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部落問題資料室
部落解放同盟ガイド
見解

 

精神障害者に対する差別的記載に関する謝罪と見解

07年1月17日
部落解放同盟中央本部
執行委員長 組坂繁之

Ⅰ.精神障害者への差別的記載に対する抗議の経過 ―(略)―

〔2004年12月に同盟関係文書の差別的記載に対する、大阪精神障害者連絡会(以下、大精連と略)当事者からの問題提起があって以降の経過概略の記述は省略します。なお、以下の本文中では、固有名が出てくる箇所については正式  文書の文意が変わらない範囲で変更しています。〕

Ⅱ.指摘された差別的記載に関する問題点

(1)大精連から指摘された差別的記載の問題箇所は、以下の点です。
 ①「最近増えている精神疾患を患っている人が起こす差別事件については、精神障害者差別撤廃の視点を重要視しながら、医療関係者・関係団体との協力体制をとり、とりくみをすすめます」(2000年第57回全国大会~2004年第61回全国大会運動方針の「差別糾弾闘争の具体的とりくみ」の項)。
 ②「来ひんあいさつで部落解放同盟関係者が、研究所に求めたい意見として①差別投書について、精神的な病をもった人がなぜ差別投書など部落差別を起こすのか、因果関係を探ってほしい」(2003年7月14日付解放新聞中央版での第58回部落解放・人権研究所総会にかかわる記事)。
 ③「Sさんは入園以前から「うつ病」の治療を受けていたということと、高齢と痴呆の傾向が見られ、会話に意味合いの不明な点が多かったため、家族から事情聴取をおこなった」(『全国のあいつぐ差別事件』2004年度版所収「和歌山県湯浅町内老人ホームにおける差別事件」の項/「解放新聞和歌山版」2004年1月1日付、県連調べ)。
 ④「精神的な障害を持っている男性市民とのことだったが、差別落書きが許されるものではない」(『全国のあいつぐ差別事件』2005年版所収「高知市内公衆トイレ差別落書き事件」の項/「解放新聞高知市協ニュース」2004年10月7日付)。

Ⅲ.差別的記載に関する問題認識と反省

(1)問題指摘に対する基本認識
 ①まず最初に、大精連関係者からの度重なる問題指摘が2年近く前からなされていたにもかかわらず、部落解放同盟として組織的に機敏で十分な対応ができ得ていなかったことを率直に反省しながら、本問題についての認識と見解を述べたいと思います。
 ②指摘された問題箇所については、精神障害者への差別を固定・助長するものであり、差別的記載であったことを率直に反省し、精神障害当事者の方々に対する心からの謝罪を表明します。
 確かに、事実の問題として部落差別事件を起こした人が精神疾患を持っていたとしても、現実に「精神障害者は何をするか分からない」というような精神障害者差別が根強く存在するもとでは、短絡的にその事実を記載するだけでは「精神障害者だから部落差別事件を起こした」という捉えられ方をされかねず精神障害者への差別を固定・助長することにつながると判断しています。

(2)差別的記載への経過と問題所在
 ①問題の第1は、部落解放同盟がなぜこのような精神障害者差別を固定・助長するような差別的記載をおこなってしまったのかということです。
 1.部落解放同盟は、部落差別を撤廃するという取り組みが精神障害者差別などをはじめとするあらゆる差別を撤廃する取り組みと同質のものであるととらえてきました。
 2.ここ数年来、問題指摘された事例のように、部落差別事件を引き起こした人が精神疾患を持っているという事実に直面し、部落差別と精神障害者差別を撤廃するという観点から具体的にどのように対処すべきかということについて苦慮してきたことも事実です。
 3.これらの事案について、「部落差別をする者は誰であろうとも許されない」という基本姿勢のもとに、加害当事者が精神障害者である場合の対応方針に関しては「精神障害者差別撤廃の視点を重要視しながら、医療関係者・関係団体との協力体制をとり、とりくみをすすめます」(部落解放同盟全国大会運動方針)との方向性を確認してきました。
 4.しかし、精神障害者差別に対する認識を深める組織的な取り組みを欠落させていたために、この方向性が組織としての具体的な取り組みにまで至らなかったという不十分性があったことを率直に自己批判します。このことが、その後の部落差別事件の取り組みや記載について不統一な対応になり、ひいては精神障害者差別記載につながる結果をもたらしてしまったということであり、部落解放同盟としては深く反省するところです。
 5.現実に、第57回(1999年)から第61回(2004年)までの全国大会運動方針の中で繰り返し記述されてきた「全国的に最近増えている精神疾患を患っている人が起こす差別事件」という箇所は、「精神疾患」が「差別事件」を起こす原因であるかのごとき記載になっていることは否定できません。私たちの本意が前述した「精神障害者差別撤廃の視点を重要視しながら…」という部分であったとしても、結果として差別的記載になっていることは事実であります。精神障害で苦しんでいる多くの当事者のみなさんの心を深く傷つける記述であり、心からの反省と謝罪をします。
 6.また、「全国的に最近増えている」という認識も、正確なデータに基づくものではなく、1990年代からの数件の事案から短絡的に表現したものであり、差別を助長するものと言わざるをえません。
 7.そのような精神疾患に対する無理解ともいうべき姿勢が、差別事件を引き起こした当事者に対して、たまたま精神疾患を患っていることによる取り組み方法の困難さの問題を真剣に追究することなく、精神障害と差別事件の因果関係があるかのように短絡的に結びつけるような認識と記述の誤りを生み出してきたのではないかと考えます。
 8.補足的に説明しますと、部落差別行為者が精神疾患を患っている事例として、1991年以降、名古屋市で起きている差別扇動事件や、1999年に奈良県で起きた労働基準局職員による差別メール事件の取り組みの中で、なかなか話し合いが設定できないことや、治療を優先してもらうことで、取り組みが長期間にわたることが報告されていました。また、1997年から3年間で約100件の差別落書きが起きたJR尼崎駅等連続差別事件においても、部落差別行為者が精神科の治療を受けていたことで、従来の差別糾弾闘争の手法だけでなく、糾弾する側の意識変革も含めて本人や家族に対する支援体制の継続、障害者に対する差別撤廃の視点を明確にすることに重点をおいて、障害者団体、医療団体とも協働した取り組みをすすめてきた報告などがあり、前述したように、従来の差別糾弾闘争の取り組みでは事件そのものの解決、とくに事件の社会的背景や問題点を明らかにし、部落差別行為者の意識変革につなげていく取り組みがすすまない、あるいは長期間にわたるなどを考慮し、同盟全体としてこうした事例にも問題意識をもつべきであるとの認識が背景としてあったことは事実です。
 9.さらに、2003年7月の部落解放同盟関係者の部落解放・人権研究所総会での挨拶内容についても、前述のような問題意識からの発言ではありましたが、ご指摘のとおり、発言内容は説明不足で、差別を助長する結果になってしまいました。また、解放新聞中央版の記事についても、挨拶内容の前後の説明が十分でない記事の内容となっており、精神障害者差別を助長するものになったと反省しています。
 10.『あいつぐ差別事件』に所収された和歌山県連や高知県連の事案においては、部落差別事件そのものについては慎重で丁寧な取り組みがすすめられてきました。例えば、和歌山県連の事案については、2003年12月に湯浅町で毎年おこなわれている「差別事件報告集会」で報告された差別事件を解放新聞和歌山県連版で紹介したものです。差別事件の報告では、その経緯が詳しく報告され、差別発言をした当事者の精神障害にかかわる病気診断は専門医によって行われており、そのことを踏まえながら部落解放同盟湯浅支部・行政関係者・社会福祉協議会・障害者団体・湯浅町共闘会議・湯浅町実行委員会等で取り組まれたことが報告されています。その際、「差別事件は、病気とは関係なく、本人の子どもの頃から持ち続け、社会生活の中で醸成されてきた差別意識にある」との確認が行われています。但し、事実確認に関して当事者との事情聴取が十分にできなかった理由として病気の説明がなされたということですが、解放新聞記事(2004年1月)のような記載になると「病気が差別事件の要因」であるかのような誤った認識を生み出す危険があることは事実です。
  11.高知県連の事案(2004年)においても、和歌山県連と同様に、行政関係者による差別落書き当事者にかかわる情報確認の上で慎重な取り組みをすすめてきましたが、当事者からの十分な事情聴取ができないまま終わったということです。しかし、精神障害と差別事件の直接的な因果関係はないにもかかわらず、「精神的な障害を持っている男性市民とのことだったが、差別落書きが許されるものではない」との記載の仕方は、やはり障害者差別を固定・助長するものになってしまったということは事実です。
  12.これらの記事記載を、『あいつぐ差別事件』において、そのまま記載してしまったことは、ひとえに部落解放同盟中央本部の責任であることは言を俟ちません。障害者差別に対する認識が希薄であったことを深く反省します。

(3)差別的記載の指摘に対する対応の問題
 ①問題の第2は、2年近くも前に部落解放同盟関係出版物の中に精神障害者に対する差別的記載があるということを指摘されながらも、迅速かつ組織的な取り組みができなかったのかということです。
 ②確かに、精神障害者に対する差別記載の問題を指摘されると、その都度「問題箇所の削除」とか「お詫びの見解文の挿入」とかの手だては講じてきましたが、これはむしろ「その場しのぎ」の対応であり抜本的な対応とは言えないものになっていたと反省するところです。
 ③2005年1月の中央執行委員会(運動方針起草委員会)で、第62期運動方針を論議した際に、担当中執から、この当該部分について、精神障害者への差別を助長する内容であるとの問題提起があり、この間、医療関係者との連携も部分的にしか取り組めておらず、さらに本部として事例や取り組みの集約をすすめなが  ら検討をしていくことを前提に、この部分については削除することが提案され、了承されました。
 ④しかし、この問題提起および削除の提案にいたる同盟としての問題意識や課題の整理についてはその後もしっかりと論議や実践もされることなく、今日にまで至っているのが現状です。また、こうした経緯や担当中執が提案した際の問題意識、同盟としての受け止め方が問題提起者に誠意を持って伝えられていなかったことや、中央本部委員長への手紙についての対応にも、「削除した」事実以上の問題意識を同盟組織全体が持てなかったことの反映として、取り組み指示が事務的になされ遅々とした対応状況となり、問題提起者への説明責任が疎かにされてしまうという状態になってしまいました。このことが、苦しい思いをもって問題提起をしていただいた当事者に多大の心的苦痛を与えるとともに、精神疾患を患う多くの人たちの心を深く傷つけてしまったことを心から謝罪します。
 ⑤何故そのような対応になってしまったのかということを自己切開し、今後の取り組みにむけてしっかりとその教訓を血肉化していきたいと思います。
 1.第1の理由は、障害者差別の認識を組織全体で深めるという問題意識を持つことなく担当部署任せにしてきた安易さとその結果として論議を深め具体的な行動に移すことを怠るという機能不全ともいうべき怠慢があったことを率直に認めたいと思います。
 2.第2の理由は、「差別の問題は分かっている」というある種の傲りから、差別的記載による差別助長の影響やその記述によって精神障害を持つ当事者に与える深い苦痛への真摯な熟慮を欠いていたと思います。
 3.第3の理由は、部落差別の問題に対する敏感さと比して、他の差別問題に対しては同様の敏感さを共有し切れていないという弱さがあったと考えます。
 ⑥結論的には、部落差別と精神障害者差別の撤廃という協働化への具体的なとりくみが、決定的に遅れていたことを深く内省するとともに、問題指摘をされてからも組織としての責任ある対応がとれていなかったことを猛省するものです。そこには、差別撤廃という思いが共有できているとの安易な姿勢から小手先の対応になってしまったのではないかとの反省もありますし、対応の遅れと怠慢はひとえに反差別協働行動への鈍感さと傲慢さがあったことが理由ではないかとの反省もあるところです。

Ⅳ.今後の取り組みについての方向と決意

 (1)この間の経過と問題点を同盟諸機関(中央執行委員会・中央委員会・全国大会)において議論を行い、精神障害者差別問題についての認識を深めとともに、引き続き関係諸団体との意見交換などを通じて実質的な協働の取り組みを前進させていく契機としていきます。
 (2)『謝罪と見解』を都府県連合会に機関通達で周知するとともに、解放新聞中央版や中央本部ホームページで公表し、全同盟員および関係者に精神障害者問題への認識をさらに深めるとともに差別撤廃への取り組みを具体化していきます。
 (3)同時に、部落解放同盟関連の出版担当部署にも周知徹底して、これまでの出版物に障害者差別を固定・助長するような差別的記載がないかを再点検する取り組みをすすめていきます。なお、『全国のあいつぐ差別事件』(2004年度・2005年度版)に関しては、引き続き「おことわり」文を挿入します。
 (4)部落解放同盟中央本部の主催する『中央解放学校』(幹部研修会)や『中央福祉学校』などの場で、当事者団体からも講師を招聘して精神障害者差別に関する研修を行うなど同盟員教育を徹底するとともに、各級機関においても同様の研修を行うように徹底します。
 (5)精神障害の当事者団体との積極的な反差別協働行動を追求し、「人権のまちづくり」運動などにも位置づけながら、あらゆる差別撤廃と人権確立のための取り組みを強力に推し進めます。

 

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