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反差別国際運動の源流−対立と分断をこえて連帯を

「解放新聞」(2020.08.25-2963)

 今年3月、WHOは新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を宣言した。世界で累計2129万人が感染し、死者が76万人に上った(8月16日現在)。感染の危険のなかでの医療従事者の懸命な努力が続いているが、終息の見通しは立っていない。このパンデミックは構造的人種差別による人種格差をあぶりだした。もっとも感染者が多い米国ではアフリカ系やヒスパニック系の死亡率が高率だ。医療へのアクセスが不利、住環境は過密、貧困が蔓延しているなどの生活状況を反映している。ロックダウンによって外出が制限されても、外出して、エッセンシャル・ワーク―医療・介護やゴミ収集・清掃、配送業や交通機関の運転など―に従事しなければならない。感染して多くが死亡している。

 3月にインドとネパールではロックダウンが宣言された。政府が各戸に食料や生活必需品を配給しているが、届かないダリットの村がある。NCDHR(全国ダリット人権キャンペーン)とFEDO(フェミニストダリット協会)が生活支援を要請している。マスクなどの感染防護用品の支給がなく、感染のリスクを負いながら清掃、ごみ収集などエッセンシャル・ワークに従事し、都市の生活を支えている。ドイツ・スィンティ・ロマ中央委員会は、感染の不安と恐怖がレイシズムを生み出していると警告した。ロマ地区が封鎖され医療や生活必需品の遮断で生活が危機に瀕していると訴えている。

 4月9日、国連人権理事会は「パンデミックにより生じる破壊的な結果と、人びとの権利に及ぼす計り知れない影響を懸念して」オンラインによる非公式会合をひらいた。人権高等弁務官は声明のなかで、「パンデミックへの対応において、人権が最前線かつ中心に置かれる必要がある」「社会の中で脆弱な位置に置かれた人びとへの対応に注意を払う必要がある」とよびかけ、COVID―19ガイダンスを発表した。参加した反差別国際運動(IMADR)をふくむ70団体以上のNGOが、共同声明を発表した。

 新自由主義政策が生み出してきた危機がパンデミックによって露呈している。国家財政を縮小し、市場拡大をはかってきたために、格差が拡大し、貧困が増大した。社会保障経費は削減され、貧困層や非正規労働者、難民・移民などはたちまち生存の危機に見舞われた。医療費抑制策で保健所などの感染症対策費や検査体制が削減され、病院・病床を削減し、医師数を抑制してきたために、あふれる感染者に対応できず、医療崩壊がおきた。

 自粛要請や休業要請で、急場をしのぐだけではなく、コロナ後の社会のあり方を見据えて、脆弱さを露呈した社会的セーフティネットや社会的インフラの整備に力を注ぎ、「誰一人取り残さない」社会を展望すべきだ。日本では生存権保障の基礎である生活保護制度を拡大し、柔軟に運用して、公的支援がなく命の危機にさらされている人びとのセーフティネットを整えるべきだ。

 5月25日朝、米国ミネアポリス市の路上で黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人の警察官4人によって殺害された。フロイドさんが絶命するようすを目撃者がとらえた動画がSNSに流された。アフリカ系・ヒスパニック系・先住民族などのマイノリティであれば頻繁に警察官に職務質問され、いきなり重罪犯の扱いをされる制度的人種差別が潜んでいる。人種プロファイリング(人種的な予断と偏見にもとづいて法や行政を執行すること)による刑罰国家を象徴している。

 全米に「Black Lives Matter」(黒人の命は大切)のスローガンを掲げた幅広い市民の抗議デモが拡大した。世界各国でも人種差別に反対する抗議デモが広がった。参加者は多様で、とくに目立つのはオバマ大統領の時代を生きて、多様性を学んだ若い世代だ。スマホやインターネットとともに育った世代は動画を見て衝撃を受け、自然発生的に抗議行動がおき、2か月以上にわたっても終息しない。警察組織の解体を叫び、制度的人種差別の変革を求めている新しい動きだ。

 トランプ大統領は人種差別による犯罪を非難せず、抗議デモを極左・テロ集団とよび、軍隊で鎮圧すると演説し、制度的人種差別を擁護して厳しい批判にさらされた。

 マーティン・ルーサー・キング牧師が人種差別のないアメリカ社会建設を求めた公民権運動から60年経過しても、「黒人」差別が根強く残っている。しかし、公民権運動は黒人の人種差別だけでなく、先住民族、移民、LGBT、女性の権利拡張運動として展開されて成果をあげてきた。奴隷制や植民地支配の歴史をさかのぼって人種差別の原因を明らかにし、制度的人種差別の解決をはかろうと包摂的な多文化主義の実現にとりくんできた。

 2014年、国連・人種差別撤廃委員会はアメリカ合衆国の定期審査で、マイノリティにたいする法執行官による過剰な力の行使に懸念を表明し、とくに人種プロファイリングを根絶するように勧告したが、十分には実行されていない。しかし、変化がおきている。6月15日、最高裁は差別を禁止した「公民権法」第7編にある\_c12070性\_c12071にLGBTはふくまれる、したがってLGBTにたいする雇用差別は違法であるとする画期的な判決を出した。しかも保守派対リベラル派が5対4の構成である最高裁が、3対6で違法とした。トランプ大統領はこの数日前にLGBTを健康保険から除外する決定をしたばかりだ。保守派対リベラル派では説明できない新しい社会のあり方を求める動きである。

 国内でも制度的人種差別は存在している。マイノリティが声をあげなければ人種差別はないことになってしまう。声をあげれば「差別ではない」「日本から出ていけ」と否定的に扱われる。法務省の「外国人住民調査報告書」(2017年)では、外国人であることを理由に入居を断られた(39・3%)と住居に関する権利が保障されていない実態がある。パーソル総合研究所(2019年)の調査では、正社員の外国籍者の給与は日本国籍者より4・6万円低い。就職活動で日本国籍取得者であっても外国人お断りといわれたり、頻繁に警察官に職務質問される在日外国人の訴えは多い。人種プロファイリングである。血統主義を重んじる日本社会で多民族共生社会を標榜するのであれば、戸籍制度による外国籍者排除の歴史や植民地支配による内地人・外地人の差別を制度的に埋め込んできた歴史を学び直し、制度的人種差別に向き合い、克服すべきだ。

 IMADRの総会が6月19日、国内とジュネーブとスリランカをつないでリモート会議で開催された。対立と分断をこえて連帯のネットワークを求めることを確認した。国連での「人種プロファイリングの予防と根絶」に関する一般的勧告36の作成に関与していく。草の根運動と国連人権システムをつなげ、人権理事会、人種差別撤廃委員会に関する情報を共有し、世界の水平運動の一翼を担う。

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