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声明

 

 取り調べの全過程の録画・録音を義務づける「取調べ可視化法案」が、6月4日に参議院本会議で可決された。可決にあたっての中央本部の声明を掲載する。ひきつづき法案成立へとりくみをすすめよう。
参議院における取り調べ可視化法案の可決に当たっての声明
部落解放同盟中央本部

1、本日、被疑者取り調べの全過程の録画・録音を義務付ける制度を導入する刑事訴訟法の一部改正案、いわゆる「取り調べ可視化法案」が参議院本会議で可決された。
  可視化法案は、多くのえん罪事件で明らかになった警察での取り調べの実態、国連の勧告などをふまえて、裁判員制度の実施をひかえて、広く国民が求めてきたものであり、参議院での可決を受けて、衆議院におけるすみやかな審議と法案成立を切に願うものである。
  法案審議の過程では、検察、警察が試行的に始めているという一部の録画・録音では、取り調べにおける不当な人権侵害を防止することができないばかりか、裁判における判断を誤らせる材料を与えることになりかねないことも浮き彫りになった。参議院で法案に反対した自民・公明両党の国会議員にも、国民の声に真撃に耳を傾け、取り調べ全過程の可視化の実現にむけ法制定をはかられるよう強く要請したい。

2、1980年代に免田庸件をはじめとする死刑再審請求4事件であいついで無罪判決が出されたときにも、自白偏重の捜査手法が批判され検察官の証拠不開示が誤判を生むとの指摘がなされたが、具体的には改善されなかった。昨年来、志布志事件、氷見事件などで、密室での取り調べによって虚偽の自白調書が作成され、人権侵害の取り調べと誤った起訴がおこなわれ、自白に依存して、十分な証拠の吟味がおこなわれなかったがために誤判までおきたという厳然たる事実は、自白偏重の捜査が何ら変わっていなかった日本の刑事司法の実態を明らかにした。
  今回の法律案は、過去の反省のうえに立って、こうした深刻な日本の刑事司法の実態をいまこそ変え、裁判における公正さを実現し、証拠隠し・ねつ造によるえん罪を防ぐために、取り調べの全過程を可視化するとともに、証拠リストを弁護側に開示する制度を導入しようというものであり、法案が参議院で可決された意義は非常に大きいというべきである。
  来年5月から始められようとしている裁判員裁判において、市民が公正に判断するにあたって、真実ではない自白調書が出されたり、証拠が隠されるという事態がおきないようにし、えん罪を生み出さないようにするためにも、法案を成立させ、いまこそ可視化・証拠開示を実現しなければならない。

3、こうした経緯・趣旨の法律案が提案、参議院で可決されたことは日本の刑事司法のありようを問うものであり、これを機に、警察、検察は自白偏重の捜査手法を徹底して反省し改めるべきである。また、裁判所も重く受けとめなければならない。裁判の公正さを実現するために、自白偏重を戒め、取り調べ状況や供述内容、客観証拠との整合性などを厳密に調べ、供述の任意性、自白調書の信用性を慎重に検討するよう徹底していくべきである。

4、45年にわたってえん罪を訴えている狭山事件においては、検察官の手元に膨大な証拠資料が保管されながら、この20年来、弁護側の求める証拠開示がおこなわれていないし、自白の信用性が鋭く争われ、専門家の鑑定書など多数の証拠が弁護側から出されながら、事実調べが30年以上もおこなわれていない。長期にわたってえん罪を訴えている袴田事件等の再審請求でも、取り調べや自白の信用性が問題にされながら事実調べがおこなわれないまま再審の門が閉ざされている。
  「無辜の救済」との再審の理念、死刑再審4事件やこの間のえん罪事件の教訓とともに、今回の可視化法案の趣旨、提案の経過と可決の意義をふまえるならば、いまこそ、自白の信用性が争われている再審請求事件において、弁護側の訴えにこたえ、裁判所、検察庁は事実調べと証拠開示をおこなうべきである。

5、任意の取り調べの可視化や代用監獄の廃止、弁護人立ち会い権の保障、長期勾留の問題など、えん罪をなくすための刑事司法改革の課題は山積している。可視化法案の参議院における可決を第一歩として、司法民主化の実現にむけて、国民全体でいっそうの努力をしていくことを確認したい。
  私たちは、再審の門を閉ざすような動きに断固反対し、狭山事件の再審実現に向けて全力を尽くすとともに、多くのえん罪との闘いと連帯し、取り調べの全過程の可視化、公正な証拠開示制度の実現をはじめとした司法民主化、人権確立を求めて、さらに幅広い運動をすすめることを表明する。

2008年6月4日
部落解放同盟中央本部

 

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