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部落問題資料室
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新証拠を武器に狭山第3次再審で
事実調べかちとろう
「解放新聞」(2008.10.13-2390)

 狭山弁護団は、この間あいついで新証拠を提出した。ことし5月23日に提出された関西医科大学の赤根敦・教授による鑑定書は、第2次再審の特別抗告棄却決定が根拠にした石山鑑定の誤りを指摘し、死因は絞殺であること、逆さ吊りがなかったことを明らかにした法医学鑑定である。
  さらに、8月13日には3通の鑑定書が提出された。魚住和晃・神戸大学教授による筆跡鑑定書は、脅迫状と石川さんが書いた文書をスキャナで画像データ化し、固有筆癖を抽出、比較して、異筆と結論づけている。
  原聰・駿河台大学教授による鑑定書は、事件当夜、被害者宅の所在を尋ねてきた人物が石川さんであるとするUの目撃証言に信用性がないことを明らかにした心理学鑑定である。
  厳島行雄・日本大学教授による鑑定書は、身代金受け渡しのさいに聞いた犯人の声が石川さんの声に似ているとする被害者の姉らの声の識別証言に信用性がないことを明らかにした心理学鑑定である。
  いずれの証言も事件後11月たってから、逮捕され取り調べを受けている石川さんだけを見せたり、声を聞かせて似ているかどうかを確認するという方法をとっており、諸外国では信用性がない手続とされると指摘している。
  筆跡、目撃証言、犯人の声の識別証言は、確定判決(寺尾判決)が自白を離れた有罪証拠としてあげたものであり、これら有罪の証拠に合理的疑いが生じており、殺害方法や脅迫状を書いて届けたといった石川さんの自白が虚偽であることを示す新証拠である。

 1974年10月31日、東京高裁の寺尾裁判長は警察の筆跡鑑定などの証拠をあげ、石川さんに無期懲役判決をおこなった。これが有罪確定判決となっている。
  第3次再審請求で、弁護団が提出した魚住鑑定などの筆跡鑑定によって、寺尾判決が有罪証拠の主軸とした警察の筆跡鑑定は完全に証明力を失っている。さらに、目撃証言や音声証言などの有罪証拠も崩れている。
  寺尾判決が信用できるとした自白も、殺害方法、犯行現場、死体逆さ吊り、脅迫状作成など中心部分が虚偽であることが数かずの新証拠によって明らかになっている。
  寺尾判決がズサンな証拠と虚偽の自白によって誤った有罪判決をおこなったことは明らかである。確定判決の認定に合理的疑いが生じている。東京高裁はただちに再審を開始すべきである。
  第3次再審請求を申し立ててから2年あまりの間、弁護団は多くの新証拠を提出し、事実調べ・再審開始を訴えてきた。9月11日にも狭山事件の審理を担当する東京高裁第4刑争瓢の町野執珊良と面会し、事実諷べ、証拠開示を強く求めた。
  寺尾判決から34年が経過するが、その間、弁護団が提出した新証拠の事実調べはまったくおこなわれていない。3次、30年以上にわたる再審請求で一度もまだ事実調べがおこなわれていないのである。
  昨年、あいついで無罪判決が出された鹿児島・志布志事件、富山・氷見事件では、警察の取り調べでウソの自白をさせられたことが明らかになった。こうした自白強要やズサンな証拠による誤判は狭山事件とまったく同じである。自白の虚偽を見抜けず安易に自白にたより、十分な証拠調べをせず、証拠隠しがおこなわれることで誤判がおきることを教訓にするならば、東京高裁は狭山事件で事実調べ、証拠開示をおこなうべきであろう。
  無実の人を誤判から救済するという再審の理念からしても鑑定人の尋問など事実調べは不可欠である。先般、東京高裁第4刑事部・門野裁判長が再審開始決定をおこなった布川事件の審理では、法医学者の鑑定人尋問などの事実調べがおこなわれている。また、門野裁判長は昨年には、警察官の取り調べメモを証拠開示するよう命じる決定も出している。狭山事件でも弁護団が求めている事実調べ、証拠開示をおこなうべきである。
  門野裁判長が事実調べ、証拠開示をおこなうかどうか、今後、重要なヤマ粉をむかえる。第3次再審請求で、今度こそ、事実調べをおこなうよう世論をさらに大きくしていこう。

 狭山事件をはじめ、新証拠発見が要件とされている再審請求で弁護側への証拠開示が十分保障されていない。10月には国連の自由権規約委員会(ジュネーブ)で日本政府の報告書の審査がおこなわれる。日本の刑事手続きで公正な証拠開示、再審請求手続の保障の必要性を国際的にも訴えたい。
  民主党が提案した取り調べの全面的な可視化と証拠リストの弁護側への開示をもりこんだ刑訴法改正案(取り調べ可視化法案)は参議院では可決されたが、衆議院では与党の反対で廃案になった。誤判・えん罪をなくすために取り調べ可視化・公正な証拠開示の法制度実現を求める幅広い運動をすすめていこう。
  寺尾判決から34年をむかえる10月31日に、東京で実行委員会主催の狭山事件の再審を求める市民集会がひらかれる。提出された新証拠についての弁護団報告、なぜウソの自白強要、えん罪があとをたたないのか、えん罪当事者によるシンポジウムがおこなわれる。
  この間、100万人をこえる署名の提出、北海道や東北での狭山集会など狭山事件の再審と司法民主化を求める運動は広がっている。この市民の声をさらに大きくし、第3次再審で再審実現をかちとろう。

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