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部落解放同盟第61回全国大会/一般運動方針基調


三 今大会の意義と任務

 1 部落解放運動の総合的展開と今年度の重点課題
 ① 部落解放運動は、1990年代初頭に第3期の新たな段階に入ったとの認識のもと、「部落の内から外へ!」「差別の結果から原因へ!」「行政依存から自立へ!」という3つの目標を掲げ、今日まで部落解放運動の新たな方向を模索し実践してきました。
② 10年におよぶ真剣な模索と実践は、2002年の第59回全国大会で「10の転換」として、同盟組織のめざすべき転換の方向の具体化として結実させました。すなわち、第1に「一人ひとりの部落大衆の自己実現を支援する同盟組織への転換」、第2に「部落を核に市町村全体、都府県全体を人権が尊重されたまちにつくりかえていく闘いの先頭に立つ同盟組織への転換」、第3に「『特別措置』のみによりかかった運動ではなく、一般対策の活用と創造にとりくむ同盟組織への転換」、第4に「情報化社会の到来に対応できる同盟組織への転換」、第5に「少子・高齢化社会の到来をふまえた同盟組織への転換」、第6に「国際化時代の到来をふまえた同盟組織への転換」、第7に「ボランティア・NPO時代の到来をふまえた同盟組織への転換」、第8に「多様な被差別部落の歴史と実態をふまえた同盟組織への転換」、第9に「部落解放同盟内に存在する女性差別を払拭し、女性の積極的参加を得た同盟組織への転換」、第10に「部落解放同盟の社会的信用を失墜するような腐敗と不正を許さない同盟組織への転換」ということです。
 ③ また、これらの転換の方向への具体的な戦略課題として、昨年の第60回全国大会では「6つの基本課題」を提案しました。すなわち、第1に「人権の法制度」確立をめざすとりくみ、第2に「人権のまちづくり」運動を推進するとりくみ、第3に「差別実態」糾弾を強化するとりくみ、第4に「世界の水平運動」を推進するとりくみ、第5に「男女共同参画社会の実現」を推進するとりくみ、第6に「人材育成・組織改革・財政確立」を断行するとりくみ、ということです。
 ④ しかし、率直にいって、「転換」への意識変革と具体的とりくみへの遅れという全国的な状況を指摘せざるを得ません。2002年3月末での「特別措置法」の失効という事態のもとで、「行政施策の縮小」という行政対応の変化によって「転換」を現実的なものとして意識化してきたというのが現状です。この現状のもとで、一部の地域では諦観的後退の現象もあらわれてきていますが、全国的には「転換」への積極的とりくみが開始されてきました。
 ⑤ 早急に各級機関での「10の転換」への意識改革を徹底化し、同盟員1人ひとりが「6つの基本課題」を具体的に遂行していくという゛打って出る゛とりくみと仕掛けが重要です。以上の認識に立って、今年度の重点課題を8点にわたって提起します。
まず第1は、7月に予定されている松岡とおる参議院選挙闘争に勝利する課題です。第2は、「人権侵害救済法」の制定を中心とする国・地方自治体での行政闘争の強化の課題です。第3は、狭山再審闘争に勝利する課題です。第4は、「人権のまちづくり」運動を地域に根づかせる課題です。第5は、教育の反動化を許さず、地域教育運動を強化する課題です。第6は、地域福祉と地域就労・起業支援をおしすすめ、生活と仕事を守る課題です。第7は、反差別国際連帯の強化と国際人権基準を地域で具体化する課題です。第8は、組織・財政強化と理論活動を活発化させる課題です。
 2 松岡とおる参議院比例区選挙に勝利し、小泉政権と対峙する闘い
 ① 松岡とおる参議院比例区選挙闘争は、今年のとりくみの最重点課題であり、部落解放運動の全力量を傾注しなければなりません。そのために、選挙闘争の「4つの意義」を全同盟員に徹底するとともに、「人権立国ニッポン」の政策をおしすすめる松岡とおる候補を広範な人びとに浸透させ支持を固めていく必要があります。  
② 第1の意義は、全国的な「解放の議席」を回復・確保する闘いであるということです。松本治一郎・松本英一両先輩が、戦後一貫して守り抜いてきた参議院での全国的な「解放の議席」を10年ぶりに回復するという意義があります。それは、ただたんに「解放の議席」を回復するということにとどまらず、「部落の内から外へ」という第3期部落解放運動の新たな国政での陣形を構築していく闘いであるということです。
 ③ 第2の意義は、部落解放への展望を切りひらいていく闘いであるということです。それは、「部落解放基本法」制定運動18年の闘いと「人権擁護法案」抜本修正運動1年8か月の闘いでめざしてきた部落解放・人権政策確立への具体的な法制度を実現していくことです。また、それは「差別の結果から原因へ」「行政依存から自立へ」という視点と姿勢を堅持しながら、広範な人びととの反差別・人権確立への横断的な協働のとりくみの裾野を広げていくとりくみでもあり、部落解放への具体的な条件づくりと明確な展望をつくりあげていく闘いです。
 ④ 第3の意義は、小泉政権の危険な反動「改革」路線と対決する闘いであるということです。3年前に「聖域なき構造改革」を掲げて高支持率を維持してきた小泉政権は、憲法、「教育基本法」の「改正」問題や「三位一体改革」・年金問題などの具体的な「改革」政策を明らかにしてくるにしたがって、その本質が国権主義・新保守主義・反人権主義であり、「弱者切り捨て」と「戦争への危険な道」であることがますます明白になってきています。この小泉政権の危険な反動路線と対決することなしには、部落解放・人権政策をおしすすめることが困難な事態となっています。昨年の総選挙は、与党の絶対安定多数を許したものの、政権交代への萌芽を示すものでもありました。今夏の参議院選挙は、「生いの命ち・人権・平和・環境」を軸にした政権交代への基盤作りをおしすすめ、総選挙で明示した「部落解放・人権政策確立マニフェスト」の具体化をはかり、小泉政権の反動路線に明確に終止符を打っていく闘いです。
 ⑤ 第4の意義は、同盟組織の統一と団結を固める闘いであるということです。部落解放同盟は、この10年間、国政選挙を闘うにあたって、『選挙闘争・政治闘争の基本』にしたがい5つの原則を堅持してきました。これは、政党にたいする同盟の主体性を堅持しながら、政治にたいして部落解放運動が何を求めるかを明確にすると同時に、政党間の対立を同盟内にもちこむことなく中央本部方針のもとに全同盟員が一丸となって行動していくという国政選挙闘争の基本原則を示したものです。今夏の参議院選挙は、組織内候補として「松岡とおる」中央書記長を擁立する重要な闘いであり、『選挙闘争・政治闘争の基本』を厳守しつつ、部落解放運動の命運をかけて必ずや勝利を勝ちとり、同盟組織の統一と団結の底力を満天下に示していかなければならない闘いです。
 ⑥ 以上の「4つの意義」を全同盟員がしっかりと共有しながら、1人ひとりが「松岡とおる」になりきって創意工夫ある自主的・自発的な闘いを展開し、松岡参議院選挙闘争に勝利していくことです。
 3 「人権侵害救済法」早期制定と部落解放・人権政策確立の闘い
 ① 昨年10月の「人権擁護法案」の廃案を乗りこえ、今日までの「闘いの4つの到達点」と「法制定への3つの責任」をふまえながら、今後の「人権侵害救済に関する法律」の新規立法運動の基本方向を確認しておきます。
第1に、人権委員会創設を中心とする「人権侵害救済に関する法律」について、これまでの経過をふまえながら、国の政治的責任および人権確立に関する国際的責務の立場から、、早期制定をおこなうように求めていくことです。第2に、今までの「人権擁護法案」をめぐる経過をふまえて、政府機関からの独立性を確保するために、「パリ原則」をふまえ、創設する人権委員会を内閣府の外局である「3条委員会」として設置するように求めていくことです。第3に、人権侵害の被害救済が迅速かつ効果的に実施されるような実効性を確保するために、都道府県ごとに地方人権委員会の設置を求めていくことです。第4に、国や都道府県で設置される人権委員会の委員および事務局には、人権問題・差別問題に精通した人材を、それぞれの人権委員会が多様性・多元性に配慮して独自に採用することです。第5に、人権委員会は、マスメディアの取材や報道にたいする規制、さらにはさまざまな人権団体のとりくむ自主的な活動への不当な妨害をすることなく、十分な連携をとりながら活動することです。第6に、人権擁護委員制度については、抜本的な制度改革をおこない、国や都道府県に設置される人権委員会と十分連携をとりながら、地域での効果的な活動ができるようにすることです。
② 以上のような今後の基本方向を確認すると同時に、今一度、「人権侵害救済に関する法律」制定の意義と位置を改めて認識しておくことが重要です。すなわち、この「法」制定運動は、「部落解放基本法」制定運動の継承と発展的展望のもとに位置づけられており、「部落解放基本法」の5つの構成部分(宣言法的部分・規制救済法的部分・教育啓発法的部分・事業法的部分・組織法的部分)を個別に実現してきている闘いの一環であり、部落解放・人権政策確立への重要な一里塚であるということです。
 ③ したがって、「人権侵害救済に関する法律」の早期制定の闘いは、「部落解放基本法」の全構成部分の実現のとりくみを射程に入れつつ、人権省設置などの行政機構の創設を含めた『人権の法制度確立基本方針』の具体化・実現化と連動したとりくみとしておしすすめていくことが肝要です。
 ④ また、地方分権や市町村合併の動向をしっかりと見据えながら、国への人権の法制度確立要求と並行して地方自治体での新「同和」行政・人権行政の確立を求めていくために、『新「同和」行政推進施策基本方針』の具体化推進のとりくみを早急に強化していくことです。さらに、「差別撤廃・人権条例」の制定・具体化運動を推進していきつつ、すでに条例を制定している自治体間での経験交流や意見交換ができる場づくりとしてネットワーク化を図り、新「同和」行政・人権行政の内実をつくり出していくことも重要です。
 4 狭山再審勝利へ証拠開示のルール化など司法改革を実現する闘い
 ① 石川さんの不当逮捕以来40年を経過した狭山闘争は、最高裁での特別抗告が3年目を迎え、昨年の9月30日の特別抗告申立補充書の提出以降、「いつ決定をおこなってもおかしくない」という正念場になってきています。
 ② この間、「40年」の総括をふまえながら、狭山闘争を真に勝利に導く重要なとりくみとして、総学習運動をすすめ、「証拠開示のルール化」のとりくみを展開・強化しています。これは、狭山弁護団が一貫して求めつづけてきた証拠開示のとりくみを、司法改革での重要な人権の法制度確立への課題として、えん罪・誤判を生み出さないための「証拠開示のルール化」を押し出し、司法の民主化の一環としての狭山再審の実現を図ろうというとりくみです。今日、「えん罪・誤判をなくすための証拠開示の公正なルール化を求める会」の運動は、短期間で30万をこえる署名にみられるように、広範な市民運動として急速な広がりをみせています。現在開会されている第159通常国会で法制化への提案がなされようとしており、強力な働きかけが必要です。
 ③ また、狭山差別裁判にたいする人間的な怒りを共有するなかから、各地での1人ひとりの自主的・自発的なとりくみと結びつきを大切にした「狭山住民の会」の活動も122を数えるまでにいたり、北海道から沖縄まで狭山闘争の裾野を着実に広げていっています。
 ④ これらのことは、狭山再審の闘いを司法民主化につなげる意識的なとりくみの必要性と司法の民主化を反「差別・えん罪・誤判」の立場から切り結んでいくことの重要性を示しているといえます。また、国連の自由権規約委員会から狭山事件にかかわって勧告がおこなわれたことにみられるように、国際的な連帯や国際人権の視点からのとりくみの重要性も示しています。
 ⑤ 今後、狭山事件の原点をしっかりとふまえながら、狭山闘争を勝利に導くための可能な限りの工夫をこらした闘いの強化がいっそう求められています。狭山事件40年の節目・節目への思いを馳せながらも、けっしてスケジュール的な゛山場=cd=ba39闘争に流れることなく、真に勝利に直結する闘い方を真剣に追求していきます。そして、狭山差別裁判糾弾闘争の意義を風化させず、広範な市民運動としての深まりと広がりを丁寧に構築していくとりくみを強化していきます。
 ⑥ さらに、30有余年の長きにわたって狭山事件に心血を注いで勝利をめざしてこられた山上弁護士の遺志を受け継ぎ、狭山弁護団の闘いを支え、有利な環境を作るためのとりくみをさらに強化していきます。
 5 「人権のまちづくり」運動を地域に根づかせる闘い
 ① 「人権のまちづくり」運動は、ここ数年来、全国各地で独自の特色あるとりくみが始まってきました。とりわけ、各地での先行的な経験をふまえながら策定された『「人権のまちづくり」運動推進基本方針』が決定されてから、急速にとりくみが意識化され着手されてきているといえます。  
 ② 今日、地方分権化や市町村合併のもとでの新たな「まちづくり」が議論の俎上にのぼってきています。新たなまちづくりの基軸は、「人権」がその主要な柱に位置づけられていくことが重要であり、「人権のまちづくり」運動を通じて、これからの同和・人権行政の中身作りの政策提案を具体的におこなっていくことが大切です。
 ③ しかし、「人権のまちづくり」運動の醍醐味は、人権行政の具体的な推進力であるということにとどまるのではなく、むしろ住民自身が「自分たちのまちを自分たちの意志で創っていく」という住民自治と住民参加の運動であるということに存在しているのです。部落解放運動が「人間を勦ることが何であるか」を追求しつづけた80有余年の闘いのなかで築き上げてきた「自助・共助・公助」の基本姿勢にもとづき、「人づくり」と「人と人との関係づくり」を「まちづくり」の中心にすえた運動だということです。
④ とくに、これからの部落解放運動にとって主要な課題である福祉・教育・仕事の分野を軸にして、「人権のまちづくり」を周辺住民との協働のとりくみですすめていくことが必要です。たとえば、2000年に改訂された「社会福祉法」で「地域福祉計画」策定が法文化され、2003年4月から都道府県・市町村で策定作業が始まっている「地域福祉計画」や2000年に制定された「人権教育・啓発推進法」にもとづく各自治体での「基本計画・行動計画」の策定・具体化を通じて、これらを活用しながらそれぞれの地域的特色を生かした「人権のまちづくり」構想を練りあげていく必要があります。
 ⑤ 同時に、「人権のまちづくり」運動のなかから、新たな仕事作り・雇用創出につながる地域経済活性化の方策を立案していくことや隣保館などの部落内公的施設を「外にひらかれた」拠点施設として活性化させていくことが重要です。
 ⑥ 以上のような観点から、校区に根づく「人権のまちづくり」運動を「提案・動機づけ」の段階から具体的なとりくみを全国的に展開していく段階へと前進させることが求められています。
 6 教育の反動化を許さず、地域教育運動を強化する闘い
 ① 人権を地域から根づかせていく闘いとして、部落解放運動は「人権のまちづくり」運動を推進していきますが、今日の小泉政権のもとで強行されようとしている「教育基本法」の改悪策動は、長年にわたって営えいとして積みあげてきた地域教育運動としての解放教育・人権教育の成果を水泡に帰すものであり、けっして看過できるものではありません。
② とくに、「教育基本法」改悪策動と連動した形で、「戦後教育の荒廃は、解放教育・人権教育によってもたらされた」とする反解放教育・反人権教育派勢力の台頭を許してはならず、解放教育・人権教育の成果を一つひとつていねいに普遍化していくとりくみの強化と拡大によって徹底的に対峙していく必要があります。
 ③ また、「人権教育・啓発推進法」の積極的活用とそれにもとづく「基本計画・行動計画」の策定・具体化や「人権教育のための国連10年行動計画」の推進および「第2次人権教育10年」のとりくみの必要性を強力に働きかけながら、教育反動との闘いを具体的対案を提示してすすめていくことが重要です。
④ さらに重要なことは、解放教育・人権教育で育んできた地域教育運動の力を再編・強化していくことです。この力で、『こころのノート』などで巧妙に仕掛けられてきている「愛国心」や「道徳心」の高揚などの教育反動化への小さな動きも見逃さない有効で適宜な反撃を内容的におこなっていく必要性があります。まさに、「天皇制」強化や「日の丸・君が代」の強制、さらには「教育勅語」や「軍人勅諭」に通じるような「愛国心」や「道徳心」ではなく、反差別・人権の視点からその内容を具体的に提示していくことが重要です。
 ⑤ とりわけ、「特別措置法」失効後に「同和」教育への条件後退がおこなわれてきている状況のもとにあっては、この状況に萎縮することなく解放教育・人権教育の内容をさらに発展・普遍化させていくとりくみで対抗していくことです。地域からの生きいきとした教育運動の再編・強化で教育反動化へ具体的に対抗しながら、解放教育・人権教育の成果を豊かに深化させていくことが、今ほど重要な時期はありません。
 7 地域福祉と地域就労・起業支援をおしすすめ、生活と仕事を守る闘い
 ① 長期デフレ不況のもとで、企業倒産やリストラが増大し、大量失業と若者の不就業の問題が深刻化してきています。5年連続で3万人をこえる自殺者を数え、ホームレスが増加し、400万人をこえる若者層の不就業状況が、その深刻さを物語っています。部落の就労状況もその例外ではなく、皮革や食肉関係などの部落産業や建設関係での倒産があいつぐなど、大きな打撃を受けています。
 ② また、小泉政権の肝いりの「3大改革(高速道・年金・三位一体)」の名のもとで、福祉や人権教育関係予算の切り捨てと地方自治体への財政しわ寄せが進行しており、「人権の福祉」で基礎構造改革をおこなおうとした福祉行政や人権教育行政などの推進が困難な事態になろうとしています。
 ③ このような状況にたいして政権交代や政策転換を求める闘いを強力に展開していくことはもちろんですが、みずからの力で仕事を創り出し生活を守る闘いを強化していくことも重要です。「地域福祉計画」や「人権教育・啓発行動計画」を活用して、積極的に仕事と生活を守る闘いを組織したり、若者自立就労支援事業などを活用して仕事を創り出していくとりくみを強化していく必要があります。また、NPO法人や公益法人の立ち上げなどによる各種事業委託やコミュニティー・ビジネス(「地域にあって、地域課題を解決するために、ビジネス手法を使ってとりくむ事業」)など新規起業などで雇用や仕事を確保するためのさまざまな工夫をこらしたとりくみも大切です。
 ④ 地域住民の生活と仕事を守る闘いは、部落解放運動にとってきわめて重要な課題であり、今日のような経済不況のもとでこそ部落解放運動の真価が問われてきます。「1人にあらわれた困難な課題をみんなの力で解決していく」という部落解放運動の真骨頂が発揮されなければなりません。まさに、自助・共助・公助の仕組みづくりのなかで、部落解放運動みずからの力で生活と仕事を守り抜く闘いを粘り強く真剣にとりくんでいくことです。
 8 反差別国際連帯の強化と国際人権基準を地域で具体化させる闘い
 ① 反差別国際連帯のとりくみは、近年各地でしっかりと定着しはじめてきています。これは、反差別・人権確立のとりくみが国境を越えた普遍的な課題であり、世界の人びとの努力の結晶として確立されてきている国際人権基準の内容が地域的人権課題と深く結びついてきているということを示しています。
② とりわけ、1980年代後半から反差別国際運動(IMADR)と固く連帯しながらとりくんできた反差別国際連帯活動は、国際的にも高く評価されてきており、国連人権諸機関でもインドのカースト問題と並んで部落問題が大きくとりあげられる段階にまできています。
 ③ 注目すべきなのは、人種差別撤廃委員会が「門地に関する一般的勧告29」を2002年8月に採択し、部落問題が「人種差別撤廃条約」の対象であることを明確にしたのにつづき、人権小委員会が2003年8月に「中央又は連邦政府のみならず、地方政府並びに職業及び世系に基づく差別がしばしば発生する企業、学校、宗教施設その他の公的場所等の私的部門をも含む、すべての関連する行為体のための原則及び指針を作成すること」を決議し、「『職業と世系に基づく差別』を撤廃するための原則と指針」の策定作業が今夏にひらかれる小委員会に向けて、現在精力的におこなわれていることです。これらの国連段階でのとりくみに、今後とも積極的に関与していくことが必要であり、国内へフィードバック(還元)していくことが重要です。
 ④ また、「人権教育10年」(1995年=cd=c1222004年)のとりくみが、本年で最終年となっており、「第2次人権教育10年」に向けてのとりくみの強化が必要となってきています。日本政府は、1997年に「国内行動計画」を策定しましたが、地方自治体段階では策定率は16%台(563自治体)にとどまっており、「人権文化を社会の隅ずみ」にまで浸透させるにはほど遠い状況です。したがって、地方自治体とともに日本政府や国連にたいして、ひきつづき「第2次人権教育のための国連10年」を継続してとりくんでいくよう強力に働きかけていきます。
 ⑤ 女性差別撤廃委員会の勧告では、政府報告書にマイノリティ女性の実態がまったく記載されていないことが指摘されました。マイノリティ女性の実態を正確に把握するよう、さまざまな女性団体とも協力し、政府に実態調査を強く求めるとともに、男女共同参画社会実現へのとりくみを強めていきます。
 また、子どもの権利委員会の勧告でも、マイノリティの子どもがおかれている実態を把握するとともに、差別撤廃のための施策を積極的に実施することを求めていますが、政府にたいしこの履行を迫っていきます。
 ⑥ 部落解放運動は、「反差別」というマイノリティの視点と立場を堅持しながら、国際的な人権潮流としっかり合流した形で、反差別国際連帯活動をさらに強化していきます。重要なことは、昨年暮れの「人権擁護法案」問題でAPF(アジア・太平洋国内人権機関フォーラム)と共同行動を展開したように、国際人権課題と国内人権課題が密接不可分の関係になってきていることをふまえながら、国際人権基準をそれぞれの足元である日常生活圏域で具体化していくとりくみを積極的におしすすめていくことです。
 9 組織・財政強化のとりくみと理論活動を活発化させる闘い
 ① 組織・財政強化のとりくみは、「特別措置法」失効後の大きな緊急課題です。昨年の大会でも「部落解放同盟の組織建設・財源確立・人材育成の課題の成否が、部落解放運動の将来を左右するのだという緊張感をもったとりくみ」をしていく必要性を強調し、6点にわたってとりくみ課題を提起してきましたが、ひきつづき課題遂行のとりくみを強化しなければなりません。 
② これらの課題を再度確認しておきます。第1に、組織建設・財源確立に関する総学習運動の展開です。これは、『組織強化基本方針』(第58回全国大会決定)などを各都府県連・支部で徹底的に具体化していくことです。第2に、「人権のまちづくり運動」「地域福祉運動」「地域教育運動」などの分野別・課題別の新たな運動づくりへの着手とそれを推進するための組織体制の整備です。第3に、隣保館活用をはじめ地域内公的施設の活性化方策の確立です。第4に、各種制度のあり方についての現状点検と社会性のある改革の実施です。第5に、NPO活動などのあり方についての実践的活用の準備です。第6に、人材育成と積極的登用をはかる体制の整備です。
③ また、「部落解放・人権政策確立への政策理論・研究活動強化の闘い」も急がなければなりません。ひきつづき、中央理論委員会の活動を活性化させながら、来年の第62回全国大会に「部落解放・人権政策総合大綱」(仮称)ならびに「部落解放同盟基本文書」を提案できるように作業をすすめていきます。
 10 国権主義・新保守主義・反人権主義との絶えざる闘い
 ① 以上、部落解放運動をすすめていくための今期の重点課題を8点にわたって提起してきました。しかし、いずれの課題遂行にとっても小泉政権の反動路線との対決なしには、実現困難な状況であるということを、あらためて認識しておく必要があります。
 何度も繰り返しますが、卑俗な「普通の国」を標榜しながら「聖域なき改革」を強行しようとしている、アメリカの一国主義に追随する小泉政権の政治路線の本質は、国権主義・新保守主義・反人権主義であり、端的にいえば「戦争への道」であり「弱者切り捨ての市場原理への道」であるということが明白になってきています。
 ② イラクへの自衛隊派兵や首相の靖国参拝、年金問題をはじめとする「3大改革」や「教育基本法」の改悪策動などは、雄弁にその本質を実証しています。このような方向は、「生命・人権・平和・環境」を基軸とした社会の建設をめざす部落解放運動と真正面から対峙するものであり、断じて許すことはできません。
 ③ とりわけ、小泉政権の反動「改革」路線の集大成として、「憲法改正」論議が大きく浮上してきていることは、きわめて危険なものであるといわざるを得ません。すでに、各政党を中心にして、「改憲」・「加憲」とか「創憲」・「護憲」とかの論議が熱を帯びてきている状況があります。しかし、憲法論議で重要なことは、そのような政党の思惑を絡めた方法論的立場の表明を先行させて議論すべきではなく、まず日本の社会のあり方についての理念・見解を各政党が明確に提示し、ついでそのような社会建設を実現するために必要な法制度のあり方を具体的に提示して議論すべきだということです。当然、「改憲」を叫ぶ勢力のなかにある、国権主義的、新保守主義的な改憲策動にたいしては、断固として反対します。今日のような「この国のかたち」についての理念なき憲法論議は、政治の怠慢であり、いたずらに社会に混乱と軋轢をもたらすだけです。
 部落解放運動の立場は明確です。80有余年の闘いの歴史と教訓から、「差別と戦争を生み出すような社会およびそれを可能にする法制度」には断固として反対し、「生命・人権・平和・環境」を基軸にした社会と法制度を具体的に確立していくということです。
部落解放運動は、このような立場を堅持しながら、「戦争」と「弱者切り捨て」に道をひらく小泉政権の憲法、「教育基本法」改悪をはじめとする一連の反動路線と対決し、今期の8つの重点課題を周到に実現していくことを今大会の基調とします。

 

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