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充実した「人権侵害救済法」制定
へ各地でのとりくみを強化しよう
「解放新聞」(2005.5.16-2218)

 3月10日の自民党合同部会での議論の紛糾以来、法務省原案の「人権擁護法案」をめぐる議論が混迷している。4月21日にひらかれた6回目の合同部会では、議論の集約を「古賀人権問題等調査会長に一任」して、党内了承手続をすすめるといわれている。しかし、自民党内には、反対・廃案意見が根強く存在しており、今後「法案取り扱い」がどのように進展していくのか予断を許さない状況である。
 私たちの「人権侵害救済法」制定運動にとって大事なことは、このような政治状況に一喜一憂することなく、法律の必要性とあるべき姿を明確に指し示しながら、今国会での早期制定を粛粛と求めていくことである。
 まず第1に確認しておかなければならないことは、法案議論の前提として「差別・人権侵害の実態」に関しての認識が根本におかれなければならない。この実態認識を欠落させた議論は、空理空論に偏り無益である。
 今日でも、司法書士や行政書士、警察官などの職務を悪用した身元調査による部落差別事件が横行したり、ハンセン病回復者の宿泊拒否事件や障害者差別、アイヌ民族差別、在日外国人差別、女性差別、子どもや高齢者への虐待、DV問題など、差別・人権侵害事件が枚挙に暇がない。法務省に報告のあった昨年度の人権侵犯事件は、約1万8千件といわれているが、これはほんの氷山の一角に過ぎず、実際の総事件数の1%にも満たないというのが現状である。
 「人権擁護法案」の議論は、このような長い間、放置され泣き寝入りを強いられてきた差別・人権侵害の深刻な実態を1日も早く克服・救済するという喫緊の必要性から論じるべきである。そのことは、40年も前に内閣同対審答申が指摘し、2001年5月の人権擁護推進審議会も答申し、国際的にも国連規約人権委員会をはじめ、あいついで強い勧告がなされてきたところである。

 第2に確認しておかなければならない問題は、人権擁護委員の選任基準に「国籍条項」は必要ないということである。法案反対理由の大きな一つとして、「特定の国の出身者が特別な目的をもって、集団的に委員に就任した場合、国益に反する事態が起こりうる」ので、選任される「人権擁護委員」の資格条件に国籍条項を入れるべきだとの主張があるが、正当な根拠を認めることができない。
 第1に、現実の問題として、法案の選任手続からいっても、意識的な読み違えをしていない限り、「特定の国の出身者」や「特定の団体」から集団的に人権擁護委員に就任することはあり得ないということである。
 第2に、人権は国籍の如何を問わず、すべての人に認められているのであり、国籍を問わずにあらゆる住民の人権を守り、そのための人権擁護委員に定住外国人が就任する道をひらくことは、世界や隣国からの信用と信頼を勝ちとることになり「国益」に適ったとしても、決して「反する」ことにはならないということである。
 第3に、人権擁護委員が「公権力の行使」や「国家意思の形成に参画する」というような権力的権限をもつ規定になっていないにもかかわらず「国籍条項」を付与せよというのは、偏狭な民族排外主義的な主張であり、差別的でさえあるといわざるを得ない。
 私たちは、今日の日本社会で外国籍をもつ定住者が200万人を越えて増加しているという現実と歴史的背景から、「市町村の実情に応じ、外国人の中からも適任者を人権擁護委員に選任することを可能とする方策を検討すべき」との人権擁護推進審議会の答申(2001年12月)を尊重すべきだと考える。しかも、人権擁護委員の選任にあたっては、当事者性を大切にしながら差別・人権問題に精通した人を選任していくことは必要であり、断じて日本での人権確立の流れを逆行させてはならない。

 第3に確認しておかなければならない問題は、「人権や人権侵害の定義が曖昧である」という反対理由の指摘である。「国籍条項を付与せよ」という的外れな議論が起こる背景には、「人権」や「人権侵害」の定義が明確になっていないために、恣意的な運用がなされるのではないかとの懸念が存在していることは事実である。その意味で、反対派の人たちが主張している「定義が暖味だ」という理由は、その限りでは当を得ている。
 だからこそ、私たちは、前回の法案提出の時から、一貫して「定義の明確化」を要求してきている。これが暖味だと、際限のない拡大解釈がなされる恐れがあると同時に、重要な人権侵害事案であったとしても歪曲解釈がなされ切り捨てられる危険性もある。
 したがって、私たちは、法律としての有効性と安定性を確保するために、現時点でのもっとも包括的で安定している「憲法」や日本が批准・加入している「国際人権諸条約」に定められた権利として、「人権」を定義することが望ましいと考える。そうすれば、それらの権利を侵害することが、「人権侵害」であると定義され、人権侵害の判断での窒息性は除去されることになる。

 以上のような新たな争点にたいする基本的な認識を明確にしつつ、従来からの所管問題や地方人権委員会設置問題、さらにはメディア規制問題についても、引きつづき修正要求を強化していくことが大切である。
 現時点では、「人権侵害救済法」の今後の取り扱いの不透明な部分があるうえに、民主党の一部の議員たちのなかにも法案反対の動きがあったり、中央本部の要職にあった元一幹部が「前同盟役職」・「元衆議院議員」・「ティグレ」などの肩書きで法案反対ビラを全国会議員に配布するなどの法案成立への妨害行動があるなかで、私たちは今国会での早期制定を求める闘いを着実に拡大・前進させていかなければならない。
 現在繰り広げられている法案議論の論点や情勢にたいして、各地実行委員会や支部段階でもしっかりと意志統一のための集会や学習会をひらき、「人権侵害救済法」制定への揺るぎない理論武装と、とりくみ課題の意志統一を図ることが重要である。この力を5月下旬にくるであろう山場での中央行動に結集し、「人権侵害救済法」の今国会での制定を必ずや勝ちとっていこう。

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