都合な真実とは、じつに根底的な思想であり、身分制、近世の賤民制のことだったのである。 (A)


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