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狭山第3次再審の実現へ世論を喚起していこう

「解放新聞」(2011.04.18-2515)

 2011年3月23日に、第3次再審請求の6回目の3者協議がおこなわれ、検察官から「犯行現場」の血痕検査にかかわって、あらたに3点の証拠開示がおこなわれた。
 東京高裁の開示勧告にたいして、2010年5月に検察官は36点の証拠開示をおこなったものの、犯行現場の血痕検査報告書等については「不見当」と回答した。弁護団は、この回答にたいして、どのような調査をおこなったのか釈明を求めていた。
 2011年2月には、自白で死体を一時隠した場所となっている芋穴の血痕検査を実際におこなった当時の埼玉県警鑑識課員に弁護団が聞き取りをおこなったさいのテープ反訳も提出し、雑木林でのルミノール反応検査がおこなわれたはずであるとあらためて回答を求めていた。
 この日の協議で、東京高検の検察官は、この元鑑識課員に検察官が事情聴取した報告書を3通開示するとともに、殺害現場でのルミノール反応検査はおこなわれなかったとする回答をくりかえした。しかし、開示された検察官の報告書でも元鑑識課員が雑木林内でルミノール反応検査をおこなったとのべたとするものもあり、さらに疑問は深まったといえる。
 そもそも、単独犯行自白がはじまる6月23日以降、殺害現場が雑木林であるという自白は一貫しており、それにもかかわらず、7月4日の雑木林等の実況見分まで「犯行現場」の裏付け捜査の書類が何も明らかになっていないということも疑問である。
 自白が真実かどうか、再審開始すべきかどうか裁判所が判断するうえで、これらの証拠の開示は不可欠である。検察官は、さらに関連する証拠開示を積極的におこない、捜査経過を明らかにし、真実の究明に協力すべきである。

 弁護団は、この日の3者協議で、開示証拠にもとづく新証拠をさらに提出した。小野瀬鑑定は、書字技能の発達についての心理学的研究をふまえて、昨年開示された上申書をふくむ石川さんが書いた文書と脅迫状のひらがなを分析し、筆跡の異同を鑑定したものである。小野瀬鑑定は、脅迫状と石川さん作成文書は同一人が書いたものではないと結論づけるとともに、石川さんが逮捕・勾留後、急速に書字技能が発達している点も指摘している。石川さんが後に書いた手紙などをもとに、脅迫状も書けたとする棄却決定の誤りも明らかにしているといえる。
 また、昨年5月に証拠開示された当時の警察官が作成したカバン発見についての捜査報告書を新証拠として提出した。弁護団は、同じく昨年開示された取り調べ録音テープの分析もふまえて、自白にもとづいてカバンが発見されたとする有罪判決の誤りを明らかにしている。
 さらに、弁護団が1審当時の弁護人に、再逮捕後、石川さんが自白にいたるまで接見を妨害された状況について聞き取りをおこなった報告書を新証拠として提出した。石川さんは不当な別件逮捕、再逮捕がおこなわれた6月17日以降、弁護士との接見を妨害されるなかで犯行を認める自白をはじめている。こうした違法な接見妨害、不当な取り調べによる虚偽自白であることを明らかにしている。
 今後、こうした開示証拠をふまえた新証拠の事実調べは不可欠である。東京高裁は開示された当時の石川さんの上申書や筆跡鑑定書をはじめ弁護団提出の新証拠について鑑定人尋問などの事実調べをおこなうべきである。

 弁護団は、2011年2月24日付けの開示勧告申立書で、有罪証拠のひとつとされたスコップの指紋検査の報告書の証拠開示を求めた。スコップは事件当時5月11日に発見され、死体を埋めるのに使われたものと発表された。犯人に直接結びつぐ重要な証拠であるから指紋検査がただちにおこなわれたはずである。発見直後の新聞報道では、捜査本部が指紋検査をおこなっていると書かれている。弁護団は、スコップの柄の木の部分などで指紋検査が発見後すみやかにおこなわれたはずであると指摘する元鑑識技師の棄藤保さんによる意見書もあわせて提出した。スコップは、石川さんがつとめていた養豚場のものであるとして、被差別部落への見込み捜査を合理化するものとされ、確定判決でも有罪証拠の一つとされた。弁護団は、スコップ付着土壌が死体発見現場付近の土と一致していないとする科学者の鑑定も出しており重要な争点である。東京高検はスコップの指紋検査報告書をすみやかに開示すべきである。
 さらに、取り調べ録音テープの分析から、6月24付けの自白調書に添付されなかった万年筆の置き場所の図面があることが判明し、これについても、弁護団は3月23日に証拠開示を求めた。万年筆については、2回の徹底した捜索では発見されず2か月近くたった3回目の捜索でお勝手入口のカモイから見つかり、しかも兄の六造さんに素手でとらせるなど、疑問だらけである。万年筆は石川さんが自白後書いた略図にもとづいて発見されたとして、自白が信用できる根拠とされており重要な争点である。検察官は万年筆置き場所図面の開示をおこなうべきである。
 徹底した証拠開示と事実調べを求めよう。

 5月24日には、東日本大震災で延期された布川事件の再審判決が出される。布川事件では、証拠開示によって、毛髪鑑定や目撃証言が明らかになり、再審開始のカギとなったが、いずれも30年以上も隠されていた。えん罪をなくすために取り調べの全過程の録音・録画とともに証拠開示の保障が必要であり、とくに再審での証拠開示や事実調べが重要であることが指摘されつづけている。取り調べの可視化と証拠リストの開示を検察官に義務づける法案はすでに参議院で可決された経緯がある。狭山事件の証拠開示を求めるとともに、公正・公平な証拠開示の法制化を求める世論を大きくしよう。

狭山第3次再審請求の経過

06年5月23日 第3次再審請求(東京高裁第4刑事部 仙波裁判長)
  11月13日 東京高検に証拠開示請求
07年3月1日 再審求める100万人署名(916,400筆)を提出
  5月23日 門野博・裁判長就任
        再審求める署名100万筆をこえ、東京高裁に提出
  12月3日 門野裁判長に面会。事実調べ・証拠開示を求める
08年9月11日 門野裁判長に面会。事実調べ・証拠開示を求める
09年6月25日 門野裁判長に面会。3者協議開催が決定
  8月17日 開示勧告申立書を東京高裁に提出
  9月10日 第1回3者協議ひらかれる
  12月16日 第2回3者協議。門野裁判長が検察に証拠開示勧告
10年2月   門野裁判長が定年退官。岡田雄一裁判長が就任
  5月13日 第3回3者協議。東京高検が開示勧告を受けた8項目のうち5項目につき、36点の証拠を開示
  8月27日 弁護団が検察官の回答にたいする反論の意見書を東京高裁に提出。「不見当」とされた証拠につき、釈明と関連する証拠の開示を求める
  9月8日 弁護団が今回開示された筆跡資料、取り調べ録音テープなどに関連する証拠開示勧告を求める要請書を東京高裁に提出
  9月13日 第4回3者協議。弁護団意見書、要請書にたいする検察官の回答は次回協議に
  12月14日 証拠開示についての意見書を提出
  12月15日 第5回3者協議。3項目は「不見当」とする検察官回答。追加の証拠開示
11年2月4日 弁護団が検察官の回答にたいする反論の意見書を提出。犯行現場の血痕検査について証拠開示を再度求める
  3月23日 第6回3者協議。検察官意見書。追加の証拠開示。開示勧告申立書を提出


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