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部落問題資料室
NEWS & 主張

 

東日本大震災から1年、被災者への継続的ないっそうの支援を

「解放新聞」(2012.03.05-2559)

 昨年3月11日の東日本大震災から1年を迎えた。警察庁のまとめでは、2012年2月10日現在、死者は1万5848人、重軽傷者は6011人、行方不明者は3305人である。日本国内で起きた自然災害で死者・行方不明者の合計が1万人をこえたのは、戦後初めてのことである。
  被災者の多くは現在、仮設住宅での暮らしを余儀なくされているが、今年は例年にない寒い冬となり、仮設暮らしの被災者からは、「寒い日は、日中でも気温はマイナス3度。暖房費を節約しているため、昼間は暖房しない」「寒い戸外で何十分もバスを待てず、片道2000円をかけてタクシーで病院にかよっている」など、日常生活での不安や不満が寄せられている。また、急ごしらえの仮設住宅で防寒対策ができていないため、住民からは水道管の凍結防止や追い炊きのない風呂の改善、畳のない床板の畳敷きなどの切実な要求が出ている。「現状を放置すれば、入居者の命が奪われかねない」という要求に、政府は「風呂を追い炊きに変えれば1戸30万円の経費が必要となり、対応がむずかしい」などとしている。

 政府は昨年11月に、復興向け11兆7335億円を柱とする2011年度第3次補正予算を成立させ、ようやく具体的な支援事業をスタートさせた。また、今年の2月10日には東日本大震災の復興施策の中心となる復興庁を発足させ、現地に支所を置いて一斉に業務を開始した。「復興庁」と書かれた本庁の看板は、岩手県陸前高田市の景勝地「高田松原」で津波にあった松の廃木で製作されたという。
  しかし、復興計画にはさまざまな問題がみられる。まずは、基本となる住宅再建高台移転がすすまないことだ。今の住宅用地買い上げ価格では、ほとんどの被災者は移転して家を再建できない。ローンのある家庭はなおさらだ。雇用政策が貧弱なため、仮に家を建てても生活ができない。土地の再開発の障害になっているがれきの処理を積極的に受け入れてくれる自治体が少なく、がれきが邪魔をして復興計画が計画通り実行できてない。岩手県ではがれきが通常の11年分、宮城県では19年分で、被災地だけで処理できないのは明らがだ。
  さらに、中小企業や自営業者は、再建資金が調達できないために大きな困難に直面している。全国銀行協会は、手形を不渡り扱いにしない猶予措置を設けてきたが、その猶予措置を4月4日で終える方針を固めた。このままだと企業は銀行と取引できなくなり、被災地の多くの企業が倒産する。

 さらに、福島第1原発事故はいまだに収束の見通しが立たない。昨年12月に野田佳彦・首相は福島第1原発が「冷温停止状態に達し、事故そのものが収束に至った」とのべたが、炉内の状況が確認できておらず、圧力容器から解け落ちた核燃料の場所や状況もわかっていない。
  当初より減っているとはいえ、大気中への放射性物質の放出も続いており、再爆発の危険はぬぐえていない。いまなお避難生活を余儀なくされ、帰宅のめどが立たない人たちや、飛散した放射性物質への不安が強まっている被災地から「収束宣言」にたいして不信と怒りの声が上がるのは当然のことである。
  また、東日本大震災から約11か月で、東北の被災3県で活動するボランティアの人数が、ピーク時の10分の1まで減少している。全国社会福祉協議会(全社協)によると、2月1日までに3県で災害ボランティアセンターをとおして活動した人は92万人。ピークだった昨年の大型連休には1日1万人以上が活動していたが、12月18日以降は1千人を割った。被災地の関係者らは「大震災の風化がすすんでいる」と危機感を募らせている。

 この間、われわれは、復興支援カンパ活動とともに、全国の仲間が救援物資の輸送やがれき撤去、炊き出し、仮設住宅の縁台づくりなど、ボランティア活動をすすめてきた。とくに支援カンパは、人権という観点から視覚障害者や知的障害者など、社会的弱者といわれる人たちにラジオなどの支援物資や送迎用車輌などを寄贈した。
  また、組坂委員長や松岡書記長も被災した現地を訪れ、継続的長期的な支援の必要性も確認してきた。ボランティア活動でも、大阪府連の南相馬市に拠点を置いての活動、兵庫県連の阪神淡路大震災の経験を生かしての活動、関東ブロックや中国・四国、九州ブロックによる継続的な活動、京都府連の炊き出し、中央青年運動部によるがれき撤去作業など、それぞれどの都府県連でも復興支援活動に具体的にとりくんできた。残念ながら、被災地の地元に同盟組織がないなかで、思うような活動ができていない部分もあるが、さまざまに工夫しながら、被災地のニーズに応えられるような活動を今後とも続けていきたい。

 被災地では復興がはじまっているが、復興事業でも社会的弱者が後まわしにされたり、取り残される場面がしばしばみられる。今後とも人権という視点から障害者や社会的弱者の支援を続けていこう。
  また、原発事故にたいして避難者を支援すると同時に、「福島差別」ともいわれる課題についてもとりくんでいきたい。原発の近くから来たということで、病院や温泉で差別を受けたり、避難先で、子どもたちが「福島くん」とよばれたりしていることが報告されている。さらに「放射能がうつる」といわれたり、転校先の教室では、左右が空席になった状態で授業を受けている事例もある。仕事の関係でも、運送会社では、「いわき」ナンバーでは仕事にならなかったり、福島ナンバーの自動車がガソリンスタンドで利用拒否にあったりしている。
  コメなどの農産物を中心にした食品が売れなかったり、福島でつくられた花火が全国で使用拒否されるなどの風評被害は大きな社会問題になったが、こうした「福島差別」については、まだまだ表面化していないものの、確実に深刻化してるといえる。しかも、国・自治体のとりくみはまったくすすんでいない。
  原発事故が生み出した「福島差別」問題は、人権教育・啓発の課題でもある。脱原発をめざした協働のとりくみとともに、部落解放運動の課題として、しっかりととりくんでいこう。


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