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被差別部落の存在を曖
昧にしてはならない

 本年、二〇〇二年三月三十一日をもって、一九六九年に制定された「同和対策事業特別措置法」いらいつづいてきた特別法は失効し、そのことによって「特別法に基づく同和地区」指定はなくなった。
 しかし、それはあくまで特別法の施行にともなう「同和地区」指定がなくなっただけであり、現に存在している部落差別や被差別部落がなくなったわけではない。
 一九六三年、内閣同和対策審議会が「答申」を出す前提に同和地区全国基礎調査がおこなわれ、四千百六十地区を指定しているが、当時の「同和地区」の定義は「当該地方において一般に同和地区であると考えられるものをいい、その範囲においても一般に認められる広がり」としており、きわめて曖昧な定義をしている。
 一九六七年には内閣総理大臣官房審議室が全国同和地区実態調査をおこない、三千五百四十五地区を「同和地区」と指定し、「同和地区」の定義を「従来から封建的な身分差別を受け、一般に部落民といわれる人びとの集団をいい、地区の範囲は、一般に認められる範囲とする」としており、「地区の範囲」を「一般に認められる範囲」としている。
 この定義は、現在でも、そのままあてはまる。事実上、地区居住者や地区周辺の人びとが被差別部落をどのように認識しているかという、相対的な概念によって定義付けられている。
 一九六九年に制定された「同和対策事業特別措置法」との関連では、「対象地域」という表現を使い、「対象地域」の定義を「歴史的社会的理由により生活環境等の安定向上が阻害されている地域」とし、一九七一年時で三千九百七十二地区を「同和地区」指定している。
 一九八二年に制定された「地域改善対策特別措置法」との関連でも、「対象地域」を同じように規定しており、一九九三年時で四千六百三地区を「対象地域」として指定している。

 このように定義の仕方はいろいろあるが、行政的指定のあり方によって地区数も四千百六十地区(一九六三年)、三千五百四十五地区(一九六七年)、三千九百七十二地区(一九七一年)、四千六百三地区(一九九三年)と変化している。
 本来、被差別部落の数が減少したり、増加したりするのはおかしなことである。一九六七年の三千五百四十五地区から一九九三年の四千六百三地区と千地区以上が増加していることは、いわゆる「同和地区」指定と被差別部落がイコールでないことを示している。
 つまり行政的な「同和地区」指定は特別施策を実施するために行政手法上なされたものであり、便宜上なされた「同和地区」指定がなくなったからといって、被差別部落、いわゆる「同和地区」がなくなったわけではない。被差別部落が客観的に存在することはいうまでもなく、行政機関がそれらの現実を正しく受け止めることが部落差別撤廃、「同和」行政の出発点である。
 にもかかわらず行政職員のなかには「同和地区」指定がなくなったことによって被差別部落までなくなったと錯覚している人が少なからずおり、被差別部落・「同和地区」の規定に若干の混乱が生じている。

 その混乱に拍車をかけているのが、一部の人たちが主張している部落差別はなくなったという誤った現実認識である。そのような人たちは、部落差別はなくなったのだから被差別部落は存在しないし、存在しない被差別部落を行政機関が認識するのはおかしいと主張 している。
 部落差別撤廃のためのとりくみの基本的な前提は、部落差別の存在を明確に認めることであり、それにともなって被差別部落の存在を行政的にも社会的にも認めることである。
 それを認めることは行政が部落差別を温存・助長することになるという主張は根本的に誤っている。被差別部落を確認・認識しないことが部落差別を温存・助長させているのである。
 もっとも重要なことは、部落差別の現状をどう捉えるかということであり、あらゆる差別問題にとりくむ出発点は差別の存否を含めた現状認識である。
 各行政機関でも部落差別の存在を認識しているなら、特別法にもとづく「同和地区」指定がなくなったことによって被差別部落の存在を曖昧にするのではなく、被差別部落の存在を明確に認めることである。
 そのことが真に部落差別撤廃に行政機関として貢献する道である。
 被差別部落を曖昧にすることは結果的に部落差別の存在も曖昧にしてしまうことになる。このことが一九六五年の「同和対策審議会答申」が明確に否定した「寝た子を起こすな論」的考え方に力を与え、部落差別撤廃のとりくみを後退させることにつながる。
 被差別部落を明確に認識してこそ差別撤廃のとりくみも前進することを忘れてはならない。


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