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人権週間にマイノリティの人権状況をふり返り、さまざまな人権課題を議論しよう

「解放新聞」(2014.12.01-2693)

 世界人権宣言を採択したことを、想起する人権週間(12月4~10日)に、もう一度、宣言採択の原点であるマイノリティの人権保障についてふり返っておこう。
  国連・人種差別撤廃委員会の日本政府報告書にたいする勧告(8月)の最後に「寛容と相互理解の促進」の項目がある。ここでは排外的で差別的態度の高まりにたいして、人権教育を強化することを求めている。人権教育は、人権を侵害される対象であるマイノリティ(女性、子ども、障害者、外国人、部落出身者、貧困者など)の人権保障や、権利回復を実現するために必要である。独立した人権救済システムを機能させるために、人権保障にかかわる公務員や専門家・支援グループなどは、マイノリティの実態を学び、当事者の声を聞き、人権保障の施策を推進することに重点をおかなければならない。障害者権利条約の批准過程で常にいわれてきたことは「(障害当事者である)私たち抜きに、私たちのことを決めてはならない」であった。
  人権の歴史をふり返れば、共同体の構成員のなかで異質だとされる存在を、共同体の秩序を維持するために排除してきた歴史がある。異質な存在は差別し、人権侵害にさらしてよいとするものであった。すべての人の人権といいつつ例外をつくり、例外を排除してきた人権概念は、大量虐殺にいたった。社会の多数者が国会で合法的にマイノリティを虐殺する法律を制定し、合法的に虐殺した歴史を想起すべきだ。
  第2次世界大戦後、世界は深い反省のもとに、「すべての人は例外なく人権が保障される」「国会の多数決によっても否定されないのが人間の尊厳である」として、世界人権宣言を採択した。その中心軸となるのは、「すべての構成員の固有の尊厳及び平等で奪いえない権利を認めること」である。「すべての構成員」に「例外を認めない」ことが重要であり、最後の人権といわれた子どもの人権もふくめることが確認された。

 今年のノーベル平和賞に、児童労働問題にとりくむカイラシュ・サティアルティさん(60歳・インド)とともに受賞したマララ・ユスフザイさん(17歳・パキスタン)は、武装勢力が支配する地域で、恐怖しながらも、女性の教育の必要性や平和を訴える活動を11歳からはじめ、人権活動のゆえに、15歳の2012年、スクールバスのなかで銃撃された。一命を取りとめ、「私はこれまでと変わらずマララのままです」と活動を継続する決意を招待された国連ニューヨーク本部で演説し、すべての子どもの教育をうける権利の保障を訴え、「一人の子ども、一人の教師、一冊の本、そして一本のペン、それで世界を変えられます。教育こそ第一」と結んだ。国連本部で事務総長はじめ出席者は「子どもである」マララさんの声を熱心に聞いた。人権を侵害される者の声をていねいに聞くことから、人権保障のとりくみははじまる。
  日本は、子どもの権利条約批准から20年目をむかえた。子どもたちは大人と同等に権利行使の主体として承認されているのか疑問である。ユニセフの「先進国の子どもの幸福度」調査(2007年)で日本「孤独である。29.8%(15歳を対象)」の結果は、先進国平均7.4%をはるかにこえ、トップである。内閣府が2014年に発表した若者の意識調査では、「自分に誇りを持つ」-55.4%(米82.8%、英85.4%)、「やる気が出ない」―76.9%(米49.0%、英55.2%)「世界で活躍」―14.8%(米51.4%、英52.3%)であった。2012年の子どもの貧困率―16.3%は、OECD30か国で12番目に高い。国際比較すれば、教育に公的支出が極端に少ないなど、日本の子どもがマイノリティとして人権保障の対象になっていないことは明らかである。マイノリティの人権保障のためには、法律によって定義を明らかにし、実態調査を実施し、人権侵害状況を統計的数字で示し、人権保障のシステムを構築することが必要だ。
  いじめ防止対策推進法が制定されても、多数に向かって「いじめるな」の施策はたてるが、いじめられた子どもの人権保障に予算を組み、人材を投入し、いじめの現場となった学校と当事者を切り離して被害救済にあたる独立・充実した機関は存在しない。
  障害者差別解消法が制定されたが、差別をうけた障害者の権利保障のために、差別を定義づけ紛争処理をおこなう機関としての人権委員会を用意し、権利保障にあたる体制は存在しない。また、差別禁止法制定をよびかけても、差別する多数の側の表現の自由や結社の自由は主張するが、差別や人権侵害にさらされたマイノリティの権利回復や人権保障を実現する独立機関の設置は主張されない。
  差別の定義がなければ、マイノリティの主張は聞かれず、多数者によって「差別ではない」とされてしまう。社会的弱者や少数者が差別され、人権侵害にさらされてきた歴史を転換するためには、マイノリティの人権保障を法律として確立し、マイノリティは誰でも、一人でも侵害された権利回復が主張でき、制度的に保障されなければならない。


 自由権規約委員会(7月)では、日本政府報告書が審査され、代用監獄の収容者の人権保障が取りあげられた。政府は、公共の秩序を維持するために役立っていると答弁し、収容者の人権については無視した。しかし、委員会は、公共の秩序を維持するために収容者の人権は保障しなくてもよいのかと指摘し、「代用監獄は起訴する側が自白を強制するために長期間収容しているのであって、廃止すべきだ。予算の都合で拘置施設が準備できないとする答弁は、先進国のいうべきことではない」と批判した。委員会は警察拘禁の限度は48時間とする一般勧告案を準備している。
  政府が、憲法や国際人権基準に根拠を置く人権論に根ざしたマイノリティの人権保障施策を説明できない現実は深刻である。日本の国際人権基準の適用にたいする消極性は、憲法と国際人権条約は同一とする考えが支配的であり、憲法だけを遵守していればよいとする、国際人権条約に関して無知・無関心・無視が続いていることに由来する。
  国境のなかだけの多数側の人権しか考えないこの国は、自由権規約とセットになっている選択議定書・個人通報制度の批准を拒否している。拒否の理由は「裁判の三審制の否定、司法の独立が侵害される」ことだとする。選択議定書を批准すれば、国家からマイノリティであることで差別・排除され、人権侵害にさらされてきた人びとの個人通報が相当数発生すると予想される。自由権規約委員会で袴田さんの再審開始決定と釈放そして人権侵害が議論された。選択議定書・個人通報制度にしたがって、再審裁判については直接国連に訴え、国際社会の判断を求めるべきである。狭山事件の場合も同様である。
  人権週間にマイノリティの人権状況をふり返り、国際人権基準にしたがってマイノリティの人権保障システムを議論していこう。人権NGOがネットワークで結びつき、政府の国際人権条約無視の姿勢をあらためさせる道筋を検討していこう。


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