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部落問題資料室
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Y住宅販売会社差別事件をふまえ、明らかにされた諸課題へのとりくみを

「解放新聞」(2014.10.27-2688)

 一昨年11月に和歌山県で発覚した「Y住宅販売会社差別調査事件」にたいする第3回糾弾会を10月10日におこない、これまでの糾弾闘争を総括し、Y住宅本社の責任と事件の背景を明らかにし、とりくむべき課題を確認した。
  糾弾会の冒頭、Y住宅販売会社社長が「弊社の社員がきわめて重大な差別事件を引きおこした。これは、当事者の問題ではなく、弊社がこれまで何ら人権問題・同和問題にとりくんでこなかったことが原因であり、その責任を深く感じています」と深ぶがと頭をさげた。
  「同和地区のため需要が極端に少ないと思われます」。Y住宅販売会社の社内用紙である「物件仕入れチェック表」に書かれた差別記載は、現場の営業所の担当者が「同和地区の物件を扱いたくない」との動機で書かれたものである。さらにその後の調査で、同様の中身の差別記載が、発端となった和歌山県をふくめ、じつに13府県で発見され、全国的なとりくみとなり、事件の全容を把握するのに1年近くの時間を費やした。その間、本社担当者(営業部長など)がこれらの書きこみを無視し、指摘もせず放置してきた事実も明らかにされた。
  2年近くの糾弾闘争を通じて、Y社自身のとらえ方が徐じょに変化してきた。当初、差別記載について、「会社が指示したことではない」「値決めに関係ない」として「記憶にない」といい、「会社として同和地区を意識せず、合理的に対応してきている」と会社の姿勢に問題はないとの対応であった。しかし.、各府県での調査・確認の作業や糾弾会を経験して「これまで何もとりくんでこなかったことが、差別記載に問題意識をもてず、指摘もできなかった。人権にたいする姿勢も環境もまったくなかった。その状況が、この差別事件を惹起させた」として、会社のこれまでの対応と責任を認めるにいたったのである。
  現在、Y住宅販売会社は、積極的に差別をなくす企業としての再生を期して、社長を本部長に人権教育推進委員会を設置し、全社員を対象にした意識調査を実施、さらに役員・社員への教育計画を実施する方向でとりくみ計画をすすめている。

 さて、事件の全体については、これまで何度か取りあげているので割愛するが、事件の背景に、多くの市民のなかに根強く存在する部落にたいする忌避感情が見えてくる。「部落とかかわりたくない、間違われたら嫌だ」という意識から、行政窓口に部落の所在を確認する例があとをたたない。また、不動産・宅建業者を対象にした調査でも顧客からの質問があるという状況が浮かびあがっている。さらに、そうした市民の忌避感情をうけいれ、それに応えようとする業界の体質がある。前述の調査でも「顧客からの質問に答えても差別ではない」などとする業界関係者の意識は根強い。そして、同和地区かどうかが「不動産の評価に影響を与える」と考えている関係者が多い。まさに、不動産売買の現場では、土地差別が常態化しているのである。しかも業界は、市民の忌避感情にたいして、たんなる受身ではなく、同調して営業活動をおこなっているのである。そして、業界関係者の多くも忌避感情をもつ市民であるということである。
  これは、不動産・宅建業界を指導監督する立場にある国土交通省をはじめ関係行政の姿勢やとりくみにかかわる問題でもある。
  国土交通省は、1996年に「宅地建物取引業の社会的責務に関する意識の向上について」、2001年に「宅地建物取引業法の解釈・運用について」と二度にわたって業界団体に徹底をはかるとともに、昨年7月にも同様の文書を出している。こうした文書の内容は、土地差別の撤廃に向け「一部において同和地区に関する問合せ、差別意識を助長するような広告、……不当入居差別」と事例をあげ、「人権意識の高場を図ることは社会的使命」としたものである。また、調査をふくめこれらの行為は宅建業法違反行為であるという趣旨の内容であるが、ほとんど徹底されていないのが現状だ。また、日常的に業者を指導する都道府県の多くが、ホームページを啓発手段として採用しているが、ある県の調査では、80%の業者が「知らない」「見たことがない」と答えているのである。こうした状況は、以前の大阪での「土地差別調査事件」をはじめ多くの土地差別事件のなかでも指摘されてきたことである。
  さらに、「ガイドライン」など業界自身のとりくみや自治体の異体的なとりくみが、全国的にみて、ほとんど確立されていないのが状態である。
  Y住宅販売会社差別事件は、こうした背景のなかでおきたのである。


 Y住宅販売会社差別事件へのとりくみを通じて、市民のなかに根強く存在する部落への忌避意識の問題がある。この忌避意識は、昨今続発している個人情報の大量不正取得や「出自」をさぐる身元調査なども同様で、部落差別の本質に迫る課題である。市民への教育啓発の徹底や差別の禁止、被害者の救済を基本にした「人権侵害救済法」の早期制定を求める運動をさらにすすめていかなければならないことはいうまでもない。
  また、土地差別を許さない社会の構築に向け、国土交通省への交渉を徹底しておこなっていかなければならない。とくに、来年度「宅地建物取引業法」が改正され、従来の「宅地建物取引主任」から「宅地建物取引士」に変更されるなどの状況をふまえ、あらたに、その使命と役割についての項目を追加し、基本的人権の尊重と個人情報保護と守秘義務についての項目を位置づける。法定講習を実施するさい、カリキュラムに人権についての講義内容を盛り込むことなどを求めていくことを柱に、交渉をすすめていく。同時に、八団体といわれている不動産・宅建関係団体にたいして、「ガイドライン」の策定など、自主的なとりくみを強く要請していく必要がある。
  また、日常的に不動産・宅建業界を指導する都道府県にたいして、とくに、業界への異体的な指導や点検システムの確立、研修などの徹底を柱に、早急に交渉をすすめていく必要がある。同時に、地方の業界団体との協議をすすめ、差別の実態や情報の共有化と「ガイドライン」など独白のとりくみを要請していかなければならない。
  Y住宅販売会社差別事件は、土地差別が常能花している不動産・宅建業界の状況のなかでの氷山の一角にすぎない。しかし、そのなかから多くの課題が見えてくる。その状況は、今回関係した13府県の問題だけではなく、全国的なものであり、同様の課題が浮き彫りにされる。そうした意味で、すべての都府県連でのとりくみが強く求められている。


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