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部落問題資料室
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行政書士による戸籍謄本などの不正取得
事件を解明し、差別糾弾闘争の強化を
「解放新聞」(2007.11.05-2343)

 今年8月10日、三重県内の行政書士が、職務上請求用紙を使って、511人分の戸籍謄本などを不正に取得し、10か月間の業務停止処分になっていることが報道された。行政書士が取得した戸籍謄本などを横浜市の調査業者「プライベートリサーチ」に提供し、報酬を得ていたことも明らかになった。これらの事実は、いまだ根強い差別身元調査がつづいている証であり、身元調査のために調査業者によって、戸籍謄本などが不正に取得されていることも明らかにした。行政書士とプライベートリサーチとの契約書や関係書類からも、戸籍謄本などを不正に取得しておこなった身元調査の問題点は明白である。関係資料のなかには、「注」として「大切なことは、(戸籍)対象者に察知されないようクライアントに資料の内容を明かさないことです。問題になれば一社だけでなく、業界全体の信用問題や不利益になります。また、内部告発や危機管理には十分にご配慮願います」といったことを取決め事項の中に明記し、みずからの問題点・違法性を自覚していたのである。
  また、これら連続して発覚している戸籍不正取得事件は、22年前の戸籍不正入手密売事件とその構図はほとんど変わっていない。

 いっぼう、「部落地名総鑑」は、2005年12月に「第9」、昨年1月に「第10」、9月に「電子版」が回収されており、戸籍不正取得事件と重ね合わせて考えるなら、今日も根強く差別身元調査がおこなわれていると断定せざるをえない。
 1985年に発覚した戸籍不正入手密売事件(以下「85年事件」という)と異なる点のひとつは、85年事件のとりくみの成果として整備された戸籍等請求用紙が悪用されている点である。この用紙は戸籍不正入手防止の目的で各有資格者団体が作成したもので、85年時点では未整備であり、架空の行政書士名をでっち上げて役所に請求するだけで、簡単に他人の戸籍謄本などを取得できていた。
 85年事件ではニセ弁護士やニセ行政書士などが不正取得し、興信所や探偵社に1通5千円から1万円で密売していた。こうした戸籍謄本などは、結婚や就職のさいに身元調査の重要資料として悪用され、差別調査と結びついていたことも関係者の証言で明らかになった。このような“戸籍屋”の実態が明るみに出たのが85年事件である。これ以後、ニセ税理士やニセ司法書士、ニセ行政書士が、同様の事件で連続して逮捕された。

 このように戸籍不正入手密売事件は、広範に身元調査に利用するために戸籍謄本などが取られていた現実を明らかにした。
 当時でも、関係調査会社の社長は、他人の戸籍謄本などを「有資格者を通して入手した」と答えている。また、大手や中堅の興信所は、ほとんどそれらの有資格者と結びついており、一定の手数料で依頼すれば、簡単に入手できると明言していた。この証言は、これら事件のなかに名前は公表されていないが、正規の行政書士が含まれていた事実からも明らかである。
 当時、大阪法務局長は「戸籍法の精神を踏みにじり、基本的人権を侵害するもので重大に受け止めている。本省へも働きかけ、全国的な問題としてとりくんでいく」と強調したが、現在も、身元調査の重要資料として戸籍謄本などが取られているのである。

 これらの事件の特徴は戸籍謄本などを取られた本人が、その事実を知ることができない点にある。
 つまり、「自覚なき被害者」であることによって、今回の三重県行政書士の不正取得のように加害者(=不正入手者)の側からか、行政の窓口でのチェックでしか事件が発覚しないことがほとんどなのである。
 今日では情報公開条例などで、請求すれば自己の戸籍謄本などを入手した人物を特定することが一部可能になったが、「自覚なき被害者」が請求することはほとんどない。
 このような戸籍不正取得事件の出発点は調査業者に調査を依頼する組織や個人である。とくに結婚時に差別調査を依頼する個人はあとをたたない。根強い差別意識をもった人びとがいるかぎり結婚差別をするための手段として差別調査と「部落地名総鑑」は存在しつづける。そしてこれらの状況を問題が発覚するまで事実上放置し、防止するための十分な施策を講じていない行政機関の責任は大きい。
 こうした内容と背景や問題点を克服するためには、つぎの諸点についての強力なとりくみが求められる。

 まず第1に、差別身元調査にも結びつく事件の真相究明を徹底的におこなうことが必要である。これまでに判明した内容は、あくまでも事件の一部である。事件の水面下に隠れている部落差別を含めた事件の全容を明らかにする必要があり、入手先、入手件数、依頼主、密売先、密売ルート、使用目的などの究明とともに、戸籍事務全般の実態を調査することが重要である。
 第2に、不正取得された人への救済の問題である。先にのべたように、ほとんどの場合、この事件の被害者が「自覚なき被害者」であり、被害を受けた実態さえ知ることができない状況におかれている。つまり、不正取得された人への報告と被害説明および実情把握と救済、戸籍謄本などの返還請求をおこなう必要があり、それらのとりくみ強化を各自治体へ強力に要請しなければならない。
 第3に、有資格者や調査業者をはじめ関係者への啓発・教育のとりくみを強化する必要がある。とりわけ有資格者については戸籍法や施行規則などの主旨を徹底し、不正取得された戸籍が差別調査などに利用されている深刻な実態への理解を促進する必要がある。
 第4に、戸籍制度や個人情報保護制度、差別撤廃・人権侵害救済制度などを含む抜本的な法改正などのとりくみが重要である。そうしたことを通じて部落差別の完全撤廃を達成しないかぎり差別の手段としての戸籍不正取得や「部落地名総鑑」は根絶できないということを肝に銘じ、今後のとりくみを強力に推進していくことを訴えたい。

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