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人権週間に寄せて−マイノリティへの制度的差別解消を−

「解放新聞」(2020.11.15-2971)

 国際連合は、人権の例外とされたマイノリティへの人権侵害を「根絶すべき社会悪」とし、マイノリティの人権保障を人権諸条約に結実させた。「世界人権宣言」にはじまり、「国際人権規約」(自由権規約・社会権規約)、「人種差別撤廃条約」「女性差別撤廃条約」「難民条約」「子どもの権利条約」「障害者権利条約」などを採択。「世界人権宣言」採択日の1948年12月10日を「人権デー」とし、「すべての人は例外なく」人権が保障されることに思いをはせる日とした。人権諸条約に示されたマイノリティ重視の「新しい人権概念」を国際人権基準として各国に定着させる努力をしてきた。

 しかし、国際法の人間の平等原則は、国境線内のマイノリティに届かず、国連は、各国の社会的不正義と闘うマイノリティの運動と連携し、国家の法律と制度によるマイノリティへの制度的差別の不正義を人権の普遍性にもとづいて告発してきた。人権諸条約批准を通じ、「新しい人権概念」を国際人権基準として国境線内に浸透させ、マイノリティへの人権侵害を生む制度的差別の是正を続けた。条約を批准(加入)した日本は、憲法第98条で条約を履行する義務がある。条約は憲法に次ぐ国内法。制度的差別を支える国内法は条約違反として改正が求められる。法律改正で制度的差別は終了し、多様性を認める共生社会に向かう。

 明治政府は、北海道を「無主の地」として侵略し、植民地支配した。1899年、「北海道旧土人保護法」でアイヌ民族への同化政策を強制し、土地や資源の権利を収奪した。北海道ウタリ協会(のちの北海道アイヌ協会)は1984年「アイヌ民族に関する法律案」を公表し、制度的差別を生む法律の廃止と新法制定を要求した。アイヌ民族の要求を受け、政府は伝統文化に絞って97年「アイヌ文化振興法」を制定した。国連の「先住民族の権利宣言」を受け、2019年「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)が成立、「北海道の先住民族であるアイヌ」と書き込んだ。先住民族と認めることは当然、先住民族の権利(土地権や資源権、文化権そして民族自決権)を承認し、制度的差別を終わらせることである。しかし、同法は先住民族の権利に言及していない。

 世界の先住民族の闘いの結果、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(「権利宣言」)が採択されたのは07年。日本政府も賛成し、アイヌ民族への制度的差別を解消する国内法整備の義務を負った。「権利宣言」は、先住民族の集団としての先住権や自決権を認めている。しかし、政府は先住権や自決権をもつアイヌ民族の集団は存在しないとの見解を基本姿勢に、アイヌ民族の先住権を認めない。遺骨返還問題でアイヌ民族と政府が先住権をめぐり対立。アイヌ民族の墓地を無断で盗掘し、人骨や副葬品を研究室にもち帰った人類学者たち研究者が、誤りを追及され、謝罪し、12の大学に保管している遺骨を返還することになった。アイヌ民族側は「墓地に埋葬した死者は、埋葬してあったコタンでイチャルパ(慰霊)を行って、コタンで管理する」とアイヌコタンの先住権を主張する(「権利宣言」12条)。政府は、封建的家制度をもたないアイヌ民族に「家の祭祀継承者に返還する」とし、祭祀継承者が不明な場合は「民族共生象徴空間」(通称ウポポイ)のはずれに建設された慰霊施設に保管するとした。慰霊施設に保管すれば、許可を得てふたたび研究材料に使用できる。制度的差別の解消には「権利宣言」にもとづき、先住権と自決権を保障した法律が求められる。

 日本の「難民条約」加入(81年)はベトナム戦争終結時のインドシナ難民の大量発生に由来する。難民受け入れに消極的だった日本は、国際社会に押されて難民の定住者を引き受けた。そのためには外国人への制度的差別解消が必要だった。日本の「国籍法」は出生地主義をとらず血統主義。外国人を戸籍制度から排除し、戸籍に記載されない外国人は、雇用、教育、結婚、社会保障制度など社会生活上、国籍条項で制度的差別を受けた。公営住宅や国民健康保険、児童手当などは「日本国民」を要件とした。インドシナ難民の定住へ、国籍条項を撤廃し、「日本に居住する住民」に「内外人平等の原則」で施策をすることになった。外国人排除政策が転換されていく。

 第2次世界大戦に敗北した日本が締結した「平和条約」が52年に発効した。植民地政策で「日本国民」とされた旧植民地出身者は「日本国籍」を喪失した。国籍選択の自由は保障されず「日本国民」だった朝鮮人・台湾人が突然外国人とされ、雇用・教育や社会保障制度などから排除された。制度的差別が生まれる瞬間だ。外国人として国籍条項での差別的排除が続くが、「難民条約」加入後、「出入国管理令」が「出入国管理及び難民認定法」に改正され、在日朝鮮人・韓国人の国籍問題も大きく転換された。「日本国民」に限定された施策が「日本に居住する住民」に転換され、国籍条項の撤廃は大きかったが、すべて「内外人平等」になったわけではない。たとえば、旧日本軍人軍属に補償する「戦争犠牲者援護法」からの排除、国民年金からの排除期間による加入資格不足で、加入が認められても受給資格がない無年金、依然「生活保護法」に残る国籍条項など、制度的差別が継続している。国籍による差別を撤廃し、無年金者を救済する経過措置が必要だった(08年、自由権規約委員会最終意見)。

 日本国民に限定する時代は終わった。これからは少子高齢化、グローバル化、多くの移住労働者と共生する時代。「日本に居住する住民」として、多様性を認め、「誰一人取り残さない」社会を実現することだ。

 19年6月、長崎・大村入国管理センターに収容中のナイジェリア人男性が餓死した。仮放免申請中で、3年7か月もの長期間収容への抗議のハンガーストライキ中だった。事件後も、各地の収容施設で被収容者がハンガーストライキをしている。被収容者の自殺未遂などもあいついでいる。難民認定申請者が不安定な状態に長期間置かれていることが背景にある。法務省・入管は、「収容・送還に関する専門部会」を立ちあげ、20年6月に報告書をまとめた。日本は難民認定率が異常に低く(19年は0・4%)、国際水準とかけ離れた認定基準、審査方法、申請者の処遇の現状に問題があるのに、さらに難民認定制度を劣化させる(難民認定申請者を犯罪者とする法改正)報告書だ。「難民条約」では難民認定者や難民認定申請者には「ノン・ルフールマン原則」(迫害の恐れのある国への追放及び送還の禁止)が適用される。迫害の恐れのある国に強制送還できないため、長期収容を継続したり、仮放免して生活困窮に陥れたり(就業禁止)、精神的に追い詰め、「自発的に出国」させることをねらっているとしか思えない。出入国在留管理庁が難民申請を受け付け、認定審査、収容、送還のすべてを担うのではなく、難民不認定の場合、在留管理庁以外の組織が不服審査を受け付け、条約の示す国際基準にもとづいて難民の生活を保障するなど、制度的差別の解消をはかる必要がある。

 国家による制度的差別にたいし、マイノリティはいくたびも裁判で闘ってきた。国際人権諸条約のマイノリティ重視の「新しい人権概念」にもとづき、国内法による制度的差別解消が求められる。「パリ原則」(93年)にもとづく国内人権機関―政府から独立した人権委員会を設け、条約の国際人権基準で人権侵害や制度的差別を監視し、必要なら勧告や政策提言をして制度的差別解消をはかること。「設置に向けた前進が極めて遅い。速やかに人権委員会設置法案の検討を再開し、採択を早めること」(14年、人種差別撤廃委員会総括所見)など各条約委員会の勧告が続いている。「人権週間」に、すべての人が例外なく人権が保障され、多様性を認め合う社会を構築する道筋に思いをめぐらせたい。

 これらの具体的方針を早急に推進していかなければならない。

 

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