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TPPの危険な本質を暴露し、加盟反対の世論をつくりあげよう

「解放新聞」(2013.09.16-2635)

 安倍首相は8月のお盆に郷里、山口県へ帰り、長門市内の棚田を視察した。これは小規模農家を守るという姿勢をアピールするためのものだが、そのさい「農業を守るためにはさまざまな仕掛けをし、付加価値をつけていく必要がある」とのべた。
  安倍首相は棚田のような歴史的景観を守るというが、本当に農業を環太平洋戦略的経済連携機構(TPP)への加盟交渉のなかで守りきれるのか。この安倍発言は「さまざまな仕掛けをし、付加価値をつけていく」と企業による農業への参入をほのめかしているところがポイントだ。
  そもそもTPPは05年にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4か国で合意し、翌年発効したものだ。TPPは、多くの国が公平なルールで自由貿易をすすめるというのが建前だが、以降、米、オーストラリア、ベトナム、ペルー、マレーシアなどが加わり、現在は11か国が加盟し、日本政府は国内の強い反対を押し切って交渉へのぞんでいるが、交渉は米国の主導のもとに「年内妥結(最終合意)」をめざしてすすめられている。
  米国がTPPに参加したのは、対中国をにらんだアジア太平洋地域での覇権という戦略的目的だが、それはグローバル資本の要請にそったものでもあった。米を本拠地にするグローバル資本にとって参加国を食い荒らすことができるかっこうのターゲットがTPPなのだ。
  米のヒラリー・クリントン国務大臣(当時)は12年末、こう主張した。「いま、世界の市場に参入しようとしている企業が、あまりにも多くの場所で、あまりにも理不尽な貿易摩擦という嫌がらせをうけています。こうした壁は多くの場合、純粋な市場原理から発生したものではなく、間違った政治的な選択が生み出しているのです。それが世界のどこであれ、企業が不公正な差別にあった場合は、いつでも、自由で透明、公正でひらかれた経済ルールを確立するために、アメリカ合衆国は勇気をもって立ちあがるでしょう……多くのすばらしい企業のために闘うことを、心から誇りに思います」と。

 TPP参加交渉のなかで焦点とされているのが日本の農業、とりわけ「コメ、麦、午・豚肉、乳製品、砂糖の原料作物(サトウキビとテンサイなど)重要5項目」の「聖域」を守り切れるのかどうかだ。しかし、この聖域すら守り切れず「妥協」を強いられる、というのが現実だ。
  だが、焦点は関税率だけではない。問題は、さきの安倍発言が農業分野での企業参入をほのめかし、農業関連の国内法がTPPに向けて変えられてきていることだ。
  米国でも伝統的な農家やIT技術を使ったスマートアグリとよばれる新しい農業が生き残りをかけてきた。しかし、国内法が大企業に有利なものに変えられるや、大規模農業ビジネスが一人勝ちを誇った。これが20世紀末からの米農業を取り巻く情況だ。いまや大企業と渡り合っている農家も「農場、種子、肥料の配分、農機具にいたるまで大企業に細かく指示され、種子の保存も許されず、雇用主に言われるままに働くというシステムができあがっている」。
  このグローバル資本が、遺伝子組み換え種子(GM)を武器に、カナダでも大規模生産をおこない、イラクでは同国の200種類もあるという小麦の種子バンクを空爆したうえで、伝統的農業を破壊し、大規模生産をおこなっている。あるいはインドでは綿栽培の大規模生産化を実現している。
  グローバル資本は、つぎのような契約を農家に結ばせる。▽自分の所でとれた種子を翌年使用禁止▽毎年種子を同社から購入▽農薬を同社から購入▽毎年ライセンス料を払う▽トラブルはその内容を漏えいしない、など。「白い金塊」「奇跡の種子」と宣伝された遺伝子組み換え種子は、最初は増生産となったが数年後には低下し、農薬の使用量が増えるだけだった。農民は農奴にされ、残ったものは、環境破壊と健康破壊だ。しかもその種子は特許権や知的財産権で守られ、グローパル資本だけが儲け続ける構造ができる。
  こんな構造が、日本の近未来におこることを誰が望むだろうか。だが、いまやTPPを通じて現実の姿となろうとしている。

 TPPによって食の安全はどうなるのか。日本はGM作物を年間1700万トン(コメの生産量の2倍)も輸入、消費する大国であり、げんにさまざまな食品にGM作物が使われている。米はその遺伝子組み換え作物を使用しているかどうかの表示(現在でもざる法で使用実態が消費者に届かないものになっている)すら取り除くことを要求している。
  ほかにも、米は、食品添加物、ポストハーベスト、米国牛を材料にしたゼラチン・コラーゲン、防かび剤の解禁を求めている。
  あるいは、危険なホルモンやGM作物による飼料づけの牛肉・豚肉の関税率が下がれば、食の安全とともに部落の畜産・食肉業が壊滅的な被害を被ることは明らかだ。
  TPPとは、ほかにも医薬品、労働法制、独自の保険、土地利用、知的財産権、諸規制、環境保護、金融、輸送など、日本の歴史的文化的共同体の枠組みを大きく変えようとするものだ。
  安倍政権のすすめる医療制度の変更、労働法制緩和、BSE全頭検査の廃止、農業関連法の改悪、特区、機密保全法制定などはTPPへの地ならしなのだ。

 TPP交渉には、守秘義務があるという。交渉内容が人びとに知らされないまま決まってしまうのだ。
  さきの通常国会で民主党の前原誠司・元外務大臣が安倍首相にこう質した。「(民主党政権のとき)交渉参加表明したが、この条件ではあまりにも日本は不公平だということで、われわれは非対称的だということで交渉参加表明をおこなわなかった」としたうえで、「まさか交渉参加することはないですよね」と。これにたいし安倍首相は、「交渉中のことをいちいち外に出せば、交渉にならない」と答えた。そこには、グローバル資本に有利になるような情報を公開しすぎると反対が強まる、という意識が明確に働いている。
  重要なのはTPPの交渉内容を開示させ、国会内外で論議を作り出し、TPPのもつ本質的な問題を暴露し、反対の世論を作りあげていくこと。いま求められているのは、こうしたとりくみではないか。


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