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TPPをめぐる動向をふまえ、部落の農業・畜産食肉業を守るためのとりくみを協力にすすめよう

「解放新聞」(2016.09.26-2780)

 TPP交渉が終了したが、国会承認への議論が安倍政権の政治的思惑の関係もあって先送りされ、TPPが日本の農業に与える影響をふまえた農水省の対策費も棚あげ状態になっている。さらに、貿易の最大の相手国であり交渉が難航したアメリカが、大統領選挙の影響もあって議会承認手続きがきわめて微妙な情勢であるといわれている。しかし、いずれにしろTPPは医療・労働・保険・知的財産・金融・環境など多岐にわたっており、私たちの生活にさまざまな影響を与えることには間違いがない。とくに、一番影響を受けるのが「農業」だといわれてきた。交渉後、政府は「日本の農業を守った」としているが、しかしそれは「経過措置として」ということにすぎず、経過期間がすぎると、当初から危倶されてきたことが現実のものとなる可能性が高い。
  以前から指摘されていることだが、TPPは経済的な論理(経済のグローバル化、市場の開放)を柱にしているが、農業の現実とのあいだに大きなギャップがあるということである。まず「モノの品質・鮮度・安全性」が無視されているという点である。2つ目が食糧の自給率とかかわって「いつでも金を出せば買える」という幻想である。そして、3つ目が農業の機能が食糧生産だけではなく「防災」「環境の保全」さらにコミュニティの形成という役割を担っているという点である。こうしたことがまったく解決されていないなかでの交渉の妥結である。
  こうした情況と交渉経過の不透明感がかさなり、9月下旬にはじまる臨時国会で激論が予想されている。

 2年前になるがTPP交渉最中のマスコミ報道で「環太平洋経済連携協定(TPP)が日本の農業に変革を迫っている。日本が「聖域」としてきた豚肉や牛肉の関税を下げ、コメの輸入枠を広げる方向で交渉がすすんだ。厳しさを増す経営環境に対応し、国際競争力を高める攻めの農政が求められている」とあった。
  いうまでもなく「農業の競争力を高める」ことは、きわめて重大な課題である。しかし、数年前の調査による日本の農業の実態は、販売農家と自給農家が2対1の割合で、第2種兼業農家という、農業所得が50万円以下の農家や飯米と若干の販売という農家が多いという。さらに、中山間地域の小規模農地が多く、これまでの農業政策の矛盾と従事者の高齢化と後継者不足などによる「耕作放棄地」が大きな課題となっており、「競争力を高める」という課題と農業の現状には大きなギャップがある。こうした日本の農業の課題や問題が凝縮されているのが部落の農家である。
  また、部落の食肉や畜産についても、農水省との交渉のなかでも近年の厳しい経営情況に加え、TPPによる安価な輸入肉の市場への大量流入によって決定的な情況に陥る可能性があることが明らかにされている。
  私たちは、そうした農業の現実をふまえ、国民生活に影響を与え、厳しい情況をしいるTPPには反対である。しかし一方では、部落の農業や食肉・畜産を守るという立場で現実的な対応が必要であると考えている。

 さて近年、企業の農業への新規参入と各種のアグリビジネス(農業関連産業)などの起業化、産直施設など産地と消費地を結ぶとりくみ、「道の駅」などへの参入、高品質化やブランド化へのさまざまな努力がおこなわれてきている。部落の農業者も以前からライスセンター・育苗施設・共同作業所・農機具など共同利用施設を導入し、活性化へのとりくみをすすめてきており、近年の情況を受けてフードバンクや福祉施設との連携など、創意工夫して事業化にとりくんでいる地域もある。
  しかし、そうしたとりくみの重要性は認識しながらも部落の農家の多くは、規模・水利・立地・高齢化などの問題をかかえている。さらに、あらたなとりくみのために克服しなければならない課題(資金・経営規模・コスト・従事者の確保など)の前に足踏み情況にある。
 そうした情況をふまえ、部落の農業の変革への意識を高め、広域的な産地・(流通)・消費地を結ぶネットワークの構築を基本にした「産直施設」「ネット販売」などもふくめた起業化を早急に検討することが重要である。また同時に、耕作放棄地などの集約化と作業の代行と共同利用施設の連携をはかるとともに、共同利用施設や設備の更新と運営の効率化をすすめなければならない。さらにこうしたことは、個個の農家だけでは困難であり、地域ぐるみのとりくみをめざしていかなければならないことは当然のことである。また、生産地である農村部落と消費地である郡市あるいは都市近郊の部落を結ぶことを模索することも、有効なひとつの方法ではないかと考える。

 TPPをめぐる国会での議論に部落の農業や食肉・畜産のおかれている現状や課題を反映させていくとりくみをすすめていくと同時に、部落の競争力を高めていく具体的なとりくみもすすめていかなければならない。
  これまで農林漁業運動部として、視察や活動交流、農水省交渉などを実施してきたが、それらを通じて部落の農業、畜産や食肉業は、全国一律の情況ではなく、その地域性に応じたさまざまな課題をかかえていることや、課題解決や要求実現への情況をめぐって、農水省と地方自治体の認識や対応に多くの格差が生じていることが明らかにされてきた。そうしたことをふまえ、早急に全国の部落農家の実態把握をおこなうとともに、具体的な課題や要求をもとに自治体交渉や農水省交渉をすすめていかなければならない。
  また、部落の農業の課題は、同時に地域(農漁村)を守り、振興する課題でもある。そうした意味で農林漁業運動部として、雇用創出や産業振興の視点もふくめた競争力を高めることを運動の柱に、具体的なとりくみを強力にすすめていく。


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