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部落問題資料室
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主張

 

悪質な差別事件にたいし
糾弾闘争をさらに強化していこう
「解放新聞」(2008.06.30-2376)

 悪質な差別事件が続発している。とりわけ電子空間・ネット上の差別事件はさらに悪化している。これらの差別事件は今日の部落間題を取り巻く状況を顕著に反映している。
  その特徴の第1は、ネット上の差別事件が多発しているという現状と重なって、煽動的・挑発的な内容や憎悪に満ちたものが増加している点である。東京でおこった全国大量連続差別投書・ハガキ等事件はその典型である。加害者は実刑の有罪判決を受けたが、その内容は憎悪に満ちたものであった。加害者の供述によれば、近年矢継ぎ早に出版されている「同和バッシング」本に大きな影響を受けており、それらに代表される社会的風潮が今日の差別事件に大きな影を落としている。
  部落解放運動のあり方に関する批判は自由である。しかしこれらの批判が一方的であることによって偏見を不当に一般化したり、差別を助長・煽動したりするものになっているケースもある。「批判の自由」と「差別の自由」を混同している傾向が見られ、今日の差別事件の特徴を形成している。
  さらに近年の差別事件の特徴としてあげられる代表に戸籍などの不正取得事件がある。時代がすすみ差別撤廃が進展したといわれる反面、旧来の差別事件と同じ構図を引きずっている。
  この間のとりくみによって差別意識の克服に向け前進している部分とそうでない部分が並存している状況にある。いまなお根強い差別意識をもち続けている人びとの意識はほとんど変化していない。

 第2は、行為者不明の事件が依然として多く、闇から執拗に攻撃をしてくる事件の続発である。ネット上の悪質な事件の分析からいえることは、差別意議と実際の差別行為の距離が非常に短くなってきていることである。
  これまでの差別事件は、差別意識とそれを表出させるエネルギーが相当な量に達するまで実行に移らなかった。ネット社会では小さなエネルギーでも行為に移るようになった。それは匿名性を高める手段としてネットが悪用され、犯人不明の差別事件増加に結びついている。これらの犯人は、匿名性の保障がなければ自身の差別行為の発覚を恐れて多くの場合、実行行為におよばなかった。情報化の進展が差別意識や差別事件を増幅させている。
  第3は、結婚差別事件のように忌避・排除といった動機・目的の差別事件があとをたたない点である。戸籍などの不正取得事件やその先にある結婚差別事件はその典型である。結婚差別、就職差別、土地差別は多くの人びとにとって人生の重要な局面での差別である。就職差別は克服に向け大きく前進したが、被差別部落出身者を忌避する典型である結婚差別や被差別部落を避けようとする不動産購入時などの土地差別は依然として根強い。
  また、近年は市場原理至上主義や経済的格差が基盤となって、思想的傾向が差別を助長する方向に向いてきており、それらの思想的な背景をもった確信犯や愉快犯が根強く存在し、攻撃、挑発、煽動などの動機・目的でなされている差別事件が続発している。

 これらの特徴をもつ差別事件の背景として、第1に根強い差別意識がある。偏見にもとづく差別意識は、社会システムと密接にかかわっており、今日のような市場原理至上主義が席巻するような社会システムでは差別意識の再生産は容易になされる。
  第2に格差拡大の経済情勢が大きな背景を形成している。貧富の格差は多くの統計数字からも明らかなように拡大傾向にある。
  第3にこのような社会情勢のもと平等思想とは逆に差別の強化につながるような思想が社会的に大きな影響力をもちはじめている。それらの思想にプラスして一部の「同和バッシング」の内容と社会的風潮が今日の特徴的な差別事件の背景になっている。
  第4に差別を温存・容認するような社会システム上の問題をあげることができる。戸籍不正取得事件のように、個人情報保護の観点からみた現在の戸籍制度の未整備をはじめとする多くの制度的問題が背景になっている。

 差別事件の克服には、その背景・原因に迫る差別糾弾闘争が求められている。第58回全国大会で決定された「差別糾弾闘争強化基本方針」にもとづいて、多様で柔軟な差別糾弾闘争を着実に実践していく必要がある。
  多様で柔軟な差別糾弾闘争の形態とは、具体的差別事件の内容、悪質度、行為者の状況、被差別者の感情、社会に与えた影響、事件後の諸事情などをふまえ、当該部落差別事件の差別性や背景・課題を明確にしつつ、第1に、差別行為者(組織)が私たちのとりくみに応じる場合、確認会や糾弾会を設定し、差別行為者(組織)にたいする説得教育・啓発のとりくみである。
  第2に、差別行為者(組織)が反省せず、私たちのとりくみに応じない場合である。広く世論に訴えることなども差別糾弾闘争であり、世論に訴える手法もメディアやインターネットなどの活用をはじめ、多様な形態を駆使する必要がある。それらを通じて事件の悪質さを訴え、当該事件の背景や課題を社会的課題に高め、克服していくための立法措置をはじめとする制度や社会的システムを確立していくことも差別糾弾闘争である。

 第3に、「大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例」のような規制条例などがあるところは厳格な適用を求めつつ、同時に確認会や糾弾会を通じて事件の差別性・問題点、背景、課題・政策を明らかにしていくことも重要である。今後、人権救済機関が設置されれば、人権救済機関への問題提起や働きかけ、的確な対応がなされているかといった監視活動も差別糾弾闘争の重要な形態になる。
  第4に、当該事件の被差別者の救済や世論喚起のために既存の国内法システムを活用することも差別糾弾闘争である。裁判を中心とした法的救済システムを活用することも重要で、それらのとりくみが差別禁止立法や人権救済立法につながっていく。民法709条(損害賠償請求)や723条(謝罪広告の請求)、事前の法的救済としての差止め請求や仮処分も有効である。
  また、法的手段を背景とした交渉・協議も重要なとりくみである。今日の日本社会が行政的事前規制から司法的事後規制の社会に移行しつつあることをふまえれば、これらのとりくみも差別糾弾闘争の董要な柱である。
  第5に、個別分野のADR(裁判外紛争処理システム)の活用も今後の差別糾弾闘争で重要な位置をしめる。国内でのADRの状況を十分に把接し、それらを活用した差別糾弾闘争も重要である。

 第6に、国内的なとりくみとともに国際人権規約などを活用した差別糾弾闘争が求められている。各種の国際人権諸条約の報告制度などを活用した国内外のとりくみも今後ますます重要性をもつ。国際世論を盛りあげるだけでなく、勧告などを通じて国内に重大な影響を与える。第1から第5のとりくみとともに国際化・情報化した社会にあって、今後の差別糾弾闘争に国際的視点はもっとも重要である。また、電子空間上の部落差別事件が多発していることからも電子空間上のとりくみ、国際的視点が重要になってきている。
  今後の社会動向を考えていくとき、このように多様な形態を駆使した差別糾弾闘争が求められている。こうした視点に立って、社会システムに迫るとりくみが求められており、差別糾弾闘争を差別社会システム改革闘争に発展させなければならない。

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