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「部落地名総鑑」差別事件発覚40年、就職差別の根絶へとりくみ強化を

「解放新聞」(2015.06.08-2718)

 ことしは「部落地名総鑑」差別事件が発覚してから40年にあたる。昨年5月に広島法務局の幹部が「「部落地名総鑑」を配っただけでは人権侵害にならない」と研修会の講演で発言し、大きな問題になり、結果として法務局は過ちを認め謝罪した。
  この問題に端的にあらわれているように、関係行政機関のなかで、事件の教訓が研修などを通じてしっかりとひき継がれてきたのか疑問がある。いまも差別身元調査があとをたたない現実があり、「部落地名総鑑」事件はけっして終わっていない。事件の反省から就職差別撤廃に向けた施策や各界のとりくみがすすんできた。しかし、これらのマンネリ化や後退はないのか。
  40年を機に、もう一度事件を思いおこし、とりくみを強化していく必要がある。



 この事件は1975年11月、一通の匿名の投書から発覚した。全国の被差別部落の所在地を新旧地名で示し、おもな職業や世帯数などを記載した書籍が、一冊3万円など高額で売られていた。企業の人事担当に送られたダイレクトメールは、採用選考時に被差別部落出身者を排除することをそそのかすものとなっており、書籍の内容もその目的にしか使えないものだった。その後の調査で同種の「地名総鑑」がつぎつぎと発見され8種類となり、購入した企業は一部・二部上場企業を中心に二百数十社も判明した。
  これにたいし、部落解放同盟として全国の阻織をあげて糾弾闘争をおこない、購入企業に反省をせまり、購入企業は部落差別撤廃のために尽力することを約束した。また、政府にたいしても責任を追及し対策を要求した。
  1975年12月15日に「労働大臣談話」がだされ、「同和関係住民の就職の機会均等に影響を及ぼし、その他様々の差別を招来し助長する悪質な冊子が発行され、一部企業の人事担当者に販売される事件が発生したことは、誠に遺憾なことであり、極めて憤りにたえない」として、それまでの国の施策の点検をおこない、企業啓発・指導などを強化する決意が表明された。
  同時に、「地名総鑑事件」についての見解ととりくみについて、関係各省(総理府、法務、労働など12省)事務次官連名による経済6団体への要請文書がだされ、全国の自治体へ周知する文書、さらに労働省職業安定局長名による業種別民間企業92団体にたいする要請文書がだされた。これらはマスコミでも大きくとりあげられ大きな社会問題になった。
  そして1977年に「企業内同和問題研修推進員制度」(1997年に公正採用選考人権啓発推進員に変更)がつくられ、就職差別撤廃へのとりくみが強化されてきた。


 しかし2006年になって、行政書士による戸籍等大量不正取得事件を究明するなかで、興信所などの調査業者があらたな種類の「地名総鑑」を保有していた事件が発覚した。さらに電子情報化されフロッピーに収められた「地名総鑑」があいついで回収された。
  1998年には、大阪にある経営コンサルタント会社とその子会社が、多くの会員企業から身元調査の依頼をうけ、就職希望者が被差別部落出身かどうか、家族の職業など家庭状況、民族、思想、宗教、労働組合活動、支持政党など、就職差別につながる事柄を調査していた事件も発覚した。
  これらの事件は、採用時の身元調査が巧妙な手口でおこなわれている実態と、就職差別の根深さを明らかにした。さらに、2011年のプライム事件などで戸籍などの大量不正取得事件が続いている。
  厚生労働省が把握した「就職差別につながる恐れのある事象」は、この10年で毎年一千件(事業所数)前後で推移しており、10年で1万件以上の事業所が是正指導をうけたことになる。
  昨年6月に連合のホームページで公表された連合のインターネット調査「就職活動に関する調査」では、「本籍・出生地を聞かれた」が35%、「家族に関することを聞かれた」が40%など、驚くべき結果が明らかになっている。
  「部落地名総鑑」差別事件発覚から40年がたつが、各方面の尽力にもかかわらず、就職差別根絶にはほど遠いというのが実態だ。

 この40年、「企業内同和問題研修推進員制度」がはじまり、企業トップにたいする研修も制度化され、「統一応募用紙」のとりくみも「職業安定法第5条の4」と大臣指針(1999年)によって法的裏付けができ、「統一応募用紙」の内容も数回にわたり改定され改善されてきた。また同和問題・人権問題にとりくむ企業集団のとりくみや教育関係者、労働組合のとりくみもすすんできた。
  これらの前進面も忘れてはならないが、就職差別を根絶するためには、もう一歩大きくふみ出す必要がある。それは、就職差別を禁止する法律と制度をつくることだ。そして国際社会では常識である「差別は犯罪」であるとの認識を日本に根付かせ、施策を充実させていく必要がある。一方で指摘されている「推進員」のとりくみのマンネリ化や形骸化の克服のためにも、たしかな人権意識の醸成のためにも、そのことは必要だ。
  40年を機に「部落地名総鑑」差別事件について学習を深め、その教訓を生かしながら、就職差別根絶へのとりくみを強めていこう。


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