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主張

 

人権教育を基盤に安心安全な学校生活をとり戻し、
反差別の地域づくりをすすめよう

「解放新聞」(2020.06.25-2957)

 アメリカでおきた白人警官による黒人男性の殺害事件にたいする抗議デモや人種差別の根絶を求める活動が世界中に広がっている。われわれは、今回の事件に強く抗議する。また、このような悲劇に早急に終止符を打つために、あらゆる差別の撤廃に向けて世界中の人びとと連帯しながら、世界の水平運動をめざしてとりくみをすすめていくものである。

 今回の残酷非道な事件と人種差別にたいする抗議活動の模様は、日本のマスメディアでも大きくとりあげられている。とくに人種差別が日常化した社会、「アメリカの闇」、「根深い人種差別」などと、連日報道されている。しかし、日本社会にも厳存する差別の実態など、みずからの足元を見ようとしない「対岸の火事」のような報道姿勢が目立つのは残念である。

 先般、日本の新型コロナウイルスによる死者数が欧米諸国と比べて少ないことについて、これまでも幾度となく失言や暴言をくり返している麻生財務大臣が「国民の民度のレベルが違う」と発言、世界からひんしゅくと失笑を買ったことは記憶に新しいところだ。

 日本では、社会的責任や影響力をもつ公人や著名人が、差別発言やハラスメントなどの不適切行為や人権侵害をおこない、当事者の抗議を受けながらも、責任や反省をともわない型通りの釈明に終始し、明確な謝罪がないままに不問に付される場合が多い。

 深刻な差別や重大な人権侵害を、文字どおりに差別や人権侵害として認め、真摯に反省し社会的責任を負うという当たり前のことを怠ってきた結果、市民社会における人権規範の定着を大きく阻害している。ともすれば、被差別マイノリティなど、差別や人権侵害に抗議した当事者がさらなる差別や暴力などの二次被害にさらされるという事態を招くこともしばしばだ。

 今回のコロナ禍は、世界中で、ウイルス感染への恐怖と不安にある市民の間に差別と分断を生み出した。もちろん日本も例外でなく、感染者や医療従事者、その家族にたいして誹謗と中傷、差別と排除が全国各地で惹起し、複数の知事が注意喚起をおこなう事態となった。

 そうしたなか、社会的弱者・マイノリティである子どもや外国人の人権がいっそう軽視されている状況が露呈している。

 日本での子どもの人権状況については、国連・子どもの権利委員会から度重なる勧告を受け続けている。子どもを権利行使の主体と認め、意見表明権を保障することなど、条約の完全な実施が求められてきた。

 今回の感染拡大がすすむなかで、政府は、2月27日夕方、突如として、全国の小・中・高校、特別支援学校にたいして春休みまでの一斉休業を要請することを発表した。その後に判明したことであるが、コロナ対策の専門家委員会の科学的知見や、所管する文部科学省、学校設置者である地方自治体の意見や意向をふまえた高度な「政治判断」ではなく、安倍首相のほぼ「独断」であった。

 安倍首相は、当事者である子どもたちの声を聞くことの大切さや、関係者に事前に説明することの重要性など一顧だにしなかったと思われる。多くの子どもたちの権利が、思慮のない一人の大人によって、いともたやすく奪われた事実を私たちは重く受け止めなければならない。

 また、子どもたちの学びと育ちを後押しする学校を、その後の「自粛」要請へすすめるための先取りとして利用し、人権に配慮することなどへの思慮を欠いた突然の一斉休業要請は、新型コロナウイルスにたいする人びとの不安と恐怖を煽り、結果として行政や教育委員会、学校など関係者の間にも、冷静さを欠いた判断と対応をひきおこした。

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 同和教育の実践においては、部落問題をはじめ個別人権課題への科学的認識を深め、差別をなくすための実践力を高めることが求められてきた。また、いわゆる「第3次とりまとめ」(文部科学省)において、人権教育は、教育を受けること自体が基本的人権であるという大原則のうえに成り立つものであり、人権教育を推進する前提として、「すべての関係者の人権が尊重されている教育の場としての学校・学級」であり、人権尊重の精神がみなぎっている環境であることが求められるとしている。

 その人権教育の実践の現場である学校で、保護者が運送業に従事する家庭の子どもたちが、その職業を理由に「感染リスクが高い」とする非科学的判断のもとで、自宅待機を求められ、入学式と始業式を欠席させられるという由由しき事態がおきてしまった。

 学校の究極の使命は、子どもを守ることともいわれる。そして、今日、障害のあるなしにかかわらず、「合理的配慮」を提供することが求められている。いかなるときも、すべての子どもを包摂し、誰ひとりとして排除しないことを基本に据えた学校運営を求めたい。

 また、さいたま市では、感染防止のために市が備蓄するマスクの配布対象から朝鮮幼稚園を除外していたことが判明した。小さな命が危険にさらされている状況において、住民の生命と財産を守るべき自治体が、差別としかいいようがない恣意的な判断で、国籍や民族を理由として命の線引きをおこなったのだ。

 幼稚園関係者、保護者、支援者らが市にたいして抗議をおこなうとともに、県弁護士会が「法的観点のみならず、人道的見地からも容認できない」とする声明を出した。

 それにもかかわらず、市当局が、非を非として、差別を差別として素直に認めないがために、この抗議の報に接した一部の差別排外主義者たちが、朝鮮幼稚園に嫌がらせをおこなうという二次被害が生じる最悪の事態を招いた。

 高校無償化からの除外、幼保無償化からの朝鮮幼稚園の除外。そしてまた、今回のコロナ禍で困窮する学生を支援することを目的とする「学生支援緊急給付金」からの朝鮮大学の除外など、もはや、官製ヘイトが率先して、民族差別を温存し、差別排外主義者を煽りたてている。

 これが日本の差別の現実であり、他国の人権状況や「民度」を問題にする暴言を許してはならない。

 ここにきて、三日月大造・滋賀県知事が、地元の朝鮮学校の子どもたちに、激励のメッセージを添えてマスクと食糧を贈呈したとの報に接したのが唯一の救いだ。こうしたことを広く報道するのがマスメディアの使命ではないだろうか。

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 非常事態宣言が全国的に解除され、各地で子どもたちが登校する姿が見られるようになってきた。一方的な「自粛」要請が長期にわたり、子どもも教師も多くが疲弊し、不安をかかえたなかでの学校の再開である。

 学力の向上だけが、学校教育の目的ではないことは指摘するまでもない。しかし、休校にともなう学習の遅れなどカリキュラムの消化や、来春に受験を控える中3、高3生たちへの対応など、学力に偏重した指摘や論議が目立っている。

 子どもたちに過度の負担をかけ、追い込むことにならないようにすることが大切である。学びの主体である子どもたちの意思を尊重しながら、人権教育を基盤とする、すべての子どもたちにとって、安心安全な学校生活をとり戻していこう。

 今回のコロナ禍で、平凡な日常がいかに大切なものかを実感したのではないか。一方で、いとも簡単に人が人を差別してしまい、いとも簡単に人権がふみにじられてしまうことを多くの人が心に刻んだはずだ。

 この未曽有の共通の経験を、今後の人権教育の実践に活かし、すべての人の尊厳を守り、差別を許さない地域づくりをすすめていこう。

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