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口頭弁論の再開にあわせ、復刻版裁判の支援を広げよう

「解放新聞」(2020.03.02-2945)

 鳥取ループ・示現舎にたいする「全国部落調査」復刻版出版事件裁判は、2月10日に第11回弁論準備(三者協議)がおこなわれ、8月に証人尋問がおこなわれる見通しとなった。4年目になる裁判だが、いよいよ法廷でのやりとりが再開される。証人尋問は裁判闘争の成否につながる重要な闘いである。証人尋問予定者を激励するとともに、裁判闘争への支援運動をふたたび活性化させるために、全国で支援集会などを開催し、裁判闘争を勝利させよう。部落差別を助長・拡散させる鳥取ループ・示現舎を徹底的に糾弾する闘いを広げよう。

 今回の三者協議で弁護団は、二つの準備書面を提出した。一つは、被告が提出した準備書面(9)にたいする反論で、もう一つは関西大学の内田龍史・教授が提出した意見書にたいする主張書面である。その詳細はホームページに掲載しているので見ていただきたい。

 これにたいして被告の鳥取ループ・示現舎は、「全国部落調査」復刻版の出版やインターネットへの部落リストの掲載を正当化するための荒唐無稽の主張をくり返してきたが、その主要な柱の一つが歴史の事実を歪曲した「被差別部落」などないという主張である。被告らは、いくつかの地区をとりあげ、江戸時代に「えた・ひにん」の居住している地区でなかったところが同和地区として記載されているとか、小字単位の小さな集落である部落が、「全国部落調査」では大字で掲載されて、部落でない地域も被差別部落のように記載されているなどという事例をあげ、「特定の住所が『復刻版全国部落調査』の「部落所在地」「部落名」「現在地」のいずれかの欄と合致していても、そこが被差別部落とは言えない」と主張して、「全国部落調査」と被差別部落との関係を否定し、「同和地区といっても実にいい加減なもの」であり、被差別部落など存在しないと主張をくり返す。

 これにたいして弁護団は、「被差別部落に対する差別は、伝統的には系譜的なものに基づくが、都市化が進んだ現代社会の部落差別は『土地』によって規定されるため、誰もが部落出身者とみなされる可能性がある」「2005年の大阪府民へのアンケートでは、本人の『現住所』『本籍地』『出生地』でその人を『部落出身者』と判断する人が半分近くにのぼり、現在は『属地的差別』の傾向が強まっている」とのべ、いわゆる「土地差別」の観点から部落差別が同和地区に住んでいる、もしくはルーツをもつ人びとを部落出身者と見なして差別するという現代社会の部落差別の特徴をとりあげて正面から反論した。

 たしかに「全国部落調査」には、部落をふくむ広い行政区画を同和地区としている場合もある。しかし、われわれが問題としているのは、地理的にどこが同和地区であるか、その範囲を調査したり、画定することではなく、「全国部落調査」復刻版やインターネットの部落リストに掲載されることによって、そこに記載された土地が「同和地区とみなされ」、その土地に住む人やルーツをもつ人が差別の対象になり、結婚や就職、交際などで忌避、差別される点にある。実際、「差別する側」は、いちいち江戸時代の文献を調べたうえで、「えた・ひにん」が住んでいた土地かどうかを確認し、確認できれば差別するし、確認できなければ差別しない、などということをしているわけではない。もちろん、現在の同和地区の大部分は、江戸時代の「えた・ひにん」の居住していた土地につながりをもっているが、「差別する側」には、どこが歴史的つながりをもった部落であるかどうか、どこが江戸時代の「えた・ひにん」の住んでいた地区であるのか、ということは関係ないのだ。

 もう一つ、被告らがくり返している主張が、「部落出身者」の系譜についてである。被告らは、部落民とは江戸時代の「えた・ひにん」の血をひく子孫であるが、明治以降の近代化のなかで人口の流動化がおこり、相当のものは部落から出て行き、またその反対に、もともと「えた・ひにん」の子孫でないものが部落に入ってきて、現在の部落には「えた・ひにん」の子孫はほとんどおらず、原告らは「部落民を自称しているに過ぎない」などと主張している。実際、被告らは、原告の誰一人も「えた・ひにん」の子孫であることという系譜を証明していないとのべ、戸籍を江戸時代までさかのぼって「証明しろ」などと愚劣な要求をくり返し、証明できないから部落出身者は存在しておらず、差別は生じないなどと主張している。

 ここでも問題は同じだ。差別する側は、いちいち江戸時代まで系譜をたどって「えた・ひにん」の子孫であるかどうかを確認し、確認できれば差別するし、確認できなければ差別しない、などということはしていない。「全国部落調査」やリストを判断材料にして、そこに住んでいる人やそこにルーツをもつ人を部落出身者と見なして忌避し、差別するということであり、それが現在の部落差別の実態なのである。問題は、「えた・ひにん」が住んでいた地区であるかどうか、あるいは系譜が証明できるかどうか、ではない。「全国部落調査」復刻版やリストが「差別のための判断材料」として使われるということである。被告らはこの根本的な問題をすり替え、歪曲し、故意に抹殺している。「差別する側」からみれば、相手が系譜的に「えた・ひにん」の子孫であるかどうか、あるいは「えた・ひにん」の住んでいた土地であるのかどうかは、どうでもいいことである。問題は、「全国部落調査」復刻版が「差別の道具」として使われるという単純な問題なのだ。

 ところで、弁護団は、滋賀県のシルバー人材センター・チラシ事件、茨城県古河市ストーカー事件、佐賀県メルカリ販売事件、埼玉県春日部農林振興センター事件などを例にあげて「全国部落調査」復刻版が二次被害をひきおこしていることを明確に示し、被告らの行為の犯罪性を追及した。(事件については、月刊「部落解放」2019年9月号参照)。これにたいして被告らは、いずれの事件も差別事件ではない、とひらき直っている。たとえば、「全国部落調査」復刻版を製本してメルカリで販売した佐賀の事件については、販売した高校生こそ「被害者」で、「人権侵害そのもの」とのべている。「全国部落調査」復刻版を製本して販売する行為は、第三者に部落の所在地を教え、差別や忌避を薦める明らかな人権侵害行為である。それを逆転させ、販売者を擁護して「被害者」という彼らの主張は、決して許されない。

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 提訴から4年かかったが、「全国部落調査」復刻版出版事件裁判もいよいよ法廷での裁判が再開され、8月には証人尋問がおこなわれる。裁判は、証人尋問をへて、最終書面の提出をおこない、年内には結審となり、年度内には判決がいい渡される見通しとなった。証人尋問では、被告側からも質問がでる。これまでの経過を見れば、被告らは事実を歪曲したうえで、卑劣で挑発的な質問をおこなってくるに違いない。それに対抗する準備をはじめなければならない。そのために私たちは、証人尋問に立つ原告を激励するとともに、支援運動をあらためて活性化させよう。「全国部落調査」復刻版出版事件裁判は、全国の部落出身者とその子孫を差別から守る闘いであり、これまで部落差別をなくすために努力してきた国や地方自治体や企業や宗教団体、労働組合などの長年の成果を守る闘いである。全国各地で裁判報告会や学習会を開催し、支援運動を広げよう。

 

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