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狭山事件の再審開始を求める世論を広げよう

「解放新聞」(2020.01.20-2939)

 2019年12月10日、狭山弁護団は3点の新証拠を提出した。提出したのは、平岡義博・立命館大学教授(元京都府科学捜査研究所技官)によるスコップ付着の土についての意見書(平岡第2鑑定)、血液型について日本大学医学部法医学分野のてつけん・医学博士による意見書(鉄意見書)、万年筆インクについて雨宮正欣・法科学研究センター所長(元埼玉県警科学捜査研究所技官)による意見書(雨宮意見書)である。提出された新証拠は224点になった。

 狭山事件の有罪判決は、死体発見現場近くで発見されたスコップが死体を埋めるのに使われたものとして証拠のひとつとした。その根拠となったのは埼玉県警鑑識課のスコップ付着の土についての鑑定である。

 平岡第2鑑定は、長年、科学捜査で土の分析をおこなってきた平岡鑑定人が、狭山現地で地質等の観察、調査や文献の調査もおこなったうえで、成因の異なる赤土(ローム層)と黒土(黒ボク土)を類似するとしていること、死体が埋まっていた穴そのものの土を調べていないことなど、県警鑑識課員の鑑定の誤りを指摘し、スコップは死体を埋めるのに使われたものということはできないことを明らかにしたものである。

 当時の捜査本部が、このスコップを犯人が死体を埋めるために使ったもので、被差別部落出身のIさん経営の養豚場のものと発見直後に発表し、出入りの部落の青年に見込み捜査をおこない、石川さんを狙い打ちして別件逮捕していったことも、証拠開示された捜査資料から浮かびあがっている。スコップを契機として被差別部落にたいする見込み捜査がおこなわれ、えん罪をつくり出したことも裁判所は見るべきであろう。

 有罪判決は、当時、警察医によっておこなわれた血液型についての鑑定を根拠に、犯人の血液型がB型で石川さんと一致することを有罪の証拠のひとつとしている。しかし、警察医の鑑定は、被害者の血液型がO型であり、そのうえで犯人はB型としているが、血液型を特定するために不可欠な「裏試験」をおこなっておらず、当時の基準にも満たないひじょうに低い力価の血清を検査に使い、О型の対照をおいた検査もおこなっていない。鉄意見書は、これらの問題点をあげて、被害者の血液型をO型とし、犯人の血液型をB型とした警察医の鑑定方法、鑑定結果は妥当ではないと指摘している。犯罪捜査において犯人の血液型の特定はきわめて重要なものであるが、狭山事件の捜査ではズサンきわまりない鑑定がおこなわれ、石川さんを犯人とする根拠のひとつとされたのである。血液型が一致することを有罪証拠のひとつとした寺尾判決に合理的疑いが生じていることは明らかだ。

 雨宮意見書は、検察官が下山第1鑑定にたいする反証として提出したS鑑定人による意見書にたいする反論として弁護団が提出したものである。雨宮鑑定人は、犯罪捜査で実際にペーパークロマトグラフィー検査を経験したこともある科捜研の元技官だ。検察官が提出したS意見書は、当時の科学警察研究所の荏原技官の鑑定に添付されたペーパークロマトグラフィー検査の写真をもとに、発見万年筆に別のインク色素がふくまれている(インクが混在している)としているが、雨宮意見書は、写真はペーパークロマトグラフィー検査の結果を示すものではなく、写真を画像解析などして色素の存在をいうことは不適切と指摘したうえで、別の色素が存在し、科警研の荏原技官がそれを見落としたという可能性はきわめて低いと指摘している。雨宮意見書は、発見万年筆が被害者のものであるとはいえないことをさらに明らかにした新証拠といえる。

 東京高裁は、これらの新証拠と下山第2鑑定や福江鑑定などの新証拠を総合的に評価し、鑑定人尋問をおこない、狭山事件の再審を開始すべきである。

 検察官は、弁護団が2018年8月に提出した下山第2鑑定について反証を提出するとし、科警研に依頼し、実験をおこなっている、被害者が使っていた当時のジェットブルーインクを探していることなどを明らかにしたが、1年以上が経過した昨年9月の三者協議でも反証を提出するメドを示さなかった。弁護団は、当時のクロム元素をふくむジェットブルーインクを入手して実験をおこなう趣旨や反証の内容を明らかにするよう求める求釈明書を提出していた。

 昨年12月11日、第41回三者協議がひらかれ、東京高裁第4刑事部の後藤眞理子・裁判長と担当裁判官、東京高等検察庁の担当検察官、弁護団から中山主任弁護人、中北事務局長をはじめ16人の弁護士が出席した。

 検察官は、下山第2鑑定にたいする反証についての弁護団の求釈明にはまともに答えず、つぎの三者協議までクロム元素をふくむジェットブルーインクを探したいとのべたという。しかし、そもそも、下山第2鑑定は、蛍光X線分析装置で、被害者が事件当日に書いたペン習字浄書のインクからはクロム元素が検出されたが、発見万年筆で書かれた「数字」のインクからはクロム元素が検出されなかったことが重要なのである。石川さんの家から自白にもとづいて発見され、有罪の根拠となった万年筆が被害者のものといえないことを明らかにしているからだ。弁護団はこの点を指摘し、クロム元素をふくむジェットブルーインクを入手して、どのような方法で反証することを考えているのかなどを追及した。検察官は、下山第2鑑定にたいする何らかの反論はするとしたうえで、次回の三者協議で、クロム元素をふくむジェットブルーインクが入手できたかどうか、その後の反証の方向を明らかにするとした。また、弁護団が提出した新証拠3点について反論するかどうか検討するとした。

 次回の三者協議は3月下旬にひらかれる。弁護団は、検察側から下山第2鑑定にたいする反証が出されれば徹底的に再反証することにしている。また、準備中の新証拠や検察官の反証にたいする反論などを提出したうえで、鑑定人尋問を請求することにしている。下山第2鑑定、福江鑑定など専門家による科学的な鑑定の評価が再審請求の論点になっている以上、鑑定人の尋問は不可欠だ。鑑定人尋問を実現し、再審開始をかちとるために、弁護団がこの間提出した福江鑑定、下山第2鑑定、平岡鑑定、さらに森鑑定や浜田鑑定など、筆跡、万年筆、自白にかかわる新証拠について学習・教宣を強化し、より多くの市民に石川さんの無実と有罪判決の誤りを訴えていこう。

 この間、東京高裁(大島隆明・裁判長)による袴田事件の再審開始決定取消し決定、最高裁第1小法廷(小池裕・裁判長)による大崎事件の再審開始取消し・棄却決定や、東京高裁第4刑事部(後藤眞理子・裁判長)が鑑定人尋問をおこなうことなく三鷹事件の再審請求を棄却するなど不当決定が続いている。

 狭山事件の再審請求では、検察官は証拠開示に応じない一方で、筆跡、スコップ、殺害方法、腕時計、万年筆などについて弁護団の新証拠にたいする反証を提出している。すべて公費であり、このような検察官のやりたい放題になっている現状がこのままでいいはずはない。また42年以上も事実調べがおこなわれていない。再審は人権の制度であり、誤判から無実の人を救済することが目的の制度だ。現行の再審請求の手続きには制度の趣旨に反する多くの問題がある。

 狭山事件の鑑定人尋問と再審開始を求める世論をいっそう大きくするとともに、再審開始決定にたいする検察官抗告の禁止や再審請求における証拠開示の法制化、事実調べの保障など再審請求の手続き規定を整備するための「再審法」改正を求める必要がある。「再審法」改正や誤判救済のための司法改革を求めて国会議員に働きかけよう。いくつかの地方議会では「再審法」改正を求める意見書が採択されている。えん罪をなくし、誤った裁判から無実の人を一日も早く救済するための司法改革を求める世論を大きくしよう! 各地でも集会や学習会、街頭宣伝にとりくみ、新証拠の学習・教宣を強化し、えん罪の真相と石川さんの無実を訴え、狭山事件の再審開始を求める世論を広げよう!

 

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