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主張

 

東日本大震災や熊本地震、台風被害などの
被災地支援のとりくみをすすめよう

「解放新聞」(2020.03.23-2947)

 安倍首相は1月の施政方針演説でオリンピックについて「力強く復興しつつある被災地の姿をその眼でみて実感していただきたい。まさに『復興五輪』であります」とのべ、東京五輪・パラリンピックが東日本大震災や福島原発事故からの復興を国内外に示す日本の一大イベントであることを強調した。しかし、被災地では、大規模事業の影で高齢者や弱者の生活再建ができず、復興住宅の孤独死が200人や震災関連死が3700人をこえるなど新たな課題が浮き彫りになっており、「復興五輪だといわれても、実感がわかない」などの冷ややかな声が聞こえている。

 現在、津波によって大きな被害を受けた三陸の被災地では、長大な沿岸に巨大防潮堤が延延と築かれているが、その背後に住む人はほとんどいないという皮肉な事態が生まれている。「奇跡の一本松」で有名な陸前高田では、市の中心部300ヘクタールを高さ10メートルかさ上げする巨大造成がようやく完成したが、その盛り土の上に住む人がいないという矛盾した事態が生まれている。また震災前、漁業や観光で生業を営んでいた人びとにとって、ゼネコンによる巨大復興事業がかえって生活「復興」の障害になってしまうという状態を生み出している地域も少なくない。

 いっぽう、地震と津波でメルトダウンした福島第一原発は、いまだに事故処理の見通しが立っておらず、大量の汚染水は完全に処理できないまま野積みされている。政府は除染作業が終わったとして、全町避難が続いていた原発立地の各自治体の避難指示区域を解除して支援を打ち切り、住民に帰還をうながしているが、ここでも人びとが戻ってくるには、たいへん困難な状況が続いている。そもそも、廃炉にまだ何十年もかかる被災地に、おいそれと人が戻れるわけがない。まして、依然として放射線量が高い場所で子育てなどできるわけはなく、国のすすめる早期帰還政策は、早期決着による賠償の打ち切りと政府や東電の責任回避のための政策であると見て間違いない。

 そもそも廃炉に30年はかかり、40年でも実現可能かどうかというのが専門家の公式見解だ。撒き散らされた放射性物質も、半減期の長いものでやはり数十年から数百年かかる。このような原発事故の大きさや、原発事故という災害の質から考えて、事故後10年で帰還を実現するというような政策自体がどだい無理な計画だ。

 また、いったん崩壊した社会の再生にもやはり30年程度の時間がかかるといわれている。つまり原発事故災害の復興にかかる時間は、最低でも30年以上はかかるというのが専門家の常識だ。事故から丸9年が過ぎたが、少なくともあと20年は事後処理を続けなければならないのに、政府はなぜ10年をめどに復興を終了させようとするのか。安倍首相は「復興五輪」と語ったが、そこには「原発事故の日本」というイメージを早く払拭したいという海外に向けた体面が見られ、また原発事故をいつまでもかかえていてはこの国の経済に悪影響がおよびかねないという経済界の懸念も見え隠れする。しかし、大震災の被害は事実であり、復興は理屈や理想ではなく現実がすべてだ。「イチエフ(福島第一原発)は止まってはいない」「フクシマは終わっていない」という福島の人びとの叫びを謙虚に受け止めなければならない。

 現在、国は帰還政策を正当化して、ことさら原発事故処理の安全性を強調するいっぽう、福島の生産物への風評被害にたいする撲滅運動を強化しているが、それは結果として危険な被災地までも肯定することにつながりかねない。また、帰還しない人びとはその安全宣言に逆らっているのだというねじれた論理にまでいきついている危険な政策だ。

 2016年4月に熊本県で震度7・3と7・0の地震が発生し、死者50人、震災関連死が215人、住宅の全半壊、一部破損があわせて20万6千棟にのぼる大きな被害が出た。震源地となった熊本県益城町では、馬水(まみず)支部と平田支部が活動しているが、両支部のある地域全体が被害に見舞われ、馬水支部では10世帯すべてが倒壊または損壊し、1人が亡くなった。また、平田支部では22世帯中10世帯が倒壊または損壊した。被災地では、いまも大勢の人たちが仮設住宅やみなし仮設で不自由な生活を余儀なくされているが、仮設での生活や震災後の苦労で病気にかかる人も少なくない。熊本県内では、避難生活による疲労やストレスで体調を崩したり、病気を悪化させて亡くなる「震災関連死」が200人をこえている。高齢者、障害者、持病をもつ人など、健康リスクが高い人ほど震災関連死がおこりやすい状態が見られる。また、経済的な理由などから依然として住まい再建の見通しが立たない人もおり、ひき続き支援が求められている。

 2019年9、10月には戦後最大級の勢力をもった台風15号、台風19号が連続して上陸し、全国各地に河川の決壊などで大きな被害をもたらし、長野県や栃木県などでは、複数の部落の家屋や教育集会所、隣保館が浸水し、大きな被害が出た。

 台風19号では、長野県小布施町小布施支部が、千曲川の越水と支流の氾濫により、町内で最大の被害を受け、家の2階の床上まで浸水する家屋が出ている。また、長野市東部支部がある穂保(ほやす)地区でも氾濫した河川の水が2階にまで達し、避難してかろうじて命は助かった人も少なくない。このほか、長野県内では複数の支部で被害が出ている。被災地では、現在、避難所や壊れた家で生活している人が多いが、家を修繕するには数百万から1千万以上の改修費がかかり、生活再建を断念する人も出ている。

 台風19号は、栃木県内の佐野市と栃木市の支部にも大きな被害を与えた。佐野市では渡良瀬川の支流の堤防が決壊し、大橋町東部支部員の家屋や佐野市隣保館に床上浸水など被害をもたらした。被災者は、壊れた自宅の2階や、市営団地の空室に入居して避難生活を送っているが、失った家電製品や家具は一から揃えなければならず、いつ自宅に戻れるのか先の見えないなかで、不安な暮らしを余儀なくされている。

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 世界の温暖化によって気候変動が続き、毎年台風や集中豪雨による大きな被害が出ている。また今後30年以内に80%以内の確立で南海トラフ地震が発生すると予想されており、私たちは地震や台風など自然災害がいつどこでおきても不思議ではないという時代のなかで生きている。

 部落解放同盟は、災害のなかでは高齢者や障害者などがより大きな被害を受けるという過去の事例から学び、災害に備えて弱者に視点を当てた支援体制を構築するよう国や地方自治体に働きかけるとともに、東日本大震災の被災者の生活再建のためにひき続き支援をおこなうとともに、地震で被害に遭った熊本県連の支部や、西日本・九州での豪雨災害の被災地、台風で水害に遭った長野県や栃木県の支部にたいしても、地元県連と連携して被災地への支援をおこなう。全国各支部は、支援活動に積極的に協力しよう。

 

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