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部落解放同盟第60回全国大会/一般運動方針基調

三 部落解放運動の新たな総合的展開をめざす今大会の意義と任務

 1 部落解放運動の新たな総合的展開をめざす闘い
 ① 部落解放運動は、大きな時代の転換期にあるという現状認識のもとに、ここ10数年来「転換への基本方向」を真剣に模索してきました。とりわけ、33年間の「特別措置法」期限切れという事態を見据えながら、その方向性を検討してきました。
 このとりくみは、00年の第57回全国大会で「第3期の部落解放運動の5つの基本内容」として提示するとともに「8つの転換の方向」(後に10項目に追加)を具体的に提案してきました。ついで、第58回全国大会では、半年間の論議を重ねて「行政闘争強化基本方針」「差別糾弾闘争強化基本方針」「男女共同参画基本方針」「組織強化基本方針」を策定し、昨年の第59回全国大会では「7つの基本課題」として具体化してきたところです。さらに本大会で「新同和行政推進施策基本方針(案)」「人権の法制度確立基本方針(案)」「人権のまちづくり運動推進基本方針(案)」として提案するという形で、新たな部落解放運動の方向性を継続して追求してきています。
② 新たな時代の部落解放運動の基本方向を策定するにあたって、私たちの基本姿勢は何であったかということをあらためて肝に銘じておくことが必要です。すなわち、92年の全国水平社創立70周年を契機に部落解放運動が第3期の新たな段階に入ったという認識のもとに、「部落の内から外へ=cd=b930」「差別の結果から原因へ=cd=b930」「行政への依存から自立へ=cd=b930」という3つのスローガンを提起してきました。これは、行政闘争主導時代と位置づけた第2期部落解放運動の成果を受け継ぎ、問題点を克服していくという観点から提起したものであり、今後の運動のあり方への基本姿勢を示したものでした。
③ 現時点で、これらの基本姿勢から導き出される部落解放運動のこれからの基本方向(戦略的課題)は、つぎのようなとりくみ課題として整理することができます。
 第1に、「人権擁護法案」の抜本修正や新「同和」行政・人権行政の確立のとりくみをはじめとする「部落解放・人権政策の確立」をめざすとりくみ課題です。第2に、校区・行政区を中心に特色ある地域性を生かした「人権のまちづくり運動」を推進するとりくみ課題です。 第3に、狭山差別裁判をはじめとする「差別糾弾」を強化するとりくみ課題です。 第4に、生活圏域で国際人権基準を具体化する「世界の水平運動」を推進するとりくみ課題です。第5に、複合差別の視点を深めつつ「男女共同参画社会の実現」を推進するとりくみ課題です。 第6に、自立・自闘に向けた「人材育成・組織改革・財政確立」を断行するとりくみ課題です。
 これらの6大課題を部落解放運動の当面の基本方向として確認し、強力なとりくみをすすめていきます。重要なことは、これらの6大課題が個別独自に存在しているのではなく、部落の完全解放に向けた不可分のとりくみとして総合的に展開する必要があるということです。
④ 本年は、「世界人権宣言」55周年であり、狭山事件40年、高松差別裁判70周年という年にあたります。「一人は万人のために、万人は一人のために」という部落解放運動の80有余年におよぶ輝かしい闘いの歴史と伝統を継承しながら、人権確立への人類の絶え間ない努力と英知をふまえ、部落解放運動の基本的なスタンスを鮮明に打ち出しながら、「人間性の原理に覚醒し人類最高の完成に向かって突進す」る闘いを大胆に推しすすめていかなければなりません。
 2 反人権主義・新国権主義とのゆるぎない闘い
 ① 新たな部落解放運動を推進していくうえで、避けて通ることができないのが、今日急速に台頭してきている反人権主義・新国権主義との対決という問題です。
 部落解放運動は、80有余年の差別撤廃への闘いを通じて、日本の人権政策確立への大きな礎を築いてきました。「同和」行政では、いくつかの反省点をもちつつも、人権行政としての先進的な役割を果たし、「住民参加」「住民自治」という人権行政の根幹をなす「行政と住民のパートナーシップ」の原則を育ててきました。とりわけ、福祉分野では、「治安の福祉」「措置の福祉」から「人権の福祉」へと政府をして基礎構造改革をおこなわせていくうえで、重要な一翼を担ってきました。また、教育分野でも、「同和」教育・解放教育の実践のなかから、憲法や国際人権諸条約の具体化をはかっていく教育内容や制度づくりを牽引し、人権教育の内実を創りあげてきました。
 これらの部落解放・人権政策確立へのとりくみの先進的成果は、部落解放運動の誇りであり、多くのマイノリティの仲間にも自信と勇気をもたらすものであり、21世紀を人権の世紀にしていくために断固として継続・発展させていかなければならないものです。
 ② しかし、今日の政治・経済・社会状況は、きわめて危険な様相を呈してきています。小泉内閣が推しすすめる聖域なき行財政改革は、むきだしの市場原理にもとづく「弱肉強食」の論理であり、社会的「弱者」切り捨ての政策です。長引くデフレ不況のもとで中高年の人を中心に自殺者が毎年3万人をこえるという異常事態は、そのことの端的な証左といえます。また、住民基本台帳ネットワーク化やそれにともなう「個人情報保護法案」の動きなどは、国民への利便性の名のもとに国が国民を一元管理するという国権主義的な発想であり、個人の尊重や地方分権という流れに逆行するものです。さらに、有事法制化の動きが、アメリカのアフガンやイラク問題にかかわって、戦争協力の一環としてなし崩し的に強行されようとしています。「戦争は最大の人権侵害」であるとの立場から、これらの動きを断じて許してはなりません。しかも、朝鮮民主主義人民共和国の拉致問題とかかわって、これらの動きが加速化されていることも看過できません。もちろん、朝鮮民主主義人民共和国の拉致問題は国家による重大な人権侵害問題として断固とした抗議をするものであり、核脅威を利用した一連の戦争挑発行為にも抗議します。同時に、日朝間の歴史的経緯をふまえることも重要であり、今日の拉致問題や核脅威問題を契機にした在日コリアンの人たちにたいする偏狭な民族主義的差別・排外主義の動きも許してはなりません。
 ③ これら一連の国権主義的・反人権主義的な動きは、部落解放運動にとってもきわめて危険なものとしてあらわれてきています。部落解放運動が長年にわたって求めつづけてきた差別禁止・人権侵害救済の法律としての「人権擁護法案」は、「人権委員会」を権力中の権力といわれる法務省の一元管理のもとにおき、独立性や実効性を骨抜きにしようとしています。また、「現在の教育荒廃を生み出した責任」を、解放教育や「同和」教育に転嫁するという露骨で組織的な反動攻撃がなされてきています。これらの動きが「教育基本法」改悪の動きと密接に連動している事態を見抜いておく必要があります。さらには、最近一部の週刊誌や雑誌で、部落解放運動内の部分的な不祥事をとりあげながら、これがあたかも部落解放運動全体の問題であるかのごとき針小棒大な悪質キャンペーンが繰り返しおこなわれています。もちろん、これらの不祥事にたいしては、組織全体の問題として受けとめ断固とした処断をおこないますが、これらの悪質キャンペーンが日共=「全解連」と一体となった部落解放運動潰しの政治的な思惑がらみの策動であることをふまえた対応が必要です。
 大きな時代の転換のもとで、「変化は危機であると同時に好機である」との認識をしっかりともちながらも、新たな装いを凝らした反人権主義・新国権主義という差別的反動勢力の危険な台頭と同時に、これらの勢力を背景にした「天皇制」強化の動きに警戒し、たんなる反対ではなく「生命・人権・平和・環境」を基本においた積極的な政策対案の提示と実践を裏づけにして断固とした反撃を展開していかなければなりません。
 3 明確な意義づけにもとづく国政選挙の闘い
 ① 部落解放運動の基本方向を推しすすめていくうえで、これを妨害・敵対する勢力と厳しく対決し、積極的な部落解放・人権政策の確立をはかっていくためには、確かな政治勢力を結集していくことも不可欠です。多くの組織内議員の存在が、地方自治体での「同和」行政・人権行政を推進する大きな力になっていることは言を待ちません。同時に、選挙闘争のとりくみが、人権確立を求める部落内外の広範な共同闘争になっていることも事実であり、部落解放運動の重要なとりくみとして位置づいています。このとりくみを、国政段階でも強化していくことが、今日ほど求められているときはありません。
 ② 大きな時代の変革の時期にあって、日本での差別撤廃と人権政策の確立をめぐって激しい議論が繰り広げられていることは周知のとおりです。しかし、「人権擁護法案」や「同和」行政・人権行政のあり方にかかわっての国政段階での認識は、残念ながらひじょうに皮相で希薄であるといわざるを得ません。国政段階で、差別や人権侵害の実情を熟知した当事者代表をつくり出していくと同時に、これらの問題を熱心にとりくむ政治勢力の多数派を形成していくことが重要です。その意味で、今年の秋にも予想される衆議院総選挙、来年7月の参議院選挙闘争で、部落解放運動が積極的・主体的に政治参加していくことが求められています。
 ③ 国政選挙を闘うにあたっては、部落解放同盟として94年以来確認してきた「選挙闘争・政治闘争の基本」をふまえることが必要です。すなわち、「1.部落解放同盟は大衆団体であり、目的とする部落解放・人権確立という課題が国民的課題である以上、超党派的な協力関係を確立する。2.部落解放同盟は、どの政党にも従属せず、同盟の政党に対する主体性を堅持しつつ、同盟自身の決定にもとづいて行動する。3.この原則にもとづき、各政党の基本政策を検討し、同盟と各政党との正常な関係を機関を通じて保ちつつ、支持・協力体制を確立する。選挙に際しては、これら各政党との支持・協力の度合いをふまえつつ、より重点的には、候補者個人との政策協定にもとづく推薦・支持を行い、その当選をかちとるために奮闘する。4.選挙闘争にあたっては、同盟の全組織と各級機関は、中央本部の決定に従わなければならない。しかし、同盟員の個人としての政治的信条、政党支持の自由は、干渉されることなく完全に保障される。5.この場合、同盟員が各自の政治的信条にしたがって、各政党に加入し党活動を行うことは自由である。しかし、同盟の活動について、党の決定を同盟の決定の上においたり、同盟の組織の中に政党の対立を持ち込むことは、絶対に許されない。」ということです。
 ④ このような国政選挙闘争の意義と基本をふまえ、きたるべき総選挙・参議院選挙闘争を積極的・主体的に闘っていきます。具体的には、今年の秋にも予想される総選挙で民主党から福岡1区で立候補する松本龍副委員長の5選必勝をめざします。また、参議院選挙では長い間松本治一郎・松本英一両先輩が守りつづけてきた全国区レベルでの「解放の議席」を回復することを最大限追求します。これらの国政選挙では、部落解放同盟が推進する「部落解放・人権政策」を実現するために、もっとも政策的に近く、かつ実現可能性をもっている民主党支持を中心にした選挙闘争を展開することを基本とします。
 4 相談活動から人間的・経済的自立への生活と仕事を創り出す闘い
 ① バブル経済崩壊以後の長引くデフレ不況のもとで、経済状況は悪化の一途をたどり、未曾有の倒産・失業があいついでおり、野宿者問題なども深刻化してきています。この経済不況は、経営基盤の脆弱な部落を直撃しており、BSE問題などもあり地場産業である食肉関連産業や皮革関連産業は大きな打撃を受けて、倒産・閉鎖するところがあとをたたない状況です。また、建設業などの中小零細企業への従事者が多い部落にとって、仕事からあぶれる状態が日常化してきています。さらに、「特別措置法」の失効がこの状態に追い打ちをかけており、部落解放運動にとって生活を守り仕事を創り出す闘いはきわめて重要な課題となっています。
 ② 問題は、「特別措置法」時代のような感覚での行政責任万能論的な姿勢では、みずからの生活を守ることも仕事の保障もできなくなっていることを自覚する必要があるということです。「特別措置法」にもとづく「同和」行政33年間のとりくみは、部落差別撤廃への条件づくりという意味で大きな成果がありましたが、同時に欠陥もありました。「自立」という視点を欠いた「減免・給付」という個人施策の事業が長期化するもとで、功利主義的・物取り主義的な側面も助長しながら、経済的自立とともに人間的自立というとりくみがおろそかにされ、行政施策への依存傾向を生み出してきたことを反省する必要があります。これらのことは、「特別措置法」が時限的性格のものであることを見越して、すでに10数年前から「解放が目的、事業は手段」という形で指摘され強調されてきたことですが、多くのところで「法失効」という現実に直面するまで現実的な問題意識として認識しきれなかったという事態があり、早急に克服しなければなりません。
 ③ したがって、今後の部落問題解決の重要課題である生活・福祉課題や仕事・産業課題、教育・保育課題についても、従来の成果をそこなうことなくさらに発展させていくための一般施策の活用方策を確立するという厳しい行政責任の追及をおこなうことがまず必要です。同時に、私たち自身も一人ひとりが「何ができるのか」「何をなすべきか」という自立・自己実現への自助努力を最大限におこなっていく必要があります。厳しい経済不況と「法」失効という事態は、「誰かがやってくれる」「誰かにやってもらう」ことではなく、「みずからの力で生活を守り仕事を創り出す」ことが緊急の課題であることを示しています。これらのとりくみは、「セーフティネット」「ソーシャル・インクルージョン」や「エンパワメント」といったキーワードにもとづく「新たな社会づくり」につながっていくとりくみであるといえます。すでに、先進的なとりくみは、はじまっています。高知での介護保険事業やグループホーム事業への参入、大阪・京都・兵庫での社会福祉法人やNPO法人を核にした福祉・教育・労働分野での事業開拓など、みずからの力で新規事業を創り出し、仕事と生活を守っていくとりくみが力強くすすめられており、各地でも同様のとりくみが動きはじめています。
 ④ 部落解放運動の今後の生活を守り仕事を創り出す闘いは、過去の農水事業や通産事業で多くみられた「行政がなんとかしてくれる」といった安易さからの失敗事例を反面教師としながら、自立と自己責任にもとづいたとりくみとしてすすめることが重要です。
 第1に、隣保館事業の継続的相談活動などを活用して、徹底した「総合相談活動」をおこなう体制をつくり、「一人の困難をみんなの課題」として受けとめ、深まりと広がりのある掘り下げをすることです。
 第2に、相談活動や実態調査を通じて、部落住民や困難を抱えた人たちの要求を的確に掘り起こし集約するなかから、個個の問題解決で終わることなく、みんなの生活を守り、仕事を創り出す事業へとつなげていくことです。
 第3に、これらの事業を「自助・共助・公助の関係づくり」のもとですすめることです。すなわち、まず自分らしく生きるための目標や夢を実現するための自助努力をおこない、その努力をまわりの人や地域がともに助け合い支え合いながら、必要に応じて公的な支援を活用・改革・創出するという関係づくりです。
 5 現実の差別実態認識と人間を見据えた糾弾闘争深化の闘い
 ① 部落解放運動の発展は部落差別をどのように認識するかにかかっています。部落差別の実態の部分的な側面だけをみて、「部落差別はもう基本的に解消された」といった考え方が一部に存在しており、「同和」行政・人権行政推進や差別撤廃へのさまざまなとりくみへの妨害論拠になっています。これらの考えは、部落差別の実態の全体像をとらえきれていないことからくる一知半解の一面的な考えです。
 ② 今日の部落差別の実態を全体認識するためには、基本的には「5つの領域」から分析することが必要です。第1に、部落住民の生活実態に具現されている差別(実態的被差別)の領域です。第2に、部落住民の自尊感情の損傷としてあらわれる差別(心理的被差別)の領域です。第3に、人びとの観念や意識のうちに潜在する差別(心理的加差別)の領域です。第4に、社会の法・制度・慣行により直接・間接に生み出され支えられている差別(実態的加差別)の領域です。第5に、事件として顕在化する差別(差別事件)の領域です。このような「5つの領域」からの部落差別の現状認識が最低限必要であり、それなしには差別実態を正確に把握することはできません。部落差別撤廃への実効力ある政策・施策は、正確な実態把握ぬきには不可能です。
 ③ 部落解放運動は、この差別実態を糾弾する闘いであることを忘れてはなりません。差別事件にたいする糾弾は当然のことですが、差別事件も含めた差別実態を糾弾する闘いであるということが重要なところです。糾弾闘争が「部落解放運動の生命線」であるということは、この意味で理解されなければなりません。したがって、部落差別が存在する限り、糾弾闘争を堅持するということは、譲ることのできない部落解放運動の原点なのです。まさに、「差別にたいする告発なしに人権が確立した歴史はない」のです。差別撤廃のための社会システムがいかに整備され社会的土壌がいかに民主的に成熟したように見えようとも、差別が根絶されないかぎり糾弾闘争は社会的に必要だということです。
 ④ とりわけ、差別が顕在化してきた差別事件にたいする糾弾闘争は、「差別糾弾闘争強化基本方針」をふまえつつ、今後さらに「社会性・公開性・説得性」を洗練化し、人間のあり方・生き方を見据えながら人間変革と社会変革を目的とする崇高なとりくみとして徹底的に展開しなければなりません。また、今日の社会環境の変化に応じて、糾弾闘争の目的をもっとも首尾よく貫徹させうる闘争形態のあり方が、それぞれの差別事件・差別実態に即して常に検討される必要があります。画一化され硬直化した糾弾闘争形態では、多様な人間を変え複雑な社会を変えていくことはできません。これらのことを肝に銘じながら、いかなる意味でも「糾弾否定論」を断固として拒否し、差別事件や差別行政、差別社会を糾弾する闘争を堂どうと推しすすめていく必要があります。
 6 部落解放・人権政策確立への政策理論・研究活動強化の闘い
 ① 現在、部落解放運動にかかわってさまざまな議論が展開されています。多くの人たちの粘り強い研究・理論活動によって、「歴史起源論」や「差別実態論」「差別本質論」や「解放運動論」など多岐にわたって、解放理論は百家争鳴ともいうべき状態です。議論が活発に交わされることは、部落解放運動の発展の証でもあり、おおいに歓迎されるところです。しかし、部落解放運動が、「議論のための議論」に陥ったり、それらの議論で右往左往することは許されません。部落差別撤廃への現実的な責任を負う部落解放運動は、これらの議論のなかから部落差別を現実的に解決していく「導きの糸」をたぐり寄せ、実践的な政策理論・運動理論として再構築し、新たな時代に対応する「解放理論」として整理していく必要があります。
 ② とりわけ、急ぐ必要があるのは、人間の生活や社会にかかわるすべての分野で、部落差別撤廃に向けての具体的で実践的な課題としての「部落解放・人権政策総合大綱」(仮称)をうち立てて、部落解放への展望ある道筋の政策的全体像を指し示すことです。今後、ますます各地域の特色を生かしながら多様化していくであろう部落解放運動の共通の政策目標を確立することは、全国的な運動と組織の求心力を保持・拡大していくためにも不可避であるといえます。また、「特別措置法時代」の総括を「人間」「組織」「運動」の視点からもしっかりとおこない、21世紀の部落解放運動を推進していくための考え方を押し出していくことが重要です。
③ したがって、今回の全国大会後にただちに本格的な中央理論委員会をたちあげて、理論的諸課題に関しての検討を開始します。中央理論委員会は、部落解放・人権研究所の協力を得ながら、組織内外の広範な人たちの意見も吸収できる体制を作り、2年間の討議期間をへて、05年の第62回全国大会に「部落解放・人権政策総合大綱」(仮称)と成文化された「部落解放同盟基本文書」として提案していく作業をすすめていきます。
 7 大胆な組織改革・財源確立・人材育成への組織建設の闘い
 ① 昨年の3月末日で33年間の「特別措置法」時代が終結し、一般施策を活用した新たな「同和」行政・人権行政展開の段階を迎え、1年が経過しました。この1年を振り返ったとき、「同和」行政・人権行政のあり方は、「模索・躊躇・混乱」のなかで軸足が定まりきっておらず、われわれの側も十全な対応がなしきれていないという全国的な現状があります。
 10数年前にいまは亡き上杉委員長は、「現行のような事業法の再延長は要求しない」と断言し、「旧態依然とした部落観や闘争スタイルから解放する」ことを訴え、「ムラ自慢・支部自慢の運動」を創り出すことと同時に「世界の水平運動」を実践することを提案しました。それは、当時の部落解放運動が、「同和」行政施策の受け皿的運動や組織になっているのではないかとの危機感から、「事業のあれこれを求めているのではなく部落差別からの解放を求めている」ことを明確に方向づけようとしたものでした。それゆえに、「同和対策事業総点検運動」の全国展開を打ち出し、部落差別撤廃に実効性があるかどうかの点検基準を設定して徹底した事業改革への問題意識を喚起してきたことを、あらためて思い起こす必要があります。しかし、率直にいって、「利敵行為になるのではないか」とか「既得権をみずから手放すことは運動の後退だ」とか「キレイごとにすぎない」とかの意見もあり、この総点検運動は当時十分な効果をあげたとはいえません。その意味では、「特別措置法という特別の時代」を「当たり前の時代」として甘受するということが長い時間のなかで体質化してきており、組織の倫理と社会の倫理が乖離していたのではないかという深い自省が必要です。
 ② しかし、今日の「法」失効や行政の情報公開・説明責任という事態は、すでに以前のような政治的空文句をもてあそぶ段階ではありません。社会的責任と信用にもとづく新たな部落解放運動の基本方向を実践化していくための運動と組織を「待ったなし」でつくり出すことが求められているのです。高知県の「モードアバンセ不正融資」問題や京都市の「補助金不正使用住民訴訟」問題などは、そのことの緊急性を物語っています。けっして対岸の火事として看過することなく、部落解放運動総体として社会的に指弾される事態にたいしては率直に自己批判をして、運動と組織への大胆な改革を実施していくことが必要です。同時に、みずからの足元をしっかりと固め直しながらも、長野県での「同和行政にたいする田中知事の反動攻勢」や「広島県三次市の権力的同和行政打ち切り攻撃」のような問題にたいしてはひるむことなく「同和」行政・人権行政確立の闘争を継続していかなければなりません。このような状況をふまえたとき、部落解放運動の現在と未来に責任をもつものとして、部落差別撤廃に向けての自立・自闘の組織と財源の確立、および新たな人材の育成は、緊急にして不可欠のとりくみ課題です。
 ③ 部落解放運動を魅力あるものとし、部落解放同盟の健全な財源確保と組織確立をすすめ、「人権確立社会の実現」を担う人材を意識的に育てていくために、従前にもまして目的意識的なとりくみをすすめていく必要があります。
 まず 第1に、組織建設・財源確立に関する「基本姿勢」「基本方向」の全同盟員への徹底をはかるために、都府県連・支部での総学習運動を展開することです。 第2に、「人権のまちづくり運動」「地域福祉運動」「地域教育運動」などの分野別・課題別の新たな運動づくりへの着手とそれを推進するための組織体制を直ちに整えていくことです。 第3に、新たな「隣保館運営設置要綱」をふまえた「隣保館活用のあり方」をはじめ地域内公的施設(隣保館を含め全国約3100施設)の活用方策の確立に向け、差別撤廃・人権確立のための地域内外に開かれた施設としての性格づけを明確にして、社会性のある運営・活用をしていくことです。第4に、各種指導員・相談員のあり方についての現状点検の実施と改革方針を厳守することです。第5に、部落解放運動でのNPO活動のあり方について、運動論・組織論的検討と整理を早急におこない、全国的な実践的活用に向けての準備をしていくことです。第6に、21世紀の部落解放運動を担っていく若手の人材育成のとりくみを強力に推しすすめ、部落解放運動の中心的な推進力としての若手の積極的登用をはかっていく体制を整えていきます。
 ④ これらの方向性は、けっして実現不可能なものではありません。すでに、部分的にはこれらの方向性にもとづいて運動や組織作りを実践しているところもあり、それらのところでは従前にも増して組織が拡大され安定した財源が確立されているという実例が存在しているのです。まさに、「旧態依然とした部落観や闘争スタイルから解放」された新たな発想と提起されている部落解放運動の総合的展開をめざす「基本方向」での大胆な実践が、いまほど求められているときはありません。この実践を担う主体としての部落解放同盟の組織建設・財源確立・人材育成の課題の成否が、部落解放運動の将来を左右するのだという緊張感をもったとりくみがなされなければなりません。

 

 

 

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