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100万人署名運動を拡大し
狭山再審を手中におさめよう
「解放新聞」(2004.10.11-2189)

 

 8月26日付で東京高裁第2刑事部が袴田事件の即時抗告を棄却する決定をおこなった。決定は、弁護側の主張であった証拠ねつ造の疑いを頭から否定し、自白の疑問にたいしても「犯人は不自然な自白をするもの」として矛盾をごまかしている。
 有罪証拠の疑問を指摘した弁護側の新証拠については、個個バラバラに排斥するという不当な棄却決定である。こうした棄却決定の論法は狭山と共通している。「無辜の救済」(無実の者を罰してはならない)という再審制度の理念も「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則もふみにじるものである。
 たとえば、犯行着衣とされたズボンが袴田さん本人にははけなかったことは重大な無実の証拠であった。弁護側は、糸の密度を分析する科学的な鑑定によって袴田さんとサイズが違うことを明らかにしたが、棄却決定は「誤差もありうる」として、弁護側鑑定をしりぞけている。自白の疑問や捜査の不正の疑いなど関連する証拠を総合的に見ようとしていない。
 狭山事件の棄却決定が、筆跡の相違を認めながら、「字は書くたびに違う」としてごまかし、弁護側の筆跡撃疋をしりぞけたのと同じズサンで不当な判断方法である。こうした市民常識とかけはなれ、「官」には甘い(捜査の不正やねつ造はないと決めてかかる)裁判所の姿勢そのものを問題にし、変えていかなければならない。
 えん罪の現実、人権侵害の実態を裁判官はもっと知るべきなのである。もっと国会でも議論し、えん罪の教訓を生かした司法改革こそすすめなければならない。

 弁護団は9月13日、東京高検の加藤検事と証拠開示の交渉をおこなった。弁護団は、今回の証拠開示請求では、5月に国会で成立した改正刑事訴訟法の趣旨とあらたに作られた証拠開示の規定をふまえて、弁護側の主張に関連する15項目の個別証拠の開示請求をおこなった。改正刑訴法の国会審議で、政府代表は、ある程度の証拠の特定をすれば弁護側は請求できると答弁しており、その趣旨からも、関係する証拠をふくめて調べて回答すべきである。これまでのように、一方的に「証拠は存在しない」と回答して終わりというような対応では「検察官による証拠開示の拡充」(刑訴法改正の趣旨)とはいえない。
 そもそも、検察官手持ち証拠の一覧(証拠リスト)を弁護側に開示すれば、それによって、スムーズに開示請求をすることができるのである。証拠があるかないかを争って時間がかかるより、よほど、迅速で公正なやりかたではないか。現に、イギリスでは証拠リストを最初に弁護側に交付するルールが確立している。弁護団は、個別証拠の開示とあわせて、証拠リストの開示を求めたが、加藤検事は、個別証拠の開示は検討したうえで回答するとしたものの、証拠リストは開示できないと拒否した。
 東京高検の回答によっては、今回の刑訴法改正が、真に「検察官による証拠開示の拡充」という趣旨にそったものかどうかが問われる。
 われわれは、えん罪・誤判をなくすための公正な証拠開示のルール化としては、今回の刑訴法改正では不十分であると批判してきた。すくなくとも、国際人権基準・国連勧告にのっとって、証拠リストを開示するルールが必要であり、そのために、さらに刑訴法改正、司法制度改革をめざして、幅広い運動をすすめていかねばならない。臨時国会に向けて証拠開示の公正な立法化を求めるとりくみをすすめよう。

 10月末には狭山事件の確定判決となっている寺尾判決から30年を迎える。狭山事件では、この30年間まったく事実調べがおこなわれていない。弁護団は、多数の新証拠、とくに専門家による鑑定書、意見書を裁判所に提出して、石川さんの無実と寺尾判決の誤りを明らかにしている。たとえば、弁護団が提出した専門家の筆跡鑑定書、意見書は21通にもおよび、それらは石川さんが脅迫状を書いたのではないことを明白に証明しているが、これら鑑定人の尋問は一度もおこなわれていない。
 第2次再審で提出された斎藤保・指紋鑑定士による5通の鑑定書は、石川さんと脅迫状が絶対に結びつかないこととともに、自白のおかしさ、寺尾判決の認定の誤り、万年筆の疑問を明らかにしている。しかし、東京高裁は、斎藤鑑定人の尋問もおこなわず、「推測の域を出ない」とするだけで、しりぞけている。しかも、石川さんのアリバイにも匹敵する封筒の「抹消文字」「2条線痕」の存在=真犯人による万年筆使用の痕跡について、棄却決定はまったく触れていない。
 袴田事件の棄却決定も同じだが、弁護側鑑定については鑑定人尋問もおこなわず、一方的な決めつけで排斥するというやりかたは許されない。狭山事件の第2次再審での新証拠の敷かずを考えれば、もはや鑑定人尋問などの事実調べは不可欠である。

 狭山弁護団は、この10月29日に補充書、新証拠を最高裁に提出し、調査官と面会して事実調べを強く求める。斎藤さんの一連の鑑定結果を補強する別の元鑑識課員による鑑定書などが提出される。また、自白や部落問題にきりこみ、原点にかえって、石川さんの無実を明らかにする補充書をあわせて提出する予定である。
 部落解放同盟中央本部では、この日、日比谷野外音楽堂での中央総決起集会を開くとともに、最高裁に公正裁判-事実調べを求める新署名を提出し、要請行動をおこなうことにしている。ぜひ、各地で新100万人署名運動に全力でとりくもう。寺尾判決から30年を迎え、弁護団が最高裁に再審をせまるこの日に、できるかぎり多くの国民の声を署名にして届けよう。
 斎藤鑑定など特別抗告審のポイントとなっている新証拠の学習・教宣とあわせて、署名をよびかけよう。30年間も事実調べさえおこなわない裁判の不当性と司法の現状を訴え、司法を変えるためにも新100万人署名をすすめよう!


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