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NEWS & 主張
部落解放同盟ガイド
主張

 

総力あげて農林漁業守り
さらに発展させていこう
(1998.5.18-第1870号)

 わが国の農林漁業は、市場開放と競走の時代のなか、厳しい状況がつづいているが、部落差別の結果、一般よりも不利な条件におかれている部落の農林漁業はなおさらのことである。土地条件の悪さ、事業拡大のために投資すべき資金や技術力のとぼしさ、漁業権をもたないことなどの不利な条件はいまなお残り、部落農林漁業の経営の多様な発展をはばんでいる。さらに、従来の米の生産調整(減反)分に上乗せするかたちで、98年度と99年度の2か年、米の緊急生産調整が政府によって強行され、稲作が中心である部落農業に大きな打撃を与えようとしている。
 近年、農林漁業が安全な食糧を供給し、環境保全に資する重要な働きをしてきたことが注目されはじめている。外国からの農産物や水産物、材木の値段が安いという単純な理由から、わが国の農林漁業を衰退させてしまうことの危険性に、多くの人が気づいたからだ。しかし、1995年に実施された農業センサスをもとに農林水産省がまとめた「全国同和地区農林漁業実態調査」からもわかるように、部落の農林漁家数は減少の一途をたどり、担い手の減少、高齢化がすすんでいる。担い手不足の背景には、農林漁業の将来性への不安、農林漁業では生活していけないという実態がある。
 この間、数は少ないが「同和」対策事業の実施によって、部落のなかにも大規模経営の農漁家が生まれ、成功した実践例もでてきている。農産物の加工、かんきつ類や野菜、観葉植物のハウス栽培、魚介類の養殖・加工などである。また、地域の農業者が協同化し、新しい作目への転換をはかったり、安全な農産物の直販をおこなっているところもある。そこでは、付加価値の高い農産物、水産物の生産に努力し、一定の成果をおさめている。さきごろ解放新聞(中央版5月4日付)で紹介した滋賀の部落解放広域加工センターなどが、いい例である。漬物、みそ、ふなずし、さいぼし、鴨など、地域の特性を生かした加工品や有機栽培米、豆腐などの販売、都市部落との交流を通じての産直活動をおこない、さらに事業を発展させようとがんばっている。

 従来の地域改善対策事業は、一昨年7月の「同和問題の早期解決にむけた今後の方策について」の閣議決定、昨年3月の「地対財特法」一部改正によって、農水省の関係では小規模零細地域対策関係事業として再編された。さらに、長く実施されてきた営農等相談事業についても、97年度限りで廃止し、今年度から新たに小規模零細地域営農確立支援推進事業が創設された。
 この事業は、小規模零細な農林家を数多く有する地域にたいし、その地域の問題に応じて実態調査や、地域の意向をふまえた指導指針の作成をおこない、その指針にもとづいて指導員を派遣し、指導活動をおこなうもの。小規模零細な部落農林業にとって、経営基盤を強固なものとするうえで有効なものとなりうる。純然たる一般対策であるが、事業実施にあたっては従来からおこなわれてきた「同和」行政の視点をすえる必要があることは当然であり、部落差別の解消のために行政が努力するとともに、部落の農林漁業者も知恵をだしあって、この新規事業を真に実効あるものとし、さらに充実、発展させていかなければならない。

 国内外の状況は、部落の農林漁業の存続、発展にとってひじょうに厳しい。しかし、そのなかでも成果をあげている農漁家がいることも確かである。小規模零細地域対策関係事業以外の一般対策も含めた、国の現行制度を十分に活用し、各地の実践に学びながら部落の農林漁業をしっかりと守っていかなければならない。このことは、部落の農林漁業者だけの問題ではなく、部落全体の問題でもある。安全な食糧を供給し、環境を保全してきた農林漁業の重要性については、さらに大きな評価がされていくに違いない。全国の部落の農林漁業者が、たがいに情報交換し学びあうとともに、組織としても総力をあげて部落の農林漁業を守り、育てていこう。