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狭山事件の再審開始を求める世論を広げよう

「解放新聞」(2020.04.05-2949)

 弁護団は3月3日付けで、手拭いに関する再審請求補充書と新証拠1点(事件当時の捜査報告書)を提出した。狭山事件では、発見された死体を後ろ手に縛っていた手拭いを石川さんが入手可能だったとして、有罪証拠の一つとされた。この手拭いは市内の米店が1963年の年賀用に得意先に配付した165本のうちの1本であるが、事件直後の捜査で石川さん宅に配付された未使用の手拭いを警察官が現認し、その後、警察に提出されている。これで、犯行に使われた手拭いは石川さんの家のものではないことになるはずであり、実際、警察は配布先を捜査し手拭いを提出あるいは確認した家は捜査対象からはずしている。ところが、検察官は、石川さん宅から提出された手拭いは他家から都合をつけたものと裁判で主張し、東京高裁の寺尾判決はそれをうのみにして有罪の根拠としたのである。

 今回の補充書で弁護団は、有罪判決の認定は犯行に使われた手拭いは石川さんの家のものという結論ありきで、推測を重ねたもので、開示された捜査資料など、これまで提出した新証拠を総合的に見れば有罪判決に合理的疑いが生じていると主張している。

 一方、検察官は、弁護団が提出した法医学鑑定にたいして、3月16日付けで意見書を提出するとともに、近藤稔和・和歌山県立医科大学教授の意見書を提出した。弁護団は、赤根鑑定、長尾鑑定など法医学者の鑑定を提出し、殺害方法についての石川さんの自白が死体の状況と矛盾し、自白が虚偽であると主張している。

 また、犯人の血液型をB型とした事件当時の警察医の鑑定方法、鑑定結果は妥当ではないと指摘した鉄意見書を提出し、犯人と石川さんの血液型が一致することを有罪の根拠の一つとした寺尾判決に合理的疑いが生じていると主張している。

 今回検察官が提出したのは、これらの新証拠にたいする反証である。弁護団は再反論を提出することにしている。

 2020年3月19日、東京高裁で狭山事件第3次再審請求の42回目の三者協議がひらかれた。新型コロナウイルスの感染予防のために、協議に出席する人数を限るよう裁判所から要請があり、三者協議には、東京高裁第4刑事部の後藤眞理子・裁判長と担当裁判官、東京高等検察庁の担当検察官、弁護団からは、中山主任弁護人、中北事務局長、高橋弁護士、竹下弁護士が出席した。

 検察官は三者協議に先だって、殺害方法、血液型に関する反証を提出したが、今後さらにつぎの反論、反証を提出するとのべた。

 これまで検察官は、弁護団が提出した下山第2鑑定(蛍光X線分析によってインクを調べ、証拠の万年筆が被害者のものといえないことを指摘した鑑定)にたいする反証のために、当時、被害者が使っていたのと同じクロム元素をふくむジェットブルーインクを探しているとしてきたが、今回の三者協議で、クロム元素をふくむジェットブルーインクを入手できなかったので、専門家による実験などはおこなわず、検察官の反論の意見書を提出すると回答した。

 弁護団が提出した原・厳島鑑定(心理学実験にもとづいて万年筆の発見経過が不合理であることを指摘した鑑定)にたいする反論とあわせた意見書として、5月中に提出する予定であるとした。

 また、有罪証拠のスコップに関して弁護団が提出した平岡第2鑑定にたいする反証を、次次回の三者協議をメドに提出し、そのほかの論点についても記録を検討し、反論、反証が必要なら随時提出するとのべた。

 弁護団は、検察官から反証、反論が提出されれば、再反論することにしている。

 また、弁護団は、現在準備中の新証拠として、3次元スキャナをもちいた計測にもとづく足跡鑑定、コンピュータによるデータ分析の手法をもちいた取調べテープ分析鑑定などの新証拠を5〜6月をメドに提出する予定であることを裁判所に伝えた。そして、その後、事実調べ(鑑定人尋問)を請求することも伝えた。次回の三者協議は6月中旬におこなわれる。

 第3次再審請求で、なんとしても鑑定人尋問を実現し、再審開始をかちとるために、弁護団がこの間提出した福江鑑定、下山第2鑑定、平岡鑑定、さらに森鑑定や浜田鑑定など、筆跡、万年筆、自白にかかわる新証拠について学習・教宣を強化し、より多くの市民に石川さんの無実と有罪判決の誤りを訴え、狭山事件の再審開始を求める世論を広げていくことが重要だ。

 新型コロナウイルスの感染拡大の状況を受けて、2月下旬から各地の集会や狭山現地調査のとりくみが延期や中止となっている。石川一雄さん、早智子さんは、こうした状況に胸を痛め、支援者を心配するとともに、みずからも体調を崩さないよう気をつけて、元気で頑張っており、第3次再審でえん罪を晴らすという決意を新たにしている。私たちも、石川さんの再審無罪を実現するまで全力で闘う決意を新たにしたい。

 狭山事件では、1977年に最高裁が上告を棄却、再審請求が申し立てられ、石川さんと弁護団は、筆跡鑑定、法医学者の鑑定、足跡やスコップなど有罪証拠の誤りを明らかにする科学的な鑑定を提出し、42年以上も再審開始を求めているが、これまで一度も鑑定人尋問などの事実調べがおこなわれていない。

 足利事件で菅家さんが2010年に再審無罪をかちとって、ちょうど10年になる。足利事件では宇都宮地裁が再審請求を棄却したが、即時抗告審で東京高裁がDNA鑑定の再鑑定をおこない、半年あまりで警察のDNA鑑定の誤りと菅家さんの無実が明らかになり、再審開始決定が出され、翌年無罪判決が出された。布川事件の再審請求でも法医学者などの鑑定人尋問がおこなわれ、自白の信用性が否定され、2011年に再審無罪となった。東住吉事件でも専門家による再現実験などがおこなわれ、また証拠開示によって自白の信用性、任意性を否定する証拠が明らかになり2016年に再審無罪となっている。このほかの再審無罪となったえん罪事件の教訓も、再審での証拠開示と鑑定人尋問、事実調べが不可欠であるということである。

 狭山事件でも、なんとしても第3次再審で鑑定人尋問を実現するよう、弁護団や石川さんと力をあわせて、さまざまなとりくみをすすめ、世論を高めよう。

 無実の人がえん罪に苦しむということは絶対にあってはならない。えん罪は本人だけでなく家族もふくめた人権侵害の犠牲者をつくる。再審という制度は、こうしたえん罪から無実の人を救うための人権の制度である。

 しかし、袴田事件や大崎事件などでは、再審開始決定が出されたにもかかわらず、検察官が抗告、異議申立をおこない、高裁や最高裁で取り消されるという市民常識では考えられないことがおきている。現行の再審の手続きには本来の理念に反する問題点、不備があり、司法における人権確立を実現するために、法改正が必要だ。具体的には、再審開始決定にたいする検察官抗告の禁止、再審請求での証拠開示の法制化、事実調べの保障など再審請求の手続き規定の整備、再審請求人の拡大などの法改正の課題が学者や弁護士から指摘されている。こうした「再審法」改正を求める市民の声を大きくし、「再審法」改正や誤判救済のための司法改革を求めて国会議員に働きかけることが必要だ。

 大崎事件では最高裁第1小法廷による不当きわまりない再審取り消し・棄却決定にたいして第4次再審が申し立てられた。袴田事件は東京高裁の不当決定を取り消し、再審を開始するよう最高裁に求める闘いが続けられている。再審、えん罪の闘いの連帯と「再審法」改正を求める運動をすすめよう。

 狭山事件の新証拠の学習・教宣を強化し、えん罪の真相と石川さんの無実を訴え、狭山事件の再審開始を求める世論を広げよう!

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