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全国識字経験交流会で各地の学習や実践を交流し、
今後の識字運動の充実をめざそう

「解放新聞」(2017.09.25-2828)

 部落解放同盟は、日本教職員組合、公益社団法人全国人権教育研究協議会、国際識字年推進中央実行委員会の協賛を得て、第17回全国識字経験交流集会を本年10月14、15日に徳島市でひらく。部落差別の結果もたらされた非識字(文字の読み書きができないこと)は、当事者に過酷な生活を強いてきたが、そうした現実から文字を奪い返すとりくみは、部落解放運動の「原点」といえる。厳しい時代にこそ、識字運動を大切にし得る運動の質を堅持し、全国識字経験交流集会を成功させよう。

  水平社創立当時、被差別部落には差別と貧困によって文字を読めない、書けない人びとが多くいた。水平社は創立から4年後の1926年に「水平社教育方針書」を策定し、軍隊入隊前の青年たちに文字教育をおこなうなど、組織的にとりくみをすすめた。まだ「識字」という言葉が使われていない1950年代には、解放運動、同和教育運動の高まりのなかで、文字の読み書きを学ぶとりくみが、それぞれの地域の状況に応じてはじめられていった。

 大阪では仕事に必要な運転免許を取るための文字学習会がおこなわれ、1960年代には、産炭地を中心に識字運動が広がっていく。そして1969年の部落解放第14回全国婦人集会(現・女性集会)で初めて識字の分科会が設置され、以降、女性部を中心に全国的な広がりをつくってきた経緯がある。

 非識字は、仕事や日常の生活で、識字者の想像を絶するさまざまな困難や苦痛を生じさせる。しかし、非識字であることを自分の責任であると考え、恥ずかしいと思い、カミングアウト(公表)できないために学ぶ機会を奪われてしまうことも多い。

 部落解放運動はそうした非識字者の立ち上がりの難しさを克服して、全国各地の被差別部落で識字運動を組織してきた。心の奥底に隠された切実な「ねがい」を引き出し、カミングアウトする勇気を奮い起こして、識字学級を組織してきたのである。非識字者は比率として女性に多いが、それはまさに複合差別によるものであり、社会のもっとも弱い人たちに矛盾が集中する。

 そのようななかでおこなわれた識字学級は、文字を学びながら文字を獲得できなかった生い立ちを綴り、非識字を生み出す部落差別の重い現実に思いをいたらせる。文字を学ぶみずからの努力と差別社会の変革を結びつけていくとりくみであった。

 部落解放運動は、このような一人ひとりの困難や切実な要求に応える力を持ちえてきたのであり、識字運動が部落解放運動の「原点」といえる所以である。

 2006年から2014年にかけてとりくまれた各地の部落女性の実態調査では、若年層の非識字者の存在が明らかになっている。この間、隣保館の施策の縮小や打ち切りによって、識字学級の運営が困難な状況に置かれてきたが、昨年12月に成立、施行した「部落差別解消推進法」を具体化させ、ふたたび識字学級の活性化にとりくむ必要がある。

 また、全国夜間中学研究会によれば、日本全国に義務教育未修了者は百数十万人いるといわれており、識字を必要としている人びとは多く存在する。在日韓国・朝鮮人や障害のある人、中国からの帰国者や新たに外国から移住してきた人、不登校の人など、さまざまな理由で文字を学べなかった人びとが、夜間中学や日本語教室で識字にとりくんでいる。しかしこれにたいする行政施策は不十分で、ニーズの高まりにもかかわらず、2001年に8都府県34校あった公立夜間中学が、2014年以降は31校に減じている。このようななかで、全国の公立・自主夜間中学や議員連盟の要請を受け、文部科学省は、すべての都道府県で少なくとも1校は夜間中学の開設をすすめる方向を打ち出し、さらに昨年12月には「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」(「教育機会確保法」)が可決、成立した。十分に学べないまま義務教育を修了したことになっている人や、不登校などの学齢期の子どもにたいする教育機会の確保を明記し、予算の確保や学ぶ場の周知など、夜間中学のとりくみを促進する状況が生まれている。

 ユネスコによれば世界で15歳以上の非識字人口は7億8100万人(2015年)で、その7割がアジア・アフリカ地域に集中している。1990年(国際識字年)の前年から日本ユネスコ協会連盟による「ユネスコ世界寺子屋運動」がこれらの地域を中心に展開され、20年間に43か国・1地域の1万の教室で124万人に学ぶ機会を提供してきた。非識字者の3分の2を占める女性のために、アジア・太平洋地域では、ユネスコ・アジア文化センターと各国のNGOや政府機関との協力で「女性のための識字教育センター」が展開されている。国内の識字運動をこうした動きと連動させ、国際識字年推進中央実行委員会をはじめ各地での実行委員会の活動を強めていこう。

 全国識字経験交流集会は全国の識字学級を中心に、各地の学習や実践を交流しながら、識字運動のいっそうの発展をめざす。文字を奪われた苦しみや辛さ、識字学級との出会いや文字を覚えて世界が広がる喜び・感動を共有しながら、今後の識字運動の充実をめざそう。


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