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人権週間に向け、国際人権のとりくみを強化しよう

「解放新聞」(2017.11.20-2835)

 第二次世界大戦後、国連は世界人権宣言を採択し、その日を記念して12月10日を人権デーとした。宣言は「すべての人が生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利において平等である」とのべる。戦争・飢餓・虐殺を経験してきた世界が、再び惨劇をくり返さないことを決意した。とくにマイノリティが差別され、人権侵害に曝され、虐殺されてきた惨劇の歴史を想起し、再び人間の尊厳が侵害されないために、「人権の主流化」を求めた。

 世界人権宣言を具体化するために、国際人権規約をはじめ、さまざまなマイノリティの人権保障を書き込んだ国際人権諸条約が国連総会で採択されてきた。国家の法律や制度によって生み出されてきたマイノリティへの人権侵害を是正し、救済し、保障するための人権条約には、新しい人権概念が盛り込まれている。世界が条約に示された新しい人権概念を学び直していくことによって、マイノリティの立場から世界の人権状況を変革することになる。

 国連は各国に人権条約の締結を促し、国際人権の原則が国境線をこえて各国に浸透してきた。

 2001年に国連が主催して南アフリカのダーバンでひらかれた反人種主義・差別撤廃世界会議で採択されたダーバン宣言では、アジア、アフリカそして先住民族が今日困窮と貧困のなかで苦悩している原因は過去の奴隷制や植民地支配にあるとし、その誤りを認めた。マイノリティへの差別や人権侵害はその国の法律と制度によって生み出されてきたことを確認し、その誤りを認めて謝罪する流れをつくり出してきた。謝罪の時代がはじまったといわれる。

 2016年は日本のマイノリティの人権にとって重要な年になった。「差別解消三法」と括られる障害者差別解消法が施行され、ヘイトスピーチ解消法、部落差別解消推進法が公布・施行されたからである。国会の多数がマイノリティの存在を認めた背景に、国際社会の人権の潮流、とくにマイノリティの人権重視の流れが影響を与えていることは事実である。

 この流れは、国連が2015年採択した持続可能な開発目標(SDGs)にも取り入れられ、企業もふくめて諸団体の社会的責任となった。

 国連は国際人権諸条約を締結した各国の条約の実効性を監視し、条約を各国内で機能させ、マイノリティにたいする不正義を是正するよう求めている。そのために四つの柱がある。①定期的に政府報告書を提出し、条約委員会での審査を受ける②条約を国内裁判所の判決で使う③国内人権委員会による監視④個人通報制度、である。

 国家中心主義をとる日本は、裁判の三審制の破壊であるとして、個人通報制度には参加していない。国内人権委員会は未だ設置されていない。国内の裁判所が国際人権法に基づいて判決を出すケースはまだ少ないが、最高裁が条約を念頭におきながら判例変更し、違憲判決を出したり、ヘイトスピーチにたいして人種差別撤廃条約に違反するとした最高裁判決など、条約を国内法として機能させようとするとりくみが生まれていることは歓迎すべきだ。

 政府報告書の審査に関して部落解放同盟とIMADRはNGOと連携して、人権条約委員会や国連職員に国内のマイノリティの人権状況に関する情報提供をしてきた。政府報告書にたいする有効なカウンターレポートを提出し、条約委員会で有意義な議論が展開され、効果的な勧告が出されるようになった。

 6月に人種差別撤廃委員会に提出された政府報告書は来年8月に審査され、委員会から最終意見・勧告が出される。政府報告書作成にあたって政府は、外務省を中心に政府関係省庁からの出席でNGOとの意見交換会を開催した。NGOは提出された政府報告書にたいしてカウンターレポートをこれから作成する。

 2014年、人種差別撤廃委員会から出された最終意見・勧告を受けて、ヘイトスピーチに関する国内の状況が少し変わった。ヘイトスピーチに関する「実態調査」や「人種差別を禁止する包括的な特別立法の採択」などの勧告を受け、法務省は実態調査を実施し、昨年6月、「ヘイトスピーチ解消法」が成立した。

 しかし、今回も政府報告書は部落問題に一言もふれていない。2016年12月、部落差別解消推進法が成立したので、政府は「部落問題は条約のDescent(世系)に入らない」との政府見解を変更するのではないかと期待したが、政府見解は修正されないままである。

 2000年、国連では日本の部落差別、インドやネパールなど南アジアでのカースト差別、西アフリカの類似する差別をふくめて「職業と世系による差別」とする概念を設定して、調査を開始した。2002年には人種差別撤廃委員会が「インドのカースト差別や部落差別はDescentに入る」とする一般的勧告29を採択した。2007年には調査の結果として国連「職業と世系に基づく差別の撤廃のための原則と指針案」(「原則と指針案」)が人権理事会に提出された。部落解放同盟、IMADR、国際ダリット連帯ネットワーク(IDSN。インド)をはじめとした世界のNGOが、採択を求めて活動したが、議論されないまま現在にいたっている。「原則と指針案」が採択されれば、部落差別・カースト差別撤廃のための国連指針となり、差別撤廃を実施する監督機関がつくられ、「職業と世系に基づく差別」撤廃の国連宣言の採択に向けた一歩になる。

 2017年、国連人権高等弁務官事務所は「世系に基づく差別に関するガイダンスツール」を作成した。来年4月、国連とIMADRの主催で国際会議を日本で開催することになった。アジアのダリット組織が集まって、「ガイダンスツール」をもとに「世系に基づく差別」のとりくみの現状と課題を議論する。部落解放同盟は特別措置法のもとで実施してきた同和行政や人権行政の総括に基づいて、運動の経験や知恵そして成果や失敗を現状と課題として報告することで、「世系に基づく差別」を解決するための「ガイダンスツール」を深化させていく重要な役割を担うことになる。

 2009年、「世界は、アパルトヘイトの壁を壊したように、カースト差別の壁を壊さなくてはならない」と語ったナビ・ピレイ国連人権高等弁務官の言葉を想起する。

 部落差別解消推進法が恒久法として制定され、この法律のもとで、部落差別の解消を実現することになった。部落問題に関する基本認識や解決のための基本方針には同和対策審議会答申や地対協意見具申の趣旨を生かすとともに、答申や意見具申が指摘しているように「国際的な潮流とその取組みを踏まえて積極的に推進すべき」である。条約委員会が再三勧告している「包括的な差別禁止法」と「人権侵害救済法」の制定、人権委員会の設置は喫緊の課題である。

 人権週間を機に、あらためて国際人権諸条約を学び直して、国際人権の潮流を念頭におきながら、条約を国内法として機能させるとりくみを推進したい。



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