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主張

 

部落解放・人権政策確立に向けて各地の闘いを強化し、
包括的な人権救済制度を実現しよう

「解放新聞」(2020.10.25-2969)

自由民主党政務調査会のもとに設置されている差別問題に関する特命委員会と部落問題に関する小委員会との合同会議(6月15日・東京)

自由民主党政務調査会のもとに設置されている差別問題に関する特命委員会と部落問題に関する小委員会との合同会議(6月15日・東京)

 菅内閣が9月16日に発足した。持病の悪化を理由にした安倍首相の退陣を受け、その安倍政権を継続するとして、閣僚も留任、横滑りや再任などが多く、「安定性」を重視したとの報道もある。しかし、総裁選でも強調していたように「自助・共助・公助」として、なかでも「自助」を前面に打ち出す新自由主義的な考え方を基調にしているのが菅政権の政治姿勢である。

 しかも、菅首相は携帯電話料金の値下げや、デジタル庁の創設、押印廃止をすすめるなど「身近なテーマ」をとりあげているが、日本学術会議が推薦した会員候補のうち6人の任命を拒否するなど、学問や研究の自由に介入する憲法違反の強権的な政治をすすめようとしている。

 さらに、2021年度概算予算要求でも、防衛省の軍事費概算要求は、過去最大の約5兆5千億円となり、日米軍事同盟の一体化のもと、これまで以上に軍拡路線をすすめることが明らかになっている。とくに、憲法違反の「敵基地攻撃能力」保持につながるステルス戦闘機や長距離巡航ミサイルの導入経費を計上するなど、安倍政権以上に、米国への一方的な追従の姿勢を鮮明にしている。

 しかし、現在の政治的な最優先課題は、新型コロナウイルス感染症拡大に対応する医療体制の整備や、感染症で大きな影響を受けている中小企業への経済支援の充実である。また、感染症拡大による解雇や雇い止めを受けた非正規や派遣労働者への生活支援など、いのちと生活を守る施策を充実することが第一に求められているが、菅政権の「自助」を強要する政治姿勢では、すべてが自己責任とされてしまっている。

 われわれは、こうした菅政権の姿勢を厳しく批判し、感染症拡大対策を優先させ、誰ひとり置き去りにしない政治への転換を強く求めていこう。いのちと生活を守る闘いをすすめる部落解放運動の果たすべき役割はいっそう大きくなっている。

 人権と平和、民主主義の確立をめざして、差別と戦争に反対する闘いをすすめるとともに、部落解放行政・人権行政を大きく前進させるために、全国でのとりくみを強化しよう。

 感染症拡大の影響で、例年5月と10月にとりくんできた中央集会、国会議員要請などの行動を中止してきた。政府各省交渉も統一した日程ではなく、規模なども工夫しながらのとりくみになっている。こうしたなかで、各地の実行委員会の活動とも連携しながら、中央実行委員会としても全国的なとりくみを集約し、情報発信をすすめていきたい。

 とくに、この間の「部落差別解消推進法」の具体化に向けた条例制定のとりくみなどでは、都府県、市区町村での制定状況や、「部落差別解消推進法」の周知をすすめる活動など、全国の動向をあらためて集約し、今後の運動の強化につながるように、課題を整理するなどの作業をすすめる必要がある。また、法務省が昨年8月に実施した「一般国民に対する意識調査」など、「部落差別解消推進法」第6条にもとづく部落差別の実態に係る調査については、すでに調査結果報告書が法務省のホームページなどで公表されている。われわれもこの報告書をしっかりと分析し、部落解放行政を推進させていくための今後の施策を要求していかなければならない。

 「部落差別解消推進法」第6条にもとづく実態調査は、法務省が把握している部落差別事例、自治体や教育委員会が把握している部落差別事例、インターネット上の部落差別情報の集約とともに、「一般国民に対する意識調査」が実施された。これらの実態調査をまとめた報告書について、法務省は、本年6月の自民党部落問題に関する小委員会で概要を報告、法務省人権擁護局長は、国民意識調査結果について、部落差別は不当な差別であると認知しているにもかかわらず、一方では交際や結婚相手についての偏見や差別意識が依然として残っているとの所見を明らかにしている。

 さらに、インターネット上の部落差別情報についても、鳥取ループ・示現舎などの被差別部落の所在地情報の掲載を念頭に、こうした情報へのアクセスや閲覧が差別意識を助長するものであるとしている。報告書にもとづく法務省の部落差別の実態に関する認識について、今後、国会審議などでさらに具体的な内容を明らかにさせ、実効ある施策の確立に結びつけていくことが求められている。

 2016年12月に公布、施行された「部落差別解消推進法」は、これまでも強調してきたように、部落差別撤廃に向けた基本方策を明らかにしたものである。インターネット上の部落差別情報の氾濫など、高度情報化時代のなかでの新たな状況だけでなく、今回の調査結果報告でも指摘されているように、交際や結婚にさいしての部落差別意識の存在もいまだに深刻な課題になっている。

 とくに、高い年齢層では「すでに部落差別はない」、若い世代で「いまだに部落差別が存在する」という回答が多かったが、かつてのような露骨な部落差別がなくなったことから、高い年齢層でこうした調査結果になったと推測される。ただ、実際の交際や結婚にさいして、強く反対するのも親世代のこうした年齢層である。調査結果では、部落問題への正しい理解が求められる高い年齢層で、研修・啓発事業への参加の割合が低く、これまでの研修・啓発の手法、内容の見直しが迫られている。

 また、「部落差別解消推進法」施行から4年が経過しているが、この法律の周知については、調査結果報告でもその認知度が低い。今後とも、法務省や自治体が積極的に法の周知にとりくむことが求められる。さらに、地方法務局などの人権相談機能の不十分性も明らかになっている。人権擁護委員制度の改革とあわせて、人権相談にあたる職員の専門性、資質の向上なども重要な課題である。

 このように今回の調査結果によって、部落差別の今日的な実態と今後の施策の必要性が明らかになっている。ほかにも、インターネット上の部落差別情報への対応策や、今後の都道府県段階での意識調査のとりくみへの財政支援、相談体制の充実をふくめて、施策の推進に向けた地方法務局と自治体の連携の仕組みづくりなど、多くの課題がある。

 われわれは、今後のとりくみをさらに推進するために、「部落差別解消推進法」施行から4年間のとりくみの成果、とくに全国的な条例づくりなど、運動の到達点を総括し、具体化、活用の実践を全国的に共有していくことが重要である。また、「障害者差別解消法」「ヘイトスピーチ解消法」「アイヌ施策推進法」など個別人権課題の法制定にとりくんだ運動との連携を深めるとともに、そうした共同の作業をすすめるなかで、包括的な人権救済制度の実現に向けた展望を大きく拡げていこう。

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