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部落問題資料室
NEWS & 主張
主張

 

今年の闘いを総括し、
新たな展望を切りひらこう
「解放新聞」(2006.12.25-2300)

 2006年は、部落解放運にとって激震が走った年であった。この激震は、戦後最大の部落解放運動の危機として現在もつづいている。いうまでもなく、大阪、京都、奈良で発覚した一連の不祥事のことである。
 部落解放同盟は、当該府県連はもとより全都府県連・支部の問題として、この不祥事を真正面から受けとめ、社会的な謝罪の意を表明するとともに、組織の総点検・改革運動を推しすすめ、部落解放運動の再生と社会的信頼の回復へ向けて組織の総力をあげたとりくみをつづけているところである。
 今回の一連の不祥事をけっしてたんなる個人の問題、偶発的な問題として終わらせてはならない。このような不祥事を引き起こした支部幹部を生み出す要因が、運動と組織のなかに体質化され構造化された問題としてあったのではないかとの観点から自己切開する姿勢が重要である。
 それは、行政闘争主導といわれた第2期の運動を徹底的に総括し、何を成果として受け継ぎ、何を負の遺産として拒否するのかということを再度明らかにしながら、今後の部落解放運動のあるべき姿を組織内外にはっきりと示すことにはかならない。
 来年の3月3、4日に開催する第64回全国大会では、そのための運動方針を具体的な実践課題として明確に打ち出していくことが問われている。

 この1年間を振り返ってみれば、巨大与党を背景にして小泉政権から安倍政権へと移行したもとで、「教育基本法」改悪の強行採決や拡大の一途をたどる格差社会の状況など日本全体がきわめて危険な憂慮すべき事態に向かって加速的にすすんでいるといわざるを得ない。
 この状況にたいして、今年3月の全国大会では、「4つの重要課題」を打ち出したことは衆知のとおりである。すなわち、①憲法改悪の危険な政治動向と対峙し、総合的な「人権の法制度」を確立する課題②狭山第3次再審闘争の勝利と悪質化・頻発化する差別事件にたいする糾弾闘争を強化する課題③差別実態に即した行政闘争の強化と日常活動としての「人権のまちづくり」運動を活性化させる課題④新たな時代の課題に対応しうる中央オルグ団の再編をはじめとする組織強化と財政確立・人材育成をはかる課題であった。
 わけても、組織強化と財政確立・人材育成の課題は、部落解放運動にとって喫緊の課題であり、全国大会後の最重要課題として6月から都府県連別支部活動者会議を開催して徹底的な膝詰め論議をおこなっていく準備をすすめていた。その矢先の5月8日に大阪の「飛鳥会」問題が発覚したのである。この間題に対応しながらの都府県連別支部活動者会議にならざるを得なかったが、8月中旬過ぎまでにほぼすべての都府県連でやりきってきた。その後、京都、奈良での不祥事も発覚してきたことは、まさに断腸の思いであった。
 中央本部としては、「大阪「飛鳥会」問題等一連の不祥事にかかわる見解と決意」(9月29日)を内外に公表するとともに、これにもとづいて「部落解放同盟組織総点検・改革運動」の強力なとりくみを全国2000余支部に要請したところである。11月上旬から開始された総点検・改革運動は、部落解放運動の存亡をかけたとりくみとして、現在もなお継続している。

 現在の部落解放運動では、新たに発覚した第9・第10・「電子版・部落地名総鑑」にたいする糾弾のとりくみ、5月23日におこなった狭山第3次再審請求の申し立てと100万人署名のとりくみ、「人権侵害救済法」制定のとりくみ、各地域での「人権のまちづくり」運動など、重要な課題が山積している。
 これらの課題にかかわるとりくみを継続しながらも、今もっとも重要なことは「組織総点検・改革運動」の完全遂行である。みずからの襟を正すとりくみを先行させて、部落解放運動の社会的信頼を回復することなくして、社会的正義を実現するためのとりくみは不可能であるということを肝に銘じなければならない。
 組織の総点検・改革運動では、「3つの基本視点」を据えている。すなわち、①運動の原点である「部落差別からの完全解放の実現」をめざす大衆団体であるとの綱領的立場から組織を総点検すること②運動の停滞や腐敗は組織の民主的運営にかかわる基本原則から逸脱した時に起きるという視点から組織現状を正確に把握すること③総点検の目的である組織改革と強化に向け「組織強化基本方針」(2001年)を各級機関で徹底的に議論し地域事情に即して具体化すること、である。この基本視点から、新たな部落解放運動の再生へ直結する具体的な点検8項目を提示している。
 同時に、不祥事への基本的対応の「4つの視点」も提示している。第1に、社会的謝罪と社会的信頼回復の具体化としての組織総点検・改革をやり切るという視点。第2に、不祥事を口実にした人権・同和行政の「責任放棄」につながる理不尽な後退を許さない視点。第3に、差別の拡大・再生産につながる報道姿勢は許さない視点。第4に、権力側からの部落解放運動への弾圧攻撃(直接攻撃・離間工作・内部分裂の「3つの手口」)に屈しないという視点、である。

 部落解放運動の再生への道はあるのか。総点検・改革運動のなかで、すでに多くの課題が率直に提起されてきている。これらの課題に実直に向き合い、「捨てる勇気と作る気概」をもって躊躇なく改革を断行すれば、部落解放運動は確実に再生できると確信している。また、再生させなければ、差別撤廃・人権確立に向けた日本の将来に暗雲が立ちこめるであろうし、何よりも困難を抱えた部落内外の多くの人たちの生きる力と希望を失わせることになってしまう。
 部落解放運動の力の源泉は、けっして「富や権力」を握ることによって担保されるのではなく、まさに「人間を尊敬することによって」、一人ひとりの人間がみずからの尊厳を回復し、人と人の関係を豊かなものに変え、差別撤廃と人権確立の社会へと変革していく社会正義を実現していくところに存在している。これこそが、部落解放運動の社会的使命であり歴史的責任である。
 部落解放運動の存立基盤は、生活圏域である。この生活圏域から社会正義を実現する部落解放運動の再生への課題をつかみ出すことである。これらの主たる課題は、福祉分野での生活保護制度や介護保険制度さらには年金・医療制度など生存権にかかわる課題、教育分野での奨学金制度や就学支援制度など教育権にかかわる課題、就労分野での最賃制度や同一労働同一賃金など労働権にかかわる課題である。
 これらの課題を、「社会的セーフティネット」の基準作りに集約し、「人権のまちづくり」として、反差別・人権の視点を共有しながら部落内外の広範な協働のとりくみとして推しすすめていくことである。
 部落解放運動の社会的使命・歴史的責任を再自覚し、具体的な課題で日常活動を活性化させていく実践と実績を積み上げることでしか、「信頼の回復」も「運動の再生」もない。『災い転じて福となす』という格言を来年の部落解放運動でみごとに実現していきたい。

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