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インターネット上の部落差別をめぐる現状と課題

「解放新聞」(2020.11.05-2970)

 IT(情報技術)革命の進化によって社会は大きく変貌している。私たちは大きく変化した社会のなかで部落差別をはじめとする差別撤廃と人権確立運動を前進させなければならない。これまでと同じような運動スタイルでは、今日の課題を解決することはできない。とりわけネット上の部落差別は暴発状態といっても過言ではない。

 時代をこえて生き残る組織は、強い組織よりも原則を堅持しつつ時代に柔軟に適応した組織である。それができなければ部落解放運動は衰退する。それは社会全体にとって大きなマイナスである。運動が成し遂げなければならない課題は山積しており、そのもっとも重要な課題の一つがネット上、電子空間上の部落差別や差別煽動等の問題を克服することだ。

 部落解放運動が今後とも差別撤廃・人権確立という重要な社会的責任を担っていくためには、それを担う人材の確保と育成が必要である。情報化の飛躍的な前進のもとで、ネット空間を駆使して部落解放運動をすすめられる技術や知識をもった人材である。あわせて政策立案能力と政治的センスも求められている。そうした人材が各都府県連に少数いるだけで運動の各分野のとりくみは大きく前進する。

 全世界の多くの人権NGOはインターネットを駆使して、多様な情報を収集・分析・発信し、世界のあらゆる機関に多くの影響を与えている。世界の政治的変化の多くにネット情報が関係しており、世界の政治的変革においてもインターネット上を飛び交う情報が圧倒的な影響をおよぼしている。私たちはこうした時代の変化に十分な対応ができていない。

 21世紀に入った頃から電子空間上で情報爆発ともいえる状況を生み出した。いまや各国もサイバー統合軍(電子軍)を創設する時代に入っている。

 日本でも同様である。ネットでよびかけられた一部の若者が、ヘイトスピーチをおこなうデモに参加するという現象は日常的なものとなった。運動も日び、差別情報との闘いをくり広げている。私たちも多くの関係機関と協力してインターネット上で差別思想と闘っている。しかしきわめて不十分だ。

 インターネットの普及によって、運動も差別事件の態様も大きく変わったように、これからは人工知能(AI)の進化によって、さらに大きく変わる。そうした時代の変化に対応できなければ、運動の影響力は大きく低下する。逆に時代の急激な変化を活用することができれば影響力は拡大する。いま、その分水嶺である。改革をしなければ間違いなく影響力低下の方向に流れていく。すでに分水嶺は間近に迫っている。もし私たちがそれに間に合わなければ、平和と人権から戦争と差別の時代に大きく変化する。

 その顕著な事例が全国の被差別部落の所在地をネット上でさらしている差別煽動ともいえる鳥取ループらのきわめて悪質な行為だ。示現舎のブログでは「部落探訪」と称し、隣保館や教育集会所、公園、改良住宅だけでなく、墓石の個人名、部落の寺院名(寄付者名)、個人宅の表札や商店、食堂、理容室・美容室、工場などもネット上にさらす行為をくり返している。

 鳥取ループらの行為が放置されている状況が続くことで、同和地区情報のさらし行為など差別のハードルが下がり、彼らの主張や行為に影響を受けた若い世代が類似行為をおこないはじめている。2019年1月には、佐賀県の10代の若者が『全国部落調査』復刻版のデータを使い、示現舎が指南した方法(オンデマンド印刷)で製本した本を3冊販売する事件がおきている。このほかにもネットを駆使して多様な手法で差別が拡散されている。

 本年6月には、ネット掲示板「5ちゃんねる」に「みんなで部落を殺そう」とのスレッドが立ち「あなたが住んでいる町内に部落民はいませんか?よく確認してみましょう」と、鳥取ループがばらまいた「同和地区と関連する人名一覧」(市町村別の部落民の苗字リスト)のリンクが張られた投稿がおこなわれ、掲示板には「穢いからみんなで殺そう」「人間のフリしてるヨツ猿は、保健所のガス室に送り込んで皆殺し」など、個人を特定し、ヘイトクライム、殺害が煽動されている状況がおきている。これらは私たちのとりくみや多数の違反通報により9月中旬、「5ちゃんねる」管理人によって削除された。まさに「全国部落調査」というネット上の「部落地名総鑑」が、多くの差別煽動につながっている証である。

 「部落差別解消推進法」第6条にもとづき法務省が4つの調査を実施したが、部落差別の実情を把握する観点からはきわめて不十分で分析視点も問題の多い内容だ。それでもネット上の一部の問題点は明らかになった。そうした結果からネット上の差別情報に関連したおもな課題は、ネット上の部落差別に的確に応じる体制の整備やモニタリングのとりくみの支援が求められているということだ。また被差別部落の所在地情報が差別調査に悪用されている現実が明らかになった。条例での規制では不十分であり、ネット上でおこなわれているデジタル差別身元調査行為の各種規制が求められている。

 さらに新型コロナウイルス感染禍にあって、それらと関連させた「エタコロナ」などの投稿をはじめ、「エタ」「よつ」をもちいた投稿がこれまでで最多となった。こうした現状をふまえてモニタリングに関する課題も明確になっている。モニタリングを実施している機関においても削除基準の有無、実際の削除率、利用規約の差別禁止規定等の関連する課題解決もいまだ途上である。これまでの総務省のとりくみをふまえ、プロバイダ業界団体が「契約約款」の解釈変更をおこなったことによる削除依頼へのプラスの影響も、期待していたほど大きなものにはなっていない。法務省の依命通知「インターネット上の同和地区に関する識別情報の摘示事案の立件及び処理について」(2018年12月27日)が出されたが、部落差別投稿への抑止や解決に寄与しているとはいえない状況が、モニタリング団体を対象としたアンケート調査の結果から明らかになった。

 以上の状況をふまえたうえで、具体的なネット上の差別情報や差別煽動情報への闘いの重要な課題として、①可能な都府県連、支部からネット上の部落差別を監視し、削除を依頼するモニタリングにとりくむ。②インターネット差別情報プロジェクトでそのためのマニュアルを作成し学習会を開催する。③投稿者が不明な部落差別情報について、情報開示請求のとりくみや支援方策を検討する。④モニタリングの結果を集約、分析し、自治体にもモニタリングにとりくむよう働きかける。⑤モニタリングの結果を集約・分析し、法務局へ削除依頼を求める。そのさい、都府県連や支部を支援する。⑥人権擁護委員にネット上の部落差別の現実を訴え、人権擁護委員連合会としての見解を求める。⑦フェイスブック、ユーチューブ、ツイッターなどの自主規制のとりくみに部落差別問題が明確に位置づくよう働きかける。最後に⑧部落解放・人権研究所の「モニタリング団体ネットワーク会議」に参加し、下記の課題について検討をすすめる。第1にとりくみの交流や情報の交換をすすめ、第2にネット上の部落差別の実態を把握し、第3に削除実績や削除ノウハウを蓄積し、第4に削除できない情報や原因を分析し、第5に政府への要望をとりまとめ、第6に削除基準について検討していく。

 これらの具体的方針を早急に推進していかなければならない。

 

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