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部落問題資料室
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「人権侵害救済法」早期制定に向け全力を

「解放新聞」(2011.09.19-2535)

 8月29日に新たに選出された民主党の野田佳彦・代表が、30日の衆参本会議で首相に指名され、9月2日に野田新内閣が発足した。今後、新内閣は、半年以上を経過した東日本大震災の復興支援策の推進をはじめ、復興事業や社会保障の財源問題、長引く不況や深刻な雇用情勢など日本経済の再生にとりくむことになる。さらに、最悪の事態となった福島原発事故の対応、早期収束とエネルギー政策の転換も重要な課題だ。
  われわれは、この間、復興支援カンパやボランティア活動を中心に、社会的マイノリティ支援に役立つとりくみをすすめてきた。とくに、小泉政権時の市場経済万能主義で生みだされた弱肉強食の競争社会により、社会的弱者が大量に作られてきたことをふまえ、弱者救済の視点に立った復興策が求められていることを強く訴えてきた。まさに復興支援は、人権の確立と深く結びついた課題である。
  民主党は人権政策の確立に向けて、本年3月に「人権侵害救済機関検討プロジェクトチーム」(PT)を設置した。また、5月には、こうした民主党PTでの検討作業をふまえ、当時の安住淳・民主党国会対策委員長や江田五月・法務大臣は、次期臨時国会での法案提出を表明してきた。

 民主党PTは、設置直後の東日本大震災の影響で開催が大幅に遅れたものの、その後、集中的、精力的な検討作業、ヒアリングにとりくみ、6月には、「人権侵害救済法中間とりまとめ」を策定、江田法務大臣(当時)に申し入れた。
  「中間とりまとめ」は、民主党PTでの日弁連や学者、市民団体などからのヒアリングをふまえて、人権委員会の位置付け、地方組織、人権擁護委員制度、メディア規制など9項目の論点を整理したものである。とくに、人権委員会は、法務省の外局に設置するものの、国家組織行政法第3条による「3条委員会」として独立性の強い組織とし、地方事務所を設け、法務局、地方法務局などを活用すること。また、メディア規制は削除し、5年後の見直し条項を法案に明記することなどがとりまとめられた。
  この民主党PT「中間とりまとめ一を受けて、8月2日に、法務省政務三役名で公表されたのが「新たな人権救済機関の設置について」(基本方針)である。基本方針は、「中間とりまとめ」とほぼ同じ内容で、人権委員会は法務省の外局に、「3条委員会」として恕置し、政府からの独立性を確保するとしている。現在、「3条委員会」として設置されているのは、国家公安委員会や公正取引委員会などがある。
  地方組織は、「全国所要の地に事務局職員を配置し、同委員会の任務を実現するための諸活動を行わせる」として、法務局や地方法務局を活用することとしている。また、メディア規制の問題は、報道機関に自主的とりくみを要請し、削除している。さらに、法律の条項として「制度発足後5年の実績を踏まえて、必要な見直しをすることとする」と明記することにしている。

 人権擁護推進審議会が、「人権救済制度の在り方について」を答申し、人権侵害救済制度の確立の必要性を指摘したのは、01年である。それから10年が経過している。この間、02年に「人権擁護法案」が国会に提出されたものの、多くの問題点が指摘されてきた。われわれは、「法案」抜本修正を求め、連合をはじめ、部落解放中央共闘会議、企業関係者や宗教者などとの広範な活動を展開してきた。「法案」は、継続審議をつづけたが、与野党協議もすすまず、衆議院の解散により廃案になった。
  われわれが、「部落解放基本法」制定の闘いのなかで、人権侵害救済制度の確立に向けてとりくんできたのは、多くの差別事件、人権侵害事件が起こりながらも、救済制度がまったくない、差別を放置している政治の無責任さを問うものであった。結婚や就職差別、土地差別調査、インターネット上での差別記載、確信犯的な差別扇動など、差別の実態を放置している立法不作為の状態をただちに解消していかなければならない。差別事件、人権侵害は、われわれの日常の生活のなかで生起する。そのためにも、人権委員会の独立性、委員会の構成はもちろんのこと、「人権委員会のあるべき姿」をしっかりと論議し、実効性、迅速性、簡易性のある救済制度を確立していこう。
  さらに、救済制度とともに、責任ある行政機構の確立も重要な課題だ。部落問題の解決をはじめ、日本の人権政策をすすめる人権省(庁)、人権居などの体制の整備、確立もすすめていかなければならない。差別が社会悪であることを広く社会的共通の認識として定着させていくために、「人権侵害救済法」の早期制定に向けて全力をあげてとりくみをすすめよう。


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